第7話 女の子の真実
「あら、例のニュースよ」
画面の向こうのニュースキャスターが流暢に喋りだす。先日俺とタカを襲った女の子についての内容で、物的証拠が見つかったので本格的に調査を始め、また他の事件にも関係しているとかで指名手配されているらしい。一度捕まえかけたが逃げられ、おそらく日本の本島に潜伏しているとか。
「一安心ね。でも一応パークでもおまわりさんたちが張り込んで警備してくれてるらしいわ」
「そうなのか? そういや変な奴らがあちこちに居たな」
「えっ、どうしてわかるの」
「どっからどうみてもあいつら客じゃねぇ。守ってくれるのはありがたいがピリピリしてて嫌な感じする」
話していると母からの手紙が届いた。2枚分みっちり書いてあり、これからしばらく会えなくなるということだった。試験が終わって研修も終わり、正式に飼育員になったら祝いに来てくれるようだ。
今の時代にわざわざ手紙を書くのは母くらいしか居ないので、封筒を見ているだけでも落ち着くことができた。
「今日は最終試験の日だ。午後三時きっかり、研究所の第二実験室の前」
「いやいやガイドのあたしは明日よ。ヒデちゃんだけよ」
「じゃああの女と一緒だ。さっさと終わらせてくる」
余裕を演じたつもりだが、さすがに緊張してきた。胸が痛いし、腕の筋肉が緊張して凝り固まっている。
パークで就職する学生たちは皆6月からはじまる一般企業の就活をしていないので、もしダメだったらかなり面倒なことになってしまう。
それになにより、今日この一日に夢がかかっている。人生の殆どを捧げたパークに入社するかどうかがかかっている。
「俺は外の空気を吸ってくる。一人でな」
「分かった。いってらっしゃ~い応援してるわよ~」
「成人一人分で、あら! ヒデさん」
「奈々さん! ここで受付してるんですか」
「ちょっと人手不足なのでヘルプしてるんです。では、最終試験までごゆっくり~」
入り口をちょっと進んだ先の自販機の横で、椅子に腰掛けた。あの昼間っから何してんのかわからないようなオッサンがカップ酒を飲んで酔っ払っているようなガサガサの椅子だ。
あぁ~カフェオレまじぃ~~
ゲートをくぐっていく子供たちに見られたが、いまはそんなこと気にしない。少し頭を上げるとカップルや親子が前の前を通り過ぎていくのが見える。
ん。
ん!?
制服を着た女の子だ……そうあの女の子だ。帽子をかぶっているが白髪が見える。見た目は若いのに白髪。しかも周りの女の子より背が高く、色んな意味で浮いている。
おそらくあの子だ。あの時俺たちを襲った。
そして俺はどうしても気になることがある。今はまだ確信に至ってはいないが、確かめなければならぬことがある。
追うしか無い。今しかチャンスはない。通報してしまえば今すぐ警察が集まり確保するだろうが、そうしたら確かめる術が無くなってしまう。
……そういえばあの子が言っていたフレンド製薬の集まりは既に日にちが過ぎてしまっている。そのことも問い詰めたい。
もしも俺がまた襲われてしまったとしたら、その時はその時。
「あいつ受付で引っかかってるじゃん……」
「持ち物確認してもいいかな? あと学生証とか本人確認できるもの、持ってる?」
「名前は……ハルピュイア……シコルスカヤ……」
「えと、外国の子かな? 誰かと一緒に来たの?」
「うう……落とし物を……」
「あの、ちょっといいですか? その子友達の妹なので、大丈夫です。今外国から姉妹で旅行に来てるんですよ」
その後なんとかごまかし、パークに入場させることができた。
「ひ、人違い、よ……入れてくれてどうも……さようなら」
「ま、待って。今なにか困っているよね? 落とし物、だっけ」
「別に。お願い、どっかいって……」
その子は俺を置いて歩き出したが、歩きながらたまに目元を拭っていた。何回も、何回も。急に止まったと思ったら地面に這いつくばって何かを探している。そうしている間にも鼻をすすっているし、時々立ち止まってハンカチで顔を拭いている。
俺の気になっていることとは関係ないが、さすがに泣かれるとそれはそれで気になってくる。
「お願いだ、俺に事情を教えてくれよ。何か探しているなら協力する」
何も言わずに何かを探している。ゴミ箱を容赦なくひっくり返し、ベンチを動かし、何かをずっと、探している。
「おい君困るよ、ゴミ箱ひっくり返しちゃ。ちょっとお話いいかな」
パトロール中の警官だ。女の子が硬直し、警察が近づいていく。職務質問が始まって素顔を見られたら、間違いなくバレてしまう。
俺はわざとらしく叫び、警察が振り向いたところで思いついた言葉を適当に発した。
「さっき道で喧嘩してる人がいたぞ。かなり血流してた」
「報告ありがとう! できればその場で通報してほしかったな!」
警察官は無線機を取りながら急いで俺の指差した方へ走っていった。
「今のうちに逃げるぞ。ぼーっとしてると捕まるぞ?」
「えっ……どうして……」
「いいから」
人の居なさそうな森林を目指して走った。しばらくすると人の気配がなくなり、完全に森に入ったのでいい切り株を見つけて休ませた。
女の子は何も言わない。
実行するなら、今。
「あっ、おまわりさんが」
「!?」
「ごめんよ」
「なにするのよ!?」
俺は油断している隙に帽子を奪い取った。すると雪のように真っ白なセミロングの髪が顕になり、ただの女の子であることが伺える。
問題はここから。
俺は近くで拾ったサンドスターの結晶を鷲掴みすると、女の子の頭に擦り付けた。
「なにするの!? やめ、ああ、あああっ!」
「お前、やっぱり。予想通りだ」
擦り付けたサンドスターの結晶は、女の子の頭に一瞬で吸い込まれた。それと同時にふわふわと虹色の結晶が浮かび上がり、頭から生える角のような形をとった。すぐにそれは複雑な形に変わっていき、色も代わって最後には2つの真っ白で大きな翼となった。
頭から生える翼。これが何を意味するか。勘の良い読者ならもうお気づきだろう。
「やっぱり、フレンズだったんだな」
「よくもっ! 絶対許さない、ここで引き裂いてやる!」
一瞬でマウントを取られ、手から伸びる光のツメが俺の頸動脈の辺りにあてがわれた。冷たくも暖かくもないが、鋭い痛みを感じる。
「どうしてフレンズが人に化けていたのか。どうして外から来たのか。そしてどうしてフレンド製薬の勧誘をするのか。そしてどうして俺たちを襲ったのか。知りたいことは山ほどあるが、フレンズだということが分かった以上放っては置けない」
「この状態からどうするつもり? 通報する? さっきの警察をまた呼ぶ?」
「どれでもない。落とし物探しを手伝う、だ。見つかるまで帰らんぞ」
俺の答えは予想外だったようだ。明らかに動揺し、俺を腕を拘束している力が抜けた。すぐ気づいてまた締め付けられてしまったが。
「俺は飼育員になる。だから泣いてるフレンズは見逃さない! ただ一人も! 一緒に落とし物探してやるよ、約束する。信じられないなら俺のバッグを漁ればいい。通信できるものは全て入ってる
「嘘だっ、何が目的なの教えろ! お金? 私?」
「はぁ? だから探しもの手伝うだけだよ。信じろって」
「デタラメ言わないで」
「いいぞ、それで良いんだハルピュイアちゃん」
急に知らない声がした。少し首を動かして見渡すと、顔中にピアスを付けた男や卑猥な刺青をした女、他にもアニメのような髪型をした者など世紀末のような集団が俺と女の子を取り囲んでいた。
「なんで羽が出てるんだお」
「まだ訓練が足りていねぇな」
「うわーヤッちゃってるよね、これ! どこまで入ってる?」
「これは事案です」
「なあハルピュイアちゃん、そいつ、ささっと殺っちゃえ」
今、フレンズに向かって何を言った?
こいつらは何者なのかは分からないが、フレンズに言って良いことと悪いことの区別くらい付かないのか?
遅れてふつふつと怒りが湧いてきた。こいつら全員出禁だ。
「おい」
「なにー?」
「誰だてめえら。フレンズにそんなこと軽々しく言うんじゃねぇ! さっさと失せろ! こっちはこっちで忙しいんだよ!」
「うわーヤクザみたい。このまま話しても意味ないし黙らせちゃおっか」
その中で一番若く比較的まともな格好をしている男が、懐から何かを取り出した。漆黒のカバーの先に2本のプラグのようなものが付いていて、男がボタンを押すと青白い閃光が辺りを照らした。
まさかスタンガン? そんなものをパークに持ち込めるはずがない。ゆるいように見えてラッキービーストが常にスキャンし続けているからだ。
犯罪者でもない限り来る人は拒まず、その分持ち込み検査が超厳重なはずなのになぜ。
「おいやめろっ、やめろっ! フレンズには手を出すな!」
「おやすみね」
俺を抑えているフレンズを庇おうとしたが、逆に押さえつけられて地面に拘束された。
次の瞬間首元に焼けるような痛みが一瞬走り、意識が飛んだ。
俺はその後警察に起こされた。その時既に空がオレンジに染まっていた。
……最終試験の3時をとっくに過ぎている。
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