第24話 パート フォー 交差点

その頃春木はアパートでスマホをいじっていた。まだ飯田とも、声とも逢っていない。床に寝ているが、ベッドに足をかける姿勢で天井を視界から阻む画面に吸い込まれていく。何時間無駄にしたものか。もうかなり晩い。最低限の仕事は終わっているから起き上がらないといけない理由も無いし、起き上がりたい訳でもない。いっそのことこのまま寝てしまっても構わない。画面をこする親指が止まる。俺は一体いつからこんなになったんだ?仕事に振り回されているっていうか、俺の方から自己的に殴られに戻っている気がする。それは振り回されているとは言えない。なら俺は俺をこのように捨てて何かを得ているのか?いきなりチャラい芸能ニュースがどうでもよくなった。

奥歯が急に痛んだ。面倒くさそうに指を口に加え、数日前に発見した虫歯を呪った。毎日歯は磨いているのに、こういう事が起こると何もかもが時間の無駄に思えてしまう。それでもそろそろ歯医者に行かないと、今度は自分のバカを呪ってしまう。

都合良く携帯は手にある。この状況があって、歯医者に掛けない訳にはいかない。

「あああ、彼女欲しい」

耳元で鳴る発信音に何気なく言いかけた。



未来の子供達は、今の埋もれ死体と同じ宙をさまよっている。


由美は呆れていた。

「違う、ここじゃないわよ、ここに住んでいた前に、もっと山小屋みたいな所に住んでいたんだ。ここを探してもたぶん何も出てこない」

「何だいまったく、せっかく来たというのに」

隣で柳が舌打ちをする。

「それでその山小屋が何処にあるのかもわからないのか」

「わからない」

「どうしょーもねーなー全く」

またしても舌打ち。

つい数分前までご機嫌そうに自分の下調べを自慢していたのに、そうして損したと言いたそうな顔をしている。でもそうやって自分を責めるような柳じゃない。

「おい、車にワインが置いてあるはずだ、持ってきてくれ」

柳は執事に指を向けて支持をした。軽くお辞儀をしてから車へと執事は行き、そのワインが装ってあるグラスを持ってきた。

「私に割り込む立場がないのは承知していますが、一つ、考えを申し上げてもよろしいでしょうか?」

「何だ」

「まず、山小屋だとおっしゃいましたよね。ならば、衛星写真や、ヘリなどでしらみつぶしに探すのは一つの方法です。しかし、その全てへ行くのも大変ですし、行っても、見覚えがあるのかどうかもわかりません。ほとんどは他人の別荘ですから」

「ならば、なんだ」

「もう調べてあるデータベースを使えばいいんですよ。二人とも、「ポツンと一軒家」というテレビ番組をご存じでしょうか?」

「知ってる」

「ならば、その調べてある、山の中にあった一軒家から、住人がいなかったものを取り寄せるんですよ。その中を探していけば、例の山小屋が混じっているかもしれません。まあ、もちろん、入ってない事もあり得ますが」

「いや、いい、いいぞ!寺原、それをしよう」


こいつ寺原っていうのか。それより、たしかに名案だ。やってみる価値もあるし、柳がテレビ局に頼めば簡単に出来るだろう。その間に、私は出来るだけ昔の記憶を探らなければならない。何か大事な事が頭の先端で重みを露わにしている。仕方なく地面を見つめるように顔が前かがみになり、無意識に閉じこまれた思い出を口へと引きずり落そうとする。しかし思い出せない。しょっちゅう父さんの言っていた事だったのはなんとなく解る。それでも内容が...

「由美、行くぞ」

「あ、はい」


テレビ朝日で適当な担当者を探すのに大した時間はかからなかった。柳のコネは思っている以上にも広く行き渡っているようで、このまま簡単に見つかるんじゃないかと思った。父の野望が始まり、そして知らぬ間に私も汚染された場所へ。

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