第12話 無罪の証明

「パークのこと何も知らないくせに、また訴えられて潰れれば良いんだよこんなの」

「そうねぇ、この日刊紙あたしも好きじゃないわ」



 丘があのときの飼育員志望……いや、無事飼育員となったあの女の子が丘と話していた。オカマ特有の社交術があるのか、丘は気の強そうな人とも仲良くなってしまう。


 クラスに一人は居る、好かれ者タイプの人間だ。



「それ、週刊誌だった時代に強引な取材で芸能人怒らせて、襲撃されたらしいぞ。笑えるよな」

「それ半世紀以上前の出来事じゃん。脳みそアップデートしたほうが良いよ」

「あんまり好きじゃないけれど長く続くのすごいわね」



 女の子が読んでいるのはエブリデイとかいう日刊紙だ。有名人を隠し撮りして熱愛報道をしたり、この間は飼育員とフレンズとの禁断の恋とかいうスクープを出した結果カコさんの逆鱗に触れたりしている、いわばゴシップの固まり。


 その日刊紙が今日、『ジャパリパークでフレンズが女児を誘拐! 暴走した母性本能』なる記事を出し様々なメディアで取り上げられていた。


 AVみたいな題名だな。



「でもそろそろ暴れすぎ。いざとなったら止めるよう言われてきた」

「だから朝4時に来やがったのか。この非常識女め」

「軽口叩け無いようにしてやろうか」



 女の子がボタンの付いた機械を取り出してこれ見よがしに見せつけてきた。まるで防犯ブザーを見せつけるクソガキのようだが、だいたい同じような意味なのだろう。


 一瞬ヤクザのようなオーラ?の片鱗が見えた。こいつ、学生時代はグレていたのかもしれない。


 しかし俺はふざけ半分ですり足を使って派手に距離を詰め、ボタンを掠め取って元の位置に戻った。

 普通に奪い取れてしまった。距離を詰めたときの驚いた顔もたまらない。



「……」

「……てめぇ」

「その歩き方は怖いわ~やだ~」



 丘が俺の手からボタンを抜き取り、そっと女の子に手渡した。



「まいいや、今日はフレンズに協力してもらうことにする。今からセルリアンハンターの事務所に行くぞ」

「確かにヒグマちゃんなら何かあっても頼りになりそうだけど、この子に通報されちゃうんじゃない?」



 さっきの余計な行動のせいで完全に敵対してしまった。



「いや、あの事務所は情報も集まる。スズが捕まえてた女の子が遊んでたフレンズと会えれば終わりも同然だ。無罪さえ証明できれば良いんだ」


「スズ? スズって誰だ今すぐ教えろ」


「あらー怖い。3年目のカップルみたい。ちょっとマンネリ化してきて、外で別の女の子と飲んだことを問い詰められるの! ……二人共そんな目であたしを見ないで、お願い」





「まだ、まだ歩くの……ちょっと無理……」



 事務所に一番近いバス停で降りてから10分ほど歩いていると、早速女の子が弱音を吐いた。それもそうだ、事務所のある場所はジャングルのように湿度も温度も高く、



「いやぁぁーー!」



 虫も多い。



「ここらへんは野生動物も出るから気をつけろよ。トラとか蛇とかな。ああもちろんフレンズじゃないほうだ」

「変なこと言うなよこの馬鹿! アホ!」

「無理!! 助けて!!」


「二人共止まれ。へb……ああ、ちょっと止まったほうが良いぞ。色々あってな」



 気づいてよかった。進行方向の木の枝び緑色の蛇がぶら下がっており、風で振り子のように揺れながらこっちを見ている。


 パニックになられると面倒なので俺が立ちふさがって隠していたが、丘が見てしまった。目を見開いて凝視したので叫ぶと思い身構えたが、杞憂だった。



「あれはブームスラングね。南アフリカに生息してて、アフリカーンス語で木の蛇って意味なの。細長いのに大きな目が正面にあってスタイル抜群で、そのおかげで人間みたいに距離を測ることができるのよ! ちなみに毒蛇よ」


「か、かか噛まれたらどうなるの」


「毒の周りは遅いから猶予はあるけど、ちゃんと処置しないと色んな所から出血して天国にいけちゃうわ」



 女の子が泡を吹いた。しょうがないので俺が背負うことになった。


 しかし俺が背負おうとしたときに木の枝を踏んでしまい、その枝の端っこがブランコのように上がってブームスラングのいる枝を強打してしまった。驚いた蛇が地面に落ち、のたうち回った後俺を睨んだ。



「普段は温和だからあっちから仕掛けてくれることはないわ」

「今俺が仕掛けたっぽいぞ」

「じゃあ噛まれるしか無いわね! 大丈夫よ、血清ならあるわ。落ち着いて」

「くそ! 丘は虫苦手なくせに蛇だけ大丈夫なのかよ!」



 最悪なことに、周りに何匹ものブームスラングが集まってきていた。どんどんと俺に距離を詰め、温和なはずなのに皆俺に照準を合わせている。


 こんなところで蛇に噛まれて終わるのはゴメンだ。



「はいどいてどいて~」



 明るい女の子の声が聞こえたかと思うと、森の茂みから一人の女の子が飛び出して蛇たちを素手で掴み首に巻いていった。


 あっという間に全ての蛇を首に巻き終えると、丁寧に自己紹介をしてきた。



「私はブームスラングです! 驚かせちゃってごめんなさい」

「久しぶりだな、ブムスラちゃん。それよりどうしてそんなに蛇を集めてるんだ?」



 話を聞くと、フレンズの方のブームスラングが蛇の方のブームスラングを従えて警備をしているらしい。そして3人で移動したせいで怪しまれ、囲まれたと。



「とは言いましたが噛ませたりするつもりはありません。この子達も危険に晒しちゃいますし、ヒトは好きなので!」

「もしかして誰かの命令か? セルリアンハンターのヒグマならそういうことも言いそうだ」

「大正解です。もしかしてハンターさんに御用ですか? ちょうど例の誘拐された女の子と遊んでたフレンズも来ていますよ」


「おお!」

「当たりね!」




 ブムスラちゃんに案内されるとすぐにセルリアンハンターの事務所に到着した。見た目は普通の女の子なのに、所々蛇らしい動きで草の間を縫うように抜けるのがフレンズらしくて最高だ。


 一旦説明すると、セルリアンハンターとはフレンズからなる非公式のセルリアン殲滅部隊である。元はヒグマ、キンシコウ、リカオンの3人だったらしいがその強さに惹かれて集まったフレンズによって組織へと変貌を遂げた。


 人間のできない戦闘以外にも迷子探しなどの慈善活動も勝手にやってしまうので、管理センターも頭が上がらなかったりする。



「俺は研究助手になったヒデだ! ガイドの丘と、飼育員の女の子が一人いる。入れてくれないか」



 俺が叫んだ途端、事務所の屋根や周囲の木など、あちこちからフレンズが現れ俺たちを取り囲んだ。最後にドアからヒグマが飛び出し、熊手を俺の目の前に突き出した。


 俺が口を開こうとするとヒグマの熊手が更に近づき、ヒグマが低い声で喋りだした。



「何しに来た」

「誘拐事件を解決しに来た。他二人は付添だ。事務所に入れてくれないか」


「みんな入っていいよ。ごめんね、まさにその誘拐事件で警戒してるんだ」



 ヒグマは熊手を肩に乗せ、事務所に入れてくれた。


 内装はフレンズだけで作ったらしいが、2階建てのログハウスのようになっていてかなり広々として居心地がいい。



「誘拐事件の子供と遊んでたフレンズはどこに?」

「今休憩室で休んでいます。怪我はないですが、かなり落ち込んでるみたいですよ」



 キンシコウは快く休憩室に案内してくれた。


 ちなみに涼しい顔をしているがとてもエロい格好をしている。非常にエロい。キンシコウを収めた写真はそっち方面の方々がとても高く買い取るらしい。



「こちらです」

「ありがとう」


「あっちいってよう!」



 部屋に入るなり、フレンズが両腕を挙げて威嚇?してきた。


 可愛すぎるんだよな。それ。


 しかしいつもに増して力が入っていて、とても怖がっている様子だ。



「ミナミコちゃん大丈夫だよ。俺は研究助手のヒデだ」

「あたしパークガイドの丘よぉ」

「えっ……ヒト? ヒトなの?」

「ヒトだ」

「うっ、あっちいけよう!」


「これ、お土産だよ」



 殆どのフレンズの好物は知っている。この子はじゃぱりまんの芋ようかん味だ。大体のフレンズが好むジャパリまんを揃えてきて正解だった


 ミナミコアリクイはしばらく両手を上げて威嚇していたが、そっと手を伸ばしてジャパリまんを取って食べた。


 お腹が減っているのがバレバレだ。


 警戒されないようにそっと手を触れるとやはりまた威嚇されたが、言葉をかけながら手を握って体温を伝えたらすぐに落ち着いてくれた。



「それもほしい……」

「どうぞ」

「やったぁ」

「すごいわね。飼育員にしか見えないわ



 持っていた全てのジャパリまんを平らげると、ようやく警戒を解いてくれたのでここから俺のターンだ。



「聞きたいことがあるんだ。怖いこと思い出しちゃうかもしれないから、きつかったら言ってくれ。それ以上は聞かないから」

「ゆーかいじけんのことぉ? 別に良いヒトそうだし良いよ」

「よし! じゃあまずは……」



 ミナミコアリクイは時々詰まりながらも、森であったことを話してくれた。俺は質問しながら全て録音し、気になっていたことを全てぶつけた。


 結果として余計に謎が深まってしまったのだが。

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