第5話 誤解
今回は世界観放出の回です。なんかやりたくなったのでやります。もっと知りたいことあったら教えて下さい。
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「いやぁぁぁああああ暴漢~~やだ~~」
「俺を殴ったのは女だぞ」
「忍者のように飛び回って襲う女の子ね……」
病室に母と丘がお見舞いに来てくれた。
と言っても俺は頭にタンコブが出来ただけで、タカは脇腹を少し切られただけで済んだのでもちろんお互い大事には至っていない。
「とにかく俺は大丈夫。コブ出来ただけだ」
「おまわりさんから連絡きた時、フレンズに手を出して捕まったのかと思って謝る準備してたのよ」
「なんか申し訳ねぇ」
「そんな心配のされ方で恥ずかしいとか思わないの?」
病室の扉が開き、ラッキービーストが入ってきた。白衣を着ているので病院配属の機体だ。目から立体投影されたカコさんは母にぎこちなく礼をすると足元まで歩いてきた。
「とは言ったけれど、今回はお手柄よ。おかげで少しだけ情報が集まったの。後は私が警察と一緒に調査するから、試験までゆ~っくりしてなさい」
「ゆっくりできると思います?」
「揚げ足を取っているの?」
……ということで俺は客としてパークの門をくぐることにした。母は病院で別れを告げて帰ってしまい、俺一人だけで回ろうと思ったのだが何故か丘が付いてきた。
しかし丘は自称純情乙女なので叫ぶ。とにかく叫ぶ。蚊が居ても叫ぶし、森で野生動物に会うとその倍くらい叫ぶ。
「ヒデちゃん、何かあったらそこらへんの木の棒で戦って。ね? 確か剣道3段くらいでしょ? 邪魔はしないから早く行きましょうよ~」
「ちゃん付けは本当にやめてくれないか」
母には負けるが、俺は暇という理由で高校くらいまで剣道をやっていた。一定期間練習を続け、たまに金を払って試験を受ければ自動的に段が上がるので難しいものではなかった。
ただ声を出すのが大変で夏は道着が蒸し暑くて臭いので、ジャパリ大に受験を決めると同時にスッパリやめたというわけだ。
「対人なら丘のほうが強いだろうが」
「ワンちゃんとかを投げるのは無理があるわね。触りたくないし」
「手袋常備しとけよ」
「そういう問題じゃないの~~やだ~~乙女心分かってない~~」
丘はいかつい見た目の割に戦えないかと思いきや、噂によると柔道有段者らしい。何段かは知らないし戦っているのも見たことがないが、そもそもこんなやつに喧嘩を売る人間などこの世に居ないだろう。
「ようこそジャパリパークへ! はい、成人二人ですね。行ってらっしゃい~」
派手なピンクのポニーテールの人が眩しいほどの笑顔でチケットを切ってくれた。
それからしばらく歩くと幼稚園くらいの子供の集団が集まって騒いでいた。
ジャパリパークは幼稚園から中学まで遠足や修学旅行の名所になっていて、外国からも学生の集団が来たりする。
するとそこの先生らしき若い男と女が出てきて、説明を始めた。さらにパークの職員もやってきてそれぞれにGPS端末の付いたバッジを付け、説明に加わった。
そう、パークは迷う。毎日100人くらい迷子になる。まあ迷子になったところでそこら中にフレンズの使っていた住処やシェルターがあるおかげで行き倒れることはなく、ジャパリまんを運ぶラッキービーストもそこら中を徘徊しているので食料にも困らない。
迷って困るとすれば砂漠や雪山で迷ってしまったときの気温とセルリアンくらいか。
「おい待てェ丘。あれ見ろ」
「ん? ……あら、フレンズが付かないのね」
檻のない動物園を想像すればわかるだろうか。この迷うほど恐ろしく広大なパークの中にいるフレンズは種類で言えば500種、同種別個体を含めても1000人も居ないので運が悪いとフレンズ数人だけ見かけて終わることになってしまう。もちろんPIPライブなどに行けば会えるが。
だからそのために常に付き添う……というのは建前で、セルリアンと遭遇したときに対処できるようフレンズを一人付かせるのだがそのフレンズが居ない。
我慢できなくなり、俺は丘が引き止めるのも構わず先生らしき人に声をかけた。
「おい」
「ははい!? なんでしょうか?」
「付き添いのフレンズは居ないのか? まさか人間だけで回るつもりか」
「え、えと、今回はセントラル巡りが主ですこーしだけサバンナに……って、あなた誰ですか!」
やばい、近くの職員が気づいてこっちに来た。完全に怪しまれている。
俺は急いで走って逃げ、丘のところに避難した。
「ちょっと『おい』って何よ、初対面の人なんでしょ! もう~~! あなた変な子に襲われたばかりじゃない、ちゃんと説明すればよかったのに」
「え? ああ、たしかにそうだな。もう手遅れだが」
警備員まで出動してパトロールが始まってしまった。なぜ俺は逃げてしまったのだろう?
俺が草むらの中で潜んでいるといきなり丘が飛び出し、さっきの人に話しかけた。するとあっという間に警備員が居なくなり、何事もなかったように笑顔で戻ってきた。
「今何したんだ?」
「何したって、私達は学生だから怪しい人じゃないって伝えただけよ。あなたの顔がテレビに写ってたのが不幸中の幸いね」
「さすがパークガイドの勉強してるだけあるな! ……すまん」
「気にしないで。それより行きましょ~~」
「……俺はあいつらについていく。丘はそこらへんでアイスでも食ってろよ」
「な、何言ってるのよ! まさかあなたそういう趣味なんじゃ? きゃ~~~いや~~~~~~ありえないわ!」
「人間になんか興味ねえぞ」
5分くらいかけてなんとか丘を説得し、ストーキング……もとい保護観察尾行をすることにした。いや本当にロリコンとかではなく、あんな弱そうな保育士一人ではセルリアン一匹現れただけでも子供が散り散りになってしまう。
だから最低限戦えそうなフレンズを一人見つけるまで尾行し、そして最悪の場合は俺たちが撃退する。
「あの子達セントラル行きのバスに乗ったわよ」
「追いかけようか。これで」
周りを見渡すと、ちょうどシェアサイクルのスタンドに二人乗りの自転車が停められていた。タンデム?とかいうやつだ。
「あら~これじゃあ私達一昔前の悪役みたいじゃない?」
「金がなかった」
「それにこれで尾行したら怪しまれるわよ~?」
「バスの走るバイパスよりパーク中を通るサイクリングロードのほうが近いんだ。バレずに先回りできるぞ」
セントラルに着くまで10分もかからなかった。整備と丘の脚力に感謝だ。
パークセントラルは文字通りパークの真ん中にある遊園地のような場所で、パーク管理センター本部や研究所などの主要な施設や娯楽施設がすべて詰まっているパークの中枢部だ。開園している時は常に人とフレンズで混雑しており賑わっている。
「あの子達お土産屋に入ったわ」
「俺達も行こう」
お土産屋はそこら中に点在しているが、子どもたちを追って入ったのはその中で一番大きい店。衣服雑貨食品まで全てが揃っている。
入った瞬間にPIPの巨大なポスターに出迎えられ、その奥には全てのフレンズのぬいぐるみがフロアの半分を占拠して並べられてある。もちろんタカ達3人のぬいぐるみもあり、女性人気があるので売り切れないよう少し多めに並べられてある。
更に奥にはコスプレセットがこれまた全てのフレンズのものが並んでいて、ヒグマやブラックバックの武器もちゃんと付いている。ちょうど子供がキンシコウの如意棒を掴んで遊び始め先生に怒られていた。
「見ろよ、去年のスカイレースのタカの写真だ。無限に惚れるよな」
「あら、嬉しそう。いい笑顔じゃない」
「おい見ろ、チャップマンシマウマとケープキリンがいるぞ」
白と黒のボーダー柄の特徴的なロングヘアの女の子と、頭から黄色い角が二本生えているフレンズが楽しそうに喋りながらぬいぐるみを手にとって眺めている。こういう人が多すぎる場所は警戒してしまい避けるフレンズが多いので珍しいものを見れた。
「良いよなぁ。あの尻尾をワシャアってしたい」
「捕まるわよやめなさい」
「うわ! あいつサインなんかお願いしてやがる! フレンズの尊い瞬間を踏み荒らしやがってこの野郎、出禁!!!!!! 出禁!!!!!」
「落ち着いてほら落ち着きなさいっ!」
いや許せない!
あいつ気安くケープキリンちゃんにサインなんか求めやがって、ああほら断られてやんの!
「しかし暑いわね。休憩しない? 入り口は一つだから正面で見張ってればあの子達を見失わないわ」
「そうだな、そうするか。案内してくれよ」
「任されちゃった」
入り口を出て数歩、あっという間にカフェに着いた。俺は普段支店に通っているのでここに本店があるのを初めて知った。
無難な飲み物を二人で注文しテラスに出ると、席が全て埋まってしまっていた。これではあの子達を見失ってしまう。
「どうしましょ、私たくさん買っちゃったから立ちながらはきついわね」
「がっつり昼飯食ってんじゃねえよ。ほらあそこ、空いてんぞ」
「え?」
二人分空いているではないか。女の子1人が4人席を占領している。
「おい、ここ空いてるか? 2人入るぞ」
「えっ? 空いてますけど誰ですか?」
「ばかばかばか! やめなさいヒデちゃん!」
「あぁ? 何すんだよ、席空いてんじゃねえかよぉよく見ろよ」
「知らない人でしょ!」
「そこのオカマとコミュ障、うるさいから座っていい」
話を聞いたらその女の子は飼育員を目指している同級生だった。しかもよく見たら俺と同じカコさんのゼミの学生ではないか。俺は人の顔と名前が一致するまでリアルで2年ほどかかるので忘れてしまっていた。
「あなたどうやって勉強したの? こんなに常識無くてフレンズたらしなのに信じられない」
「勉強?」
「見てれば知識量が異常すぎる。他の学部で教わることも知っているかと思ったら何も聞いてないのに実験を終わらせるし、あなたそこら辺の教授より頭いい」
「そんな褒められたら照れるな。気になるなら寮来るか?」
「本気で言ってるのそれ? ありえないんだけど」
女というのはよくわからん! 知りたいなら俺の部屋に来て見学すればいいだけだろう? まあこの子に興味など1ミリもないのでこれ以上言い返して誤解?を解く必要もない。
その後サンドイッチを食べていると、見張っていた子どもたちが動き出した。
「おい行くぞ。あいつらサバンナ行く気だ」
「すぐ行きましょう」
俺と丘が食べ物を詰め込んで女の子に礼を言い席を立つと、その子も何故か急いで支度を始め俺達の後を付いてきた。
タンデム自転車に乗るとその子も電動自転車に乗り、どれだけ走ってもどこまで行っても付いてくる。
「おいあいつ俺たちの後付けてきてるぞ。撒けるか?」
「オーケー。ちょっと本気だすわよッ」
「……ゴルアッ!!!」
雄叫びのような声を一瞬発すると目に見えて速度が上がっていき、俺たちを追う女の子との距離がぐんぐん……縮まっていく。
「おい何なんだ! 俺たちになにか用か!?」
「うるさい! 私はお前らと違って遊び呆けているんじゃない。護衛のフレンズが付かないから後をつけているんだ!」
まさか同じ理由だったとは。
結局子どもたちの乗ったバスがサバンナに付いた後に合流し、一緒に追跡することになってしまった。俺は人が多いのが嫌いだが我慢するしかない。
「何だ私と同じ理由で追っていたのか。何度管理センターに連絡しようとしても繋がらないし知り合いの飼育員も出ない。どうかしてるよ」
「そういえばさっきからタカもカコさんも繋がらないと思ってたんだ。丘もか?」
「あたしもよ。だぁれも出てくれないの」
その後30分ほど岩や木に隠れながら尾行していたが特に動きはなく、大自然に興奮した子どもたちが遊んでいるだけだった。
「要らない心配だったのかしらね?」
「最近サバンナちほーのサンドスター濃度が不安定なんだ。こういう時はセルリアンが出やすい。教授は誰も教えてくれなかったが、俺の経験だ」
「なっ、よくサンドスター濃度なんて調べてるな」
「セルリアン関係は教えてくれないから勝手に調べてんだよ」
「待って、子供がばらけちゃってるわ。ほらあの子、あんなところに」
「私が行ってくる」
さすが女の子、あっという間に子供を説得し怪しまれることもなく先生のもとに返してしまった。
「あの子戻ってきたら帰りましょ? 今ので帰る雰囲気になってるわよ」
「そうだな。付き合ってくれてありがとうな」
「いやいやいいのよ、今日は楽しかったわ」
その時。
見えてはいけないものが見えてしまった。
一気に心拍数が上がり、緊張で冷や汗が溢れ出ている。
「おい、丘。今すぐ子どもたちをあの岩から離せ。処理は俺がする」
「あらあら、最後の最後に招かれざる客ね」
「おい! そこの先生! 子供を連れて逃げろ!」
「ほ~ら、みんなあたしの所へおいで~」
俺は帰ってくる途中のあの子の横を全力疾走で駆け抜け、岩に足をかけて跳んだ。まわりに子供はいない。
岩の向こう側の地面に降りると、
側にあった石を投げつけると大きな目が俺の方を凝視した。そして俺を食べ物と思ったのか、一気に接近してくる。
今誰か上の方で叫んだ?
携帯の着信音も鳴り響いている。
俺は接近してくるセルリアンの裏に回り込み、振り向く前に弱点の石に枝を使った本気の突きを叩き込んだ。
「どうだ!」
しかし木の枝では強度が足りず、石に少しヒビが入っただけでセルリアンはピンピンしている。しかも弱点を攻撃されて怒ったセルリアンが振り向き、再び接近してきた。
「くそ、靴はだめになるが蹴っ飛ばして時間を!」
「砕けろっ!」
絶体絶命と思ったその瞬間、黄色い服を着たフレンズが俺の前を通り抜けセルリアンはバラバラに砕け散った。
「はっ……? ハヤブサ?」
「どうしてお前がいるんだ?」
「私は監視を頼まれてたんだ。だから上空からずっと見張っていたんだが、途中からお前ら血眼になって追いかけて一体どうしたんだ? ちなみにあの子供はロボットらしいぞ。なんか避難マニュアルの作成とか言って、セルリアンも作りものだ!」
は????????????????
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