第13話 出動
「あの女の子も目覚めたし、動くか」
「今日は研修中止になるって連絡きたのよ。おそらく今管理センター滅茶苦茶ね」
ミナミコアリクイや他のハンターのフレンズ達と話していたら日が暮れてしまったのだが、なんとそのまま泊めてくれたおかげで快適に一晩を過ごすことができた。
すぐ近くでフレンズが寝ているという素晴らしすぎる状況で脳みそは興奮状態だが。
新聞やニュースは全て誘拐事件を取り上げるようになった。パーク開園依頼の大事件だとか、管理業務の大失敗だとか、ボロクソに書き立てて騒いでいる。歩いていればカメラを持った人間に絡まれるし、森に至ってはあちこちマスコミが歩き回って血眼でスクープを狙っている。
こいつはかなりやばい。
「おい変態研究助手」
「ボロクソだな、女」
「あん時言ってたスズってこの子のことだろ? ほら見ろよ」
眼前に突きつけられた携帯の画面には、建物のガラスを蹴破って逃げ出すスズの姿と共に『監禁されたアニマルガール 怒りの報復か!?』と書かれた日刊紙の記事が映っていた。
スズの存在は俺含め数人と管理センターの人間しか把握しておらず、スズの脱走を予測して張り込んでいたようなアングルで撮影したことを鑑みると、誰かスズの接触した勘の強すぎる一般人が垂れ込んだとしか考えられない。
「フレンズがこんなことすんのかよ、おお!?」
「普通はしない。普通はな……」
人に化けて謎の勧誘をしたり俺たちを襲ったりしたことを考えると少なからず疑ってしまう自分が居たが、なんとか心の奥にしまい込んだ。
疑っちゃ駄目だ、あの子は違う。
俺が考え込んでいると、女の子がわざとらしくため息を付いた後かなり強めにどついてきた。
「テメーはよぉ、フレンズちゃんは可愛いからこんなことしねぇなんて甘いこと考えてるんじゃねえだろうな」
「悪いがそう考えている。俺は実際に会って、顔も見て話もした。見たこと無いような悲しい顔をしてたんだよあいつ」
額に青筋が走る。
「年端も行かねぇガキが一人連れ去られてんだよ! ええ!? 親に会えず泣いてるガキの前で同じこと言えるんか! 馬鹿が!」
同僚にヤクザ口調でこっぴどく説教されてしまった。まるで恫喝のような説教の迫力に驚いたフレンズ達がこっそりと自分の部屋に避難していく。
だが正論だ。考え方が甘かった。
「そうだな……すまん、最悪のシナリオもちゃんと考えておく」
「もう一度同じこと聞こえたらくたばるまでどつき回してやる」
「ねえ、そういえばミナミコアリクイちゃんに聞いたお話、話してあげたら?」
「すっかり忘れてた。とりあえず聞いてくれよ、なぁ」
腕も足も組んだまま睨みつけてきた。俺は構わず続けた。
「まず、ミナミコちゃんは連れ去られた子とその兄弟と遊んでいた。そしたら急に太った男がやってきて、なにやら叫び始めたらしい。その次の瞬間には白い影が目の前を通り過ぎて、妹が居なくなっていた。太った男はミナミコちゃんと上の子に何やら叫んで消えたらしい」
「何言ってたのかは?」
「かなり怖くてよく聞き取れなかったって。まあ怪我がなかっただけマシだ」
「その太った男の人って誰なのかしらねぇ。背もオオアリクイちゃんより大きかったって言ってたけど」
「ここらへんに配属されてるスタッフに太った男は居ないから、客だと思う。オオアリクイ以上なら170代は確実だな」
「それだけかよ」
「みんあぁ、思い出したことがあるんだよぅ」
両手を上げて威嚇しながらミナミコアリクイがやってきた。先程女の子が怒鳴ったので起きてしまったようだ。
「あ、あのね? 何故か言葉の最後に『お』って付けるんだぁ。怖かったんだけど不思議な喋り方だったんだよぅ」
「おぉん?」
この女の子が言うとヤクザの威嚇になってしまう。
しかし語尾に『お』を付けるやつといえば、身に覚えがある。ありすぎる。
「~~だお! 嬉しいお! お、お、おっおっおっおっ! こんな感じかな」
「……ヒデちゃん?」
「おい、そのキモい喋り方今すぐやめろ」
どうかな、ミナミコちゃん。
「そんな感じっ……! すっごく似てるよ」
「そうか。じゃあ身に覚えがあるが、そいつは捕まって取り調べを受けてるはずなんだ。お前らは知らないだろうが、管理センターにクレーム入れて暴れたせいで捕まった5人組の馬鹿な客がいるんだ。だが捕まってるってことはそいつらじゃない。1から考えるしか無いな……」
しかしいくら考えてもそれらしき答えは出なかった。今も女の子が捕まってると思うと焦って冷静に考えられない。
「パークが会見を開いているそうよ……子供のお母さん、泣いてるわ」
「被害者の感情なんか関係なしにメディアが騒ぎ立てやがる。さあどうする変態。決めないならウチが決めっからなぁ」
俺は、俺らだけでは
「無理だ」
「あぁ?」
「ええ!?」
「だからハンター達に協力してもらう。女、お前も大事にしてられないなんてもう思ってないだろ? 丘も協力してくれるか」
二人共素直に頷いてくれた。
俺も覚悟を決めて立ち上がった所で、既にハンター達が準備していることに気づいた。
「どうなってるんだ」
「どうにも何も、私達があの話を黙って聞いているだけとも思った? 心配してくれてたようだけど、私達のほうが強いよ。サイキョーだからね」
ヒグマが熊手ハンマーを素振りして恐ろしい音を立てている。
「女の子が居たから心配だったけど、度胸あるみたいじゃないか」
「あのヒト、飼育員らしいですよ」
「私を飼育するならああいうヒトが良いな! まいいや、行こうか、ドール、リカオン、キンシコウ」
「4人で行くのか」
「ああそうだ。ヒトが捕まってるなら目立ちたくないし、リカオンとドールに斥候を任せて後から私とキンシコウが行くよ。君たちヒトには面倒事を任せるから」
ヒグマが地面を熊手で思い切り殴打し、同行するハンターに声をかけている。
随分と気合の入ったルーティンだ。
「じゃ、出発だよ」
途端にドールとリカオンが走り出した。イヌ科の二人は動物のときも早く走るが、フレンズ化して人の姿とサンドスターの加護を手に入れた後は自動車を軽く追い越す速さで走ることができる。
2つの土煙が森に消えると、キンシコウとヒグマがこれまた自動車並みのスピードで飛び出していった。
「うわ、キンシコウすげえなぁ。まるで孫悟空だ。いやそれ以上か? 空飛んでるみたいだな」
「ヒグマちゃんもすごいわねぇ、あれ70キロくらい出てるんじゃなぁい?」
「感心してる時間はないぞ。俺らは面倒事担当だ」
遅れを取らぬようにすぐに出発した。
それからしばらくして、見送るミナミコアリクイの声が聞こえなくなった時、俺は一つ気づいてしまった。
「なあ、女」
「んだよ」
「体力すごすぎないか? さっきから息切れ一つしてないけど」
「そうよ、ちょっと、あたしなんか、ハァ、より、強いじゃないっ!」
「お前らと違う」
女の子が走りながらも、横目で睨みつけてきた。
この目つき、見覚えがある。繁華街でタカのファンクラブのメンバーと歩いていたときに絡んできた女のヤクザと同じ目だ。数年前にかなり年上だったので別人だが、荒波に揉まれ続けた末に何かに気づき、達観したような視線。同じだ。
ちなみに絡まれたと言ってもカツアゲとかではなく、迷っていた所を助けてくれただけだ。別れ際に鯉の刺青と第一関節から先がない小指に俺だけが気づき、その女がヤクザだと分かった。
「今はフレンズが優先だろ」
「そうだな。この話は後で……」
「おん?」
「こんな会話、パークならではねぇ……」
さすがに前科のあるものは居ないが、癖者が結構多い。俺も自分自身まともだとは思っていないし、まともな人間はこの過酷な環境で仕事などできないだろう。
「今ヒグマの声がした。もうすぐだ」
「いいか? フレンズだろうが人だろうが、ふざけた理由で人攫いなんてすんなら数回引っ叩いて叩き直す。覚悟はある。オカマも止めるなよ」
「俺が出来なかったら頼む。……最悪のシナリオも想定してるさ」
フレンズを引っ叩くなんて生まれて始めて聞いたが、この女の子は本気だ。
だが俺は甘かった。もしあの時言ってくれなかったら、問答無用で俺と誘拐犯を一緒に鉄拳制裁だっただろう。
いやしかし、今変態とオカマと元筋物?が並走している。なんと恐ろしい場所なんだ……
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