第8話 最終試験ともの探し
どうしよう
時間を過ぎてしまった
試験時間が過ぎてしまった
「君大丈夫? 地面で寝てたけど病院行こうか?」
「ここで何してたの?」
周囲に集まった警察たちが俺に声をかけたが、答えるどころではなかった。何故か気を失った理由が思い出せないし、試験時間をすぎたという事実が目の前にあるのが信じられなかった。
携帯を見ると、丘や母からの着信が入っていた。
「慌てているけど何かあるのかい?」
「あっ、いや、その、本当に……大事な予定があるから失礼します! 追わないでください! 怪我とか無いです!」
急いで走り出すと警察が追いかけてきたので、学生証を渡して後で連絡するよう伝えた。もちろん俺を保護しようと追いかけてきたが、森の地形を利用して撒いた後バスに乗って試験会場に向かった。
会場に着くと、あのときの飼育員志望の女の子が笑顔で出てくるところだった。今俺がどんな見た目をしているのかは分からないが、俺の姿を見た途端この世のものでないものを見てしまったような表情に変わった。
「おいお前今どうなってる試験はどうなってる終わったか終わってないか二択で答えろ」
「終わった。一体何があったの? あのカコさんが驚いてたけど」
「おわっ、おわ、終わった……? 最終試験はもう終わったのか!?」
「時計のみかた分かる? 今は短針が真下で長針が真上だから6時ちょうど。試験開始時間は3時」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
半分蹴破るように試験会場に突入すると、既に学生たちが椅子や机を片付け始めていた。部屋を見渡すと隅の方でカコさんが腕を組んだまま床を見つめていた。
俺はその場で走り出したが、学生が床のシートを剥がそうとしたのに躓いて大転倒い、匍匐前進のようにカコさんの足元まで這って行った。
「あふっ……あふっ……カ、カコさん……お、俺いつの間にか森の中で倒れてて……起きたらこの時間で……言えることはそれだけ、報告は……以上です……」
「とりあえず起きて」
なんとか立ち上がり、土と埃にまみれた服と顔を叩くと周りに煙が立ち上ってカコさんが一歩後ずさった。相変わらず腕は組んだまま、俺のことを見つめている。
「急病とか忌引とか、不可避な理由なら認める」
「一切覚えていません。いつの間にか森で寝ていました」
「童話の読みすぎなの? セントラルで遊んでたとか、フレンズと遊んでいるうちに迷ったとかならあり得るけど。今警察からも連絡があったので、森で寝ていたことが事実なのは認めます」
「……来年またここで待っています」
「ですよね」
「でも」
「でも?」
「フレンズと直接は関われないけれど、研究助手の試験なら明日実施されるわ。常に人手が足りてないから今日でも応募できる。一旦この職に就いて来年飼育員の試験を受ければいい」
「ありがとうございます」
「じゃあ、待ってるわ。今日は少し残念だった」
パークの研究助手か。いわば滑り止めのような立場になっているようだ。正直サンドスターの研究はいくらしてもしきれないので、気持ちはわかる。今回はカコさんの言う通りこの職に就いて来年狙おう。
俺は丘と母に試験に落ちた、とだけメッセージを送り再び森に出発した。
試験ともう一つ大事なことを、思い出したからだ。
森に着くと相変わらず警察がパトロールを続けていた。なるべく見つからぬよう草木をかき分けて進んでいくと、すぐにあのフレンズが見つかった。
「よう」
「し、死んじゃったんじゃないの!?」
「どう見ても生きてるだろ。……ああ思い出した、世紀末みたいなやつにスタンガン押し付けられたんだ。そのせいで飼育員試験落とされたんだぞ」
「自分のせいでしょ」
「まあいい。相変わらず聞きたいことはたくさんあるが、あの落とし物見つけたのか? まだ見つかってないなら手伝ってやるから教えろよ」
「まだそれを言うの? いいから無視して。自分で探すから」
立ち上がろうとしたフレンズを、俺は急いで止めた。
「馬鹿なのか? 外は警察だらけだ。羽があろうとなかろうと、フレンズ相手にするのが素人な警察が見つけたら放っておくわけ無いだろ。俺に任せてくれりゃ警察の力も借りれるだろうし」
ちょうど近くに警察が来たので、フレンズの居場所を悟られぬようそっと飛び出すと落とし物探しを手伝うよう頼んだ。しかし、断られた。
俺の目の前で
「おそらく私の仲間がやったの。まあ粗方知らない人を脅してお金でも取ったんじゃない」
「お前どんな悪友持ってるんだ?」
「あんなの友達じゃない。あれは私の……家族……」
この子、何か狂った環境で生きてきたようだ。フレンズならば大体生まれてすぐ発見され飼育員のもとで暮らすことになるが、この子は運悪く一番最初に変な客に絡まれてしまったのかもしれない。
「とにかく、何を無くしたのか教えてくれ。心とかやめてくれよ」
「…………鈴」
「鈴? どんな大きさだ? 色は?」
「元々首につけてた。このくらい……」
「それ、もしかして通信塔にあるんじゃないか? 通信塔で暮らしてるところに俺が押し入って俺にやり返したとき、ちぎれて落としたんじゃないか?」
「あっ、そうかも」
「よぅし。じゃあ、さっさと見つけてきてやるからな。絶対警察に見つかるなよ」
「私が飛ぶ。別に頼んでないし、探さなくていい」
「駄目だ。今上空でスカイレースの練習中だ。地上からこっそり向かうしか方法がない」
「じゃあ、付いてくれば」
「こっちのセリフだ」
周りを歩いて観察してみると、最悪なことに規制線で区切られた空間のちょうどど真ん中が通信塔だった。ここまで警察に見つからずに行き、帰ってこなければならない。
なんとか警察の目をかいくぐって二人でバリケードテープをくぐり、立入禁止区域に入り込んだ。
「そういや名前なんて言ったっけ? 俺はヒデだが、春巻きシコシコとか言ったか?」
「ハルピュ……どうでもいい」
「それと何の動物だ? タカに似てるし真っ白だし、ロシアあたりのオオタカ亜種か何かだと思うんだが」
「どうでもいいでしょ」
「つめたいなぁ」
その後は順調に進み、ついにもう少しで通信塔という所まで来た。木々の影から少しだけ建物が見える。
周囲には多くの警察や捜査員が集まっており、ここを抜けるのは無理そうだ。
「スズ……」
「え?」
「よし、スズって呼ぶぞ。スズ、本気で石を投げてくれ。警察には絶対当てるなよ」
「うっ……分かった。やってみる」
なぜかあっさりと承諾した。特に根拠はなく、鈴探してるからスズ。それだけだ。
スズが振りかぶって石を投げると、それは太い木の枝に命中し、多くの葉を揺らして騒々しい音を立てながら地面に落下した。
それに多くの警察が反応し、無線を掴みながら何人も石が当たった木の所に集まった。しかし動いたのは一部だけで、多くの捜査員はそのまま残って何かを調べている。
「騒ぎを起こせば全員気を取られるでしょう? 私があのぼーっとしてる人を殴り飛ばすから、その間に反対側に回って回収する」
「俺は?」
「見てれば十分」
「てか駄目だ! 警察ぶん殴ったらそれは事件だ。スズの目でここらへんの人の動きを把握して、チャンスを見て俺が飛び出す。仮に捕まっても間違ったで済ませられるかもしれん。それと約束しろ。何があっても警察に直接手を出すなよ」
「直接?」
「例えばこういうふうにだ」
視線の先には大きな蜂の巣がある。既に何人かの警察が気づいて落とそうとしているが、怒った蜂が何匹か飛び出して襲われかけている。
俺は側にあった石を掴んで、巣に狙いを定めて思い切り投げつけた。
石は命中こそしなかったものの、巣がぶら下がっている枝に当たり、結果的にその衝撃が伝わって蜂の巣は大きな音を立てて落下した。見事に周りの捜査員たちが逃げ出し、怒った蜂が大量に飛び出して警察たちを襲い始めた。
「やりすぎた……スズは隠れてろ、行ってくる」
蜂に驚いて逃げ惑っている警察に紛れて通信塔まで走り、中に入ることに成功した。前入ったときと同じで、スズが少しここで生活したであろう跡がまだ残っている。
ジャパリまんの包み紙……積み上げられた木の枝……水を汲むバケツ……道具の山を漁り続けていると、手に硬いものが当たった。急いで掘り返すと鈴だった。あの神社でガラガラ振るやつをそのまま小さくしたような形だった。正直きれいなものではなかったが、それはつまり長年大事にしてきたということ。
とにかくすぐに見つかったので胸を撫で下ろした。
通信塔のドアを開けると相変わらず警察たちが逃げ惑っていたので、それに紛れて逃げ出した。途中大きな蜂がぶつかってきた。恐ろしいものだ。
「スズー? どこだ? おーい、スズー」
「ひっ……やめて……」
スズが居ないのでおかしいと思い周囲を探すと、なんと木の陰で5人位の警察と捜査員がスズを地面に押し付けて拘束していた。その光景を見た途端理性の一部が吹き飛び、そのうちの一人を突き飛ばして怒鳴っていた。
国家権力だろうが関係ない。フレンズに手を出すなら全て有害。
側にあった枝で全員の後頭部を殴打することも考えたが、残っていた理性でなんとか封じ込め俺は落ちた蜂の巣を掴んだ。まだ残っていた蜂が襲ってきたが、怒りで何も感じない。
全力で振りかぶると、蜂の巣を一番近くに居た警察の頭に叩きつけた。
巣の中の幼虫や卵が飛び出し、まだ残っていた成虫も激怒して第二波の始まりだ。
「スズ逃げるぞ!」
「う……」
「スズ?」
怪我はないがさっきから元気がない。しょうがないのでスズを背負って逃げることにした。鳥のフレンズは子供ほどの重さしか無いのが救いだった。
俺はそこから少し離れた所でスズを降ろした。
「ううっ……うぐっ……」
「泣くなよースズ。もう安心だ。だからこっち向いて笑ってくれよ」
顔を上げるとまたいつもの悲しい目に戻っていた。
「ああっそうだ! 鈴、ちゃんと持ってきたぞ。これでもう泣くなよ」
「泣いてない。それに一回も頼んでない。どうしてこんなに関わろうとしてくるの? 何が目的なの? お金? 私?」
「えっ? そりゃぁ、こんな可愛いフレンズちゃんを前にしちゃったら、フフフフフッ、フフフフフ、お礼にギュッと抱きしめてもらいたいッ! お礼してくれない? 今」
冗談は通じず、本気で睨みつけられてしまった。渡そうとしていた鈴も無言で取り、ポケットにしまった。
「私には帰る場所がある。あなた達がいるのより、ずっと幸せな」
スズはそう言い残して飛んでいってしまった。
最後「幸せ」と言っていたが、その時が一番悲しい顔をしていた。
あと、蜂に刺されて顔が腫れ上がっていることにも気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます