第6話 権力

アメリカ、ニューヨーク。ちょうど由美が夢を見ている頃、とある男が豪邸でお茶を飲みながらテレビを見ていた。

「執着心だな」

「はあ...」

執事が意味不明の一言に、適当に応答する。

「俺もたしか、昔、似た用な事をしてたなあ。あの糞ジジイのおかげでだいぶ嫌な思い出が残ってるよ」

「そうですか」

「まあ、ジジイと言っても俺と同い年だったけどね、っていうか、俺ももうそろそろ六十か」

「六十歳になっても、立派な体をしてらっしゃいますよ」

「お世辞はよせ。それより音楽だ、音楽」

「いつものでよろしいですか?」

「そうだな。あ、そうだ、ジャズのレコードで新しいやつもらってたんだ。それにしてくれ」

執事は軽くお辞儀をしてから、レコードプレーヤーの方へと向かった。男は机に置いてあった複数の写真の一枚を見た。それには、明らかに体を鍛えている、自尊心が高そうな男と、もう一人、たいして特徴を持たない男とのツーショットだった。ぱっと見たら、笑顔が眩い男の方に眼がいってしまい、ツーショットだとも気付かなかっただろう。写真を見た男はニヤリと笑った。

「信濃、てめーこんどは何をしやがった?」

聞きなれたジャズが、ふんわりと流れ始めた。


プライベートジェットの中でもジャズが消え去る事はなかった。ニューヨークから約十時間、羽田まで着いた後も高級イヤフォンから微かに聞こえてくる。独特なオーラをかざすこの男の後をついていけば、やがて三千万円を超える車に乗り、高速を走った後、都会と田舎の割れ目にある豪邸にたどり着く。しばらくすれば、その豪邸が数十件のたった一つである事を知り、ボリーガードが常に気付かれない具合で周りにいる事に気付いたら、お金にまみれた生活を送るこの男の本性が解るだろう。初めて見かけた時の魅力的なオーラは、極限まで成長した見下しのオーラ。

「柳様、お待ちしておりました」

高級車の元へと案内されては、自分が運転席を取る。せっかく免許を持ってるのに、運転しないなんてもったいない。追い越し車線は、高速を下りるまででない。家まで着くと、空港の見覚えがある車が三台ついてくる。

「お疲れ様でした」

執事は二日前から日本に来ている。久しぶりにくる家の掃除、整理などに時間を費やしていた。

「食事ができていますが、後にしますか?」

「ああ、後でいい。それより、信濃の娘については調べてあるか?」

「はい、今探偵何人かにつけさせていますが、以外とネットでも調べられるものなんですね」

「やっぱりあの女が娘か?」

「はい。信濃由美といいます。ブルーバードというバンドをしておりまして、かなりの有名人みたいです」

柳の視線は天井へとふらつき、一回うなずいた後黙り込んだ。良く仕組みも知らねえ、不愉快な相手に勝つ方法とは何か。昔、自分が信濃に執着したみたいに、今は由美に執着する者が出てきていた。おそらくバンドデビューが引き金だろう。今はなるべく自分のライフスタイルを変えずに、由美との接触を避けた方が身のためだ。

「洗脳された時どういう感じだか解るか?まったく不自然じゃないんだよ。全て自分の考えと感情だし。後になってから気付くんだ、自分がどういう事をしてきたか。だけど、普通の生活でもそういうのあるからな。お前も気をつけろよ」

「はあ...」

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