第41話 出会い
「ここに来て何の意味があんのか解らねえ、この前もあの本しかなかっただろ...」
「だから、何か見落としているかもしれないし、私が何か思い出すかもしれないし、他にする事がないじゃない?」
「そうだ柳、文句も大概にしろ」
「おい、お前調子乗るんじゃねえぞ、俺も好きでてめえの彼女に振り回されてねえんだ」
「ああ、お前は由希雄だったよなあ?」
「馴れ馴れしいぞクソが」
女の顔が木の間から現れて道に沿ってやってくる。由美。俺が誰なのかも知らずに、お前の父親のせいで、俺は...
もうすぐやってくる。拳銃を手に取ってはホルスターではなくポケットに突っ込んだ。二発ある。由美を好きにするには十分だ。由美を殺したら俺はすっきりするのかな?こうなったら最上に任せて撃つしかない。たぶん、やり直しも必要ないさ。
「信濃由美さん」
立ち上がる。
目の前の四人が不意を突かれ一斉にこっちを見た。
「だ、誰だお前!」
「柳さん、こんにちは、突然ですみませんが、みなさんと話し合いたくてここでずっと待っていました。来る事を知ってましたよ」
「どういう意味だ?お前らは何者なんだ?」
「簡単に言えば、君たちと同じような宗教団体です。ああ、心配しないでください、むしろ俺達の方が緊張しています」
後ろで春木の小さな動きから衣擦れの音がした。
「宗教って、もしかして...」
「由美さん、逢いたかった...君は知らないけど、由希雄の影響を受けた人は多い。その一人一人が柳さんみたいに恨みを抱いている。俺も昔由希雄の宗教にいた、そして親も殺された。何をすればいいのか解らなくて、とりあえず君を嫌う事で生きてこれたんだ」
「そう、あんた、名前はなんていうの?」
「飯田ひろし」
「飯田さん、今更こんな言葉無意味かもしれませんけど、父の代わりに、ごめんなさい」
隣の神が俺に頭を下げている。なぜか最悪の気分だ。しかし由美をやっと許す事が出来た、いや、ずっと昔から許していたんだ。初めから恨んでなんかいなかった。それを解らせる為に最上は俺を拾ってくれて、ここまでしてくれた...ありがとう。由美などずっとどうでもよかったんだ。ああ、俺には最上様さえいればいい。
これが俺のやりたい事だったのか?何もしない事。最終夢に来てまで探し求めていた答えが見つかったんだ。このまま最上の所まで帰れる...
由美の前で俺は肩の力を抜き、やさしく流れる涙を泣いた。
「えっ!飯田さん...」
「ゆみ、個人的な話はここまで、自己紹介はこれからだ」
涙を拭きながら言う。春奈や健二も何をすればいいのか分からないだろうな。それでいい。俺に任せとけ。
「由美、君はだいぶ簡単に信者を集めるらしいじゃないか、だけど最上は違う、本当に俺を愛している、彼こそが神だ!お前など絶対に認めない!」
最上。
「飯田、最上って誰、答えて」
春奈の声が真横でした。
「そうだよ、飯田さん!教えてくれよ!」
「いい、どうせもうすぐ終わるんだ」
「どういうこと...」
「少し黙ってろ!」
容赦なくその言葉を殴りつけた。トリップの副作用でしかないお前たちにはいろいろお世話になったけど、これからもう一回だけ役に立ってもらう。
最上の世界で由美がいてはならない。誰かがもう一人の崇拝者にならなければ真の神を巡って必ず戦いが起きる。そういうものなんだ。だから、ここで由美の死が信者をどう影響するかを見ておけば...
拳銃をポケットの中で握りしめてから持ち上げた。腰に右手を当てる柳がバカな顔をしている。お前は現実に存在するのか?似たような奴がいてもおかしくはないが、柳という名前を検索したら一体何が見つかるのだろう?もし本当に柳って奴がいて、同じ顔だったら俺はあいつに対してどんな事をしてしまうんだ?夢に出てくる奴は皆会った事のある人らしいからさ、お前は何処で見た顔なんだ?思い出せない...だけど俺を知らないあいつは、知らない間にお前の印象を受けてんだよ。このクズが。
健二がかなり殺したがってたが、もういいや。
「由美、これは実験だ、悪く思わないでくれたらありがたい」
研究者が一々マウスに謝る事はないが、俺はそれ以上に優しいから。
「まて、飯田!」
久しぶりに声が頭の中で鳴り響いた。最初聴いた頃のような感じ、いやその以前、最上...
「最上!」
首を大きく振ってあたりを見渡すが、何処にもそのたくましい姿はない。由美も春木も、奥の健二と春奈も、俺がどうしてるのか不思議で怖いくらいだろ。
「なに...」
取りつかれたかのように奇妙な動きをする俺から離れる由美はもうどうでもいい。ただ早く君に逢いたい...
そして山道からではなく、その隣の林から聖人らしい最上が踏み出た。黒いロングコートとブーツとの相性が抜群の最上が、やっと、やっと来た。
「最上さん...」
「この人が、君の神なの?飯田?」
「そうさ由美、お前達も早く拝んだ方がいいよ」
「おい飯田、こいつは誰なんだ、どうして今まで何も言わなかったんだ!?」
「春奈、落ち着け、せっかくだから本人に聞いてみればいいじゃないか」
「あ、あんたは、飯田にとって何なの?私にとってなんなの!?」
最上が答えずに春木の方を向いた。顔には明らかに楽しんでいる事が出ている。
「久しぶりだ、春木」
「お前、あの時の...」
「何なの春木?会った事あるの?」
「川辺であった変なおじさんだよ!」
「こいつが?」
「ああ!」
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