第39話 パート セブン 実施

「これから柳を殺しに行く」

「えっ、いきなりですか?正直奴の事は忘れてましたけど、どうして今更...」

「やらないといけないんだ。放っておけるような相手でないのは解るだろ。声も事を進めた方がいいと言っている」

「そうか...」

「...」

飯田はなんだか焦っている気がした。

「春木、ここだけの話だが、柳は実はどうでもいい。本題は同行している由美っていう人だ。そもそも俺がここに閉じこもっているのも全て彼女が原因なんだ...心配するなよ、いくら柳でも、俺達が死ぬ危険はないんだ」

全て知っているかのように得意げに話している。余裕が満ち満ちているんだ。

「解った、声を信じるよ」

「そうだ。春奈と健二も連れてくる、ここで待ってろ」

飯田の家の一部屋にある黒いソファーはいつからか会議室となっていた。

その片方に座っている俺は上司の入場を待つ平社員。遅刻したくない想いが強すぎて逆に相手を遅刻させてしまったが、それも以外といい気だ。

部屋に入ってきた三人はいつもの配置についた。飯田はソファーに座らず、隣にあるリクライニングチェアーに腰を掛けている。俺の隣にはもちろん健二と春奈がいて、そのどちらもかなり真剣な目つきをしている。今回の仕事の重大さを理解しているんだ。

しかし、俺はまだ気が乗っていない。なんだろう、この雰囲気は冗談や遊びではない、ガチなんだ。

それがなんだか怖い。

「声にある住所を教えられた。まあ、住所というか座標だったよ。ろくな道も通ってないからな、山奥だ。そこへ行く。柳も現れるはずだ。そこをうつ」

「何で殺すんだ?まさか素手じゃないだろうな」

「もちろん拳銃でだ。三日前に見つけたものがあるからそれを使う」

「弾はあんのか?」

「...二発だけだが、それで十分だ。目的は柳一人だからな」

「道がないとすると、途中まで車で行き、最後までは歩きという事ですよね、ちょっと嫌なんですけど...」

「気持ちは解るけどさ...みんなで行く事になっているんだ」

「飯田一人で平気だと思うのに」

「俺が一人で行くと何かが起こってしまうんだ、だから声に事前に防いでもらっている。悪いが一緒に来てもらうよ」

春奈は緊張しているというよりはただ面倒くさがっているみたいだけど、俺は心底ビビリ始めている。今では無職の超能力テロ団体部員だという事を忘れないほうがいい。そうだ、地味でも超能力者なんだぞ!そうなんだけど、関係ないか。捕まったら裁かれるんだから。

いや、もしかしたら捕まる前に柳に殺されるかもしれない。

だから今から殺すんだよね?

「あの、柳っていつその住所に現れるんですか?」

「それは聴いてない。だから先に俺達が待ち伏せしないといけないんだ。何日かそこに泊まる事になってしまうかもしれないが...」

「え?!道も通ってないんですよね?それじゃマジで行きたくないんですけど、飯田さんだけにしてくださいそういうのは」

強く頷く。春奈が俺と健二の分も文句を言ってくれた。

「俺もまだ無名ですけど一応ジャニーズですし...」

本当にスカウトされてたのかよ。

「...シャワーのない所で寝泊まりするのは俺のポリシーに反するので」

「...」

「早く支度しろ。行くぞ」

「はい...」

解散。張り切っているのは飯田だけで、だるさを隠さない俺達が歩き去るのを見ていた。それでも春奈と健二は俺とは違う。俺はまだまだ新入りなんだ。どれだけ面倒くさい事でも、真剣に仕事をする覚悟をあの二人は持っている。


外で開いている車庫の前で待ち合わせた。行ける所まではジムニーで行き、その後は歩く。四駆の隣には飯田のフェラーリが停めてある、っていうかあの日以来乗っていないなー。

もう六時半。いきなり疲れてきた。これから不気味な所で寝る俺にはもってこいだがな。

「行こう」

大げさに揺れる車体はまるで幼い俺を抱く親の腕だった。左右に揺すって、またしても俺を寝かせようとしている。あ、今晩は車の中で寝ればいいか。そもそも誰も住んでいない山小屋なんだろ?ベッドがある訳ないじゃん。


「車ではここまでのようだ、降りるぞ」

俺は健二に起こされて、開いたドアから押し出された。あ、車とはここでお別れだった...眠たくて少しボケてしまっている。足を引きずりながら、春奈に抱えてもらえる妄想を見ていたが、腕を雑に引っ張るのは険しい表情をする健二だった。春奈は飯田の隣で歩いている。

枝に引っかかれ、土に汚されて、たぶんマダニにも犯されて、やっと目的地にまでついた。飯田が少しあたりを歩き、懐中電灯を照らしてから戻って来る。

「先越されちゃったみたいだ、この靴跡はまだ新しい...俺達が遅かったのか?いや、これからまた来るはずだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る