第4話 邂逅

「タカぁ、あはっ、あはぁぁぁあああ……」

「ねえ、あなた本当にさっきまで卒業式で喋ったたヒトなの……? 情けないとか思わないの?」



 あれからしばらく歩いてすぐにタカの住処に着いた

 ハクトウワシとハヤブサは昼飯を食べに行っているらしく、住処に居たのはタカ一人だった


 いつも通る道だし険しくはないので物理的には優しい道のりだったが、精神的にはまるで死と隣り合わせの崖っぷちを歩いているような気分だった


 本当に自分の愚かさを呪う



「とりあえず本物、ぎゅっとさせてくれないかな」


 真顔で見つめるのだけはやめてくれ


「そんな顔で見ないでくれよ。いい加減くたばりそうだ…… なあ、俺はどうすればいいと思う? 俺は飼育員になりたい。そのために大金払ってもらったし、まあ首席はなるとは思わなかったが人一倍勉強はしてきた。なのになんでだよ」


「その抱きついちゃったヒト、見覚えあるの? もう一度会ってちゃんと謝ればきっと許してくれるわよ」


「ごめんで済めば警察はいらねえよ。しかも何だよ、あのタイミングで求人なんてフレンド製薬の人事は仕事してんのか? 悪いが俺はあんな会社入らないぞ。無駄に大きくなりやがってサンドスターを収入源としか見てないくせによぉぉおお」



 思わず思っていた事を愚痴ってしまって、もうどうでも良くなった俺はその場に寝転んだ


 住処は木と草で出来ているが普通に寝心地が良い

 まるで畳のようにしっかりと作ってある


 本家のオオタカは畳のような巣は作らないが、人の姿になってから試行錯誤し今の状態に至ったらしい



 丁度いいので説明すると、今目の前でくつろいでいるタカはオオタカのフレンズだ

 つまりタカではなくオオタカと呼ぶのが正しそうだがそれはどうでもいい


 タカ目タカ科のカラスくらいの大きさで、鋭い爪と嘴、そして異常なまでの視力を持ち、翼を使って森を自由自在に飛び回り小鳥などを捕食する

 古来から鷹狩に使われたり作品のモチーフになったりしているタカである


 フレンズ化した今は、見た目的には頭に翼を付けた少しスタイルのいい女の子となっている



「ん」


 さっきまで少し眠そうだったタカが、住処の窓から見える空の一点を見つめた


 俺には何も見えないがタカには見えている


「ちょっと留守番してて。セルリアン2匹だから1分で戻るわ」


 そう言い終えたときには既にタカの姿はなかった

 上昇気流に乗ってどんどんと高度を上げていく


 双眼鏡を取り出して見てみると、雲ほどの高さまで飛んだタカがその場で方向転換し、瞬きした瞬間には2匹のセルリアンは既にサンドスターの粒子となって散っていた


  その速度は余裕で100キロを超え、フレンズになってからは200キロも余裕らしい


 あんな女の子が生身で高速道路の車どころじゃない速さで飛び回り敵を倒してしまう


 素晴らしい


 なんだか興奮してきた


「戻ったわ」

「早かったな……」

「まだ気にしてるの?」

「まだとかじゃねえよ。ずっとだ。俺の未来がかかってるんだよ。それにな」

「なによ」


「あの子、俺が抱きついちまったあの子はただの人間じゃなかった。おかしいぐらい悲しそうな目をしてたし、笑っても営業スマイルって感じだったんだよ」

「なにそれ。おばけ? もしかして新しいフレンズとかじゃないの、白髪だったなら迷ってるおばあちゃんかもしれないし」

「いや違う。白髪だったが若かった。俺が間違えるくらいにはタカに似てたし。一緒に来てくれないか? オレ一人だと言い負けしそうで怖いんだよ」


「情けないわね。でもちょっと気になるし、いいわ。行ってあげる」

「森ならタカが一緒のほうが早そうだし、助かる。……ついでに俺が本気で飼育員になりたいってこともそれとな~く伝えてくれるか? それとな~くな。バレない程度に、同情する程度に」


「代わりにヒデにはレースの練習に1週間付き合ってもらうわ」




 その後タカと一緒に女の子に会った場所に行ってみたが、それらしき影はどこにもなかった



「ここから見た限りじゃ誰も居ないわ。枝ばっかりで視界は良くないけど」

「うぐ、じゃあ練習に付きうから俺の特別マッサージもおまけで付けてあげよう」

「……そういうこと言ってるからトラブルになるんじゃないの?」


「待って」


 タカが声を潜めて俺を止めた


「人じゃない……動物? 尻尾が大きいわね」

「動物ぅ? キツネなら雪山の旅館に電話するが気をつけろよ。俺が先に行く」


 近くにあった手頃な木の棒を拾い、低い姿勢で近づくと少し開けた場所に出た


 何故か草や木が切り倒されていて広場のようになっており、中心の切り株の上にそれは居た


「ラッキービースト? おい何寝てんだお前起きろ! ジャパリまん地面に落ちてんぞ」

「待ちなさいよもう。あら、動物じゃなかったのね」


 あまりにも動かないので拾い上げてみると、ラッキービーストの顔?胸?とにかく正面の真ん中らへんに深い爪痕が残っており、中にあるセンサー類や配線が顔を出して火花を散らしてしまっている


 ラッキービーストは荒れ地での活動やフレンズのいたずらに耐えれるように作ってあるので、これほどの傷はまず付かない


「ピガッ……ウェルカム……ダメダヨダメダ……ガガッ……アワワワワワ、エラー、エラー、エラー…………」

「ひどい」

「ああ……サンドスターの侵食も無いしセルリアンじゃない。悪意を持った人間がやってる。変なことに連れ出して悪かった、タカ。さあ今すぐここを離れるぞ」


 嫌な予感がしたのでタカの腕を引いて戻ろうとしたその時


 なにかが見えた


 もちろん俺が見えている物をタカが見逃すはずがなく、同じ方向を見ている



「見えたな?」

「見えたわ。ここで捕まえたほうが良いと思うのだけどどうかしら」

「駄目だ。武力を持った奴がいる以上近くの通信塔に向かってラッキービーストに警告を送るのが先だ。客に被害が出かねん。通信塔に俺を連れて行ってくれ、タカ」


「了解よ」


 近くの通信塔はすぐそこだった



「よし、ここで降ろしてくれ。鍵はかかってないからこのまま……あれ」


 鍵がかかっている


「前言撤回だ、タカ。蹴破ってくれ」

「いいの? パークの施設よ」

「こっちはラッキービースト一体壊されてるんだ」



 タカがドアを蹴破った悲鳴が聞こえたような気がする


 ……気のせいだ


 タカに外で見張ってもらいながら慣れない機械を操作し、近くのラッキービースト全てに警告を送るまで長くはかからなかった

 俺が実行してしまったので、近くにいるラッキービーストが俺の姿と声を映し出して客に警告するというわけだ、なんとも恥ずかしいものだ


「終わった?」

「おう。今戻る」


 すべての作業が終わったところで気づいたのだが、この部屋何かがおかしい


 非常時にしか使わない通信塔なのに生活感がある


 フレンズ?


 違う


 犯人はすぐに見つかった

 扉にへばりついて伸びている、あの時タカと間違えた女の子が


「おい、起きろよ」

「ん……」

「おーい? 朝だぞ」

「ッ!」


「がっ!? 何すんだてめぇ!」


 いきなり鼻っ面を殴り飛ばされ、反対側の壁まで吹き飛ばされた


 背は高いが体つきは格闘家のそれではなく華奢だ


 しかしまるでフレンズのような力だ


 色仕掛けも格闘もできるとは確信犯すぎる!



「タカ! そいつ捕まえられるか!」


「えぇっ!? なんで女の子が出てくるのよ!?」


 タカが捕まえようと試みたが、女の子が当たる直前に姿勢を低くして頭からロケットのように突っ込んだことで弾き飛ばされてしまった


「今助けに向かう! なっ、血!?」


 すれ違いざまに鋭いもので切られたようだ

 そのまま忍者のような体勢で地面を蹴るとそのまま木の枝に飛び移り……


 


 木の枝に飛び乗った!?


 そのまま某忍者アニメのように枝を飛び移りながら森の奥へ消えた


 俺が見失った後もタカが見てくれていたが、タカも見失ったのでその場で応急処置してから住処に帰った



「それより今の子すごかったわね! 動きがヒトじゃなかったわよ」

「感心してる場合じゃねえよ。怪我は大丈夫か? あと本当にすまん。危ないことに巻き込んじまった」

「私より自分の心配しなさい。鼻血まみれよ?」




 その後二人して血まみれで住処に帰った所をハヤブサとハクトウワシに見られ、俺の事前のラッキービーストに対する警告も相まって大事になり、大量の警察官に囲まれ取り調べを受けさせられた


 なんなら夜7時の全国ニュースでも報道されてしまった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る