壁神は、囁く

優白 未侑

壁神

 私には、絶世の美女と言っても過言でない彼女がいる。

働き始めた頃、職場で美人という理由で虐められいるところを助けたのがきっかけで付き合い始めた。

何をとっても平凡な私に比べ、勉強、仕事、スポーツ、容姿何をとっても完璧である彼女。

そんな彼女にも、同棲を始めてから分かった欠点があった。

「神様‥‥‥神様‥‥‥今日は、どうしましょう?」

 何の変哲もない壁紙に彼女は、毎朝決まって8時に話しかける。

決して何かを信仰している訳でもない彼女がなぜ、神をとも思ったが私にわからない何かが彼女には、あるのだろう。

そう思って、知らないフリをしていたのだが、その日は、少しだけ違った。

「貴方も神様に話しかけてみて、悩み、あるのでしょう?」

「私は‥‥‥」

そう断ろうとしたが、確かに最近、仕事がうまく行かず、上司にも嫌気がさしていた。

どうしてか、私も彼女の勧めを断れず、その壁紙に話しかける。

「ほら! はやく!」

どこか落ち着かない様子の彼女を尻目に私は、悩みを打ち明ける。

「仕事がうまくかず上司とも仲が良くないです。どうすればいいでしょうか」

『カサ、モッテイク』

「傘か‥‥‥!!!」

私は、直接脳に語るような声に本来は、驚くはずなのに、あまり驚かない自分に驚いてしまった。

「良かった。貴方にも聞こえたのね」

「あ、ああ。傘、持っていくよ」

「分かったわ!」

晴天の今日この頃。

傘を持っていくという行為は、愚のはずで、彼女もいつもなら注意するだろうが、神様の声と聞いていたからか、奇妙なほど、従順に私のいうことを聞いてくれた。

その日、私は、安いが大切に使い古されたビニールを持って会社へ出た。


 そして、数日後、私は、葬儀場にいた。

神様に言われ傘を持って行った私。

退社時に、突然の豪雨がおき、上司は、私の傘を盗んで帰宅した結果、駅の階段で傘が足にかかり、転びそのまま死んでしまったのだ。

神の声は、本物なのであった。


 それからというもの、私は、彼女と毎日神の声を聞くようになっていた。

「神様、今日は、何をおっしゃるのかしら?」

「私も早く聴きたい」

時間は、朝7時30分。

本来なら、8時に聴ける神様の声であるが今日は、会社で珍しく朝から会議があり、8時前には、家を出る必要があった。

焦ってしまう。

神の声が聞きたい。

「こんな朝から電話‥‥‥貴方待ってて。いい、8時前は、神様が寝ぼけているから話しかけては、ダメよ」

焦る私を尻目に彼女は、そう忠告すると電話をするため、外していった。

はやる気持ちを私は、抑えきれず、神様に声をかけてしまう。

「神様! 朝からすみません! 今日は、私何をすれば!」

『‥‥‥』

反応が無い。

私は、もう一度神との交信を試みる。

「神様!」

『‥‥‥』

「はい!」

私は、聞こえ辛いが、確かに聞こえた。

やることも明確になり、私は、急いで準備をするため、近くのデパートに向けて外へ出ていった。

「初めてだから、ちゃんとヤれるかな!」

その足取りは、いつになく意気揚々出会った。


 不穏な噂が立つ。

ある同棲をした、独り言の多いカップルがその日お互いに刃物で刺し合い心中を図った。

奇跡的に生き残った女は、しきりにいうのだ。

「彼に殺されたい。一緒に死にたい。彼に殺されないと。一緒に殺しあわないと‥‥‥私は、死んでしまう。家に帰りたい。会いたい、会いたい





神様(あの人)に」



 医者や警察は、それをみて、彼女は、心神喪失による心中未遂と断定。

彼女は、牢の中で誰もいるはずのない壁に話しかけながら孤独に死んでいった。


「神様、今日は、どうすればいいでしょうか?」

そして、そんな噂も廃れたある家の壁紙、今日も1人の男がその壁紙に話しかけるのであった。

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壁神は、囁く 優白 未侑 @siraisi

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