他編 同ジ色ノ濁リカタ

東郷 椎菜とうごうしいな

17歳

不思議な雰囲気を醸し出す女子生徒。そらに興味を持ち、今回の事件を共にする



夢野 彩ゆめのいろ

17歳

生徒会副会長になった夢野 天ゆめのそら の双子の姉。

人を寄せ付けぬ冷たい瞳には孤独が写っている。






役表

東郷 椎菜とうごうしいな♀:

夢野 彩ゆめのいろ ♀:



※ナレーションを3人目にするのも可です

その場合はナレーションのみの担当でお願いします




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     血桜ハ還リ咲ク 零章

     他編 同ジ色ノ濁リカタ






東郷 椎菜とうごうしいな

(私は今日この月ノ都つきのみやこ学園を去る

普通の学園生活だったけど色々と収穫があった

実力も伸ばせたし、情報も得れた

これだけでここに来た意味はあったわね

毎日毎日、本当につまらない日々だったけど

それも、もうおしまい)



東郷とうごうは携帯端末で通話をかける。

その相手はかけてすぐ通話に応答したようで

いつもの胡散臭い敬語で淡々と話し続けていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「えぇ、今日でここを去るわ

色々と助かったわ

あの時の情報、役に立ったでしょ?

とはいえ、よく会長が怪しいって気づいたわね…

どこからそれに気づいたっていうの?

ソースは話せない?

あら、そう…どこまでもケチなのね

えぇ、そうね

また何かわかったら連絡をちょうだい

その時はまたお礼でもするわよ

それじゃあそろそろ行くわ

さようなら」



通話を切ると辺りに静寂が走った。

月夜が学園内を照らしている。

現時刻は既に22時を超えており、生徒は理由なく寮からの外出が禁止されていた。

定時に巡回を行う警備員か、生徒会役員

そして今日卒業する東郷とうごうぐらいしか本来は歩いていないだろう。

はずだったのだが、一人の女子生徒が静かに夜風にあたりながら歩いていた。

東郷とうごうはふと、その生徒に話しかける。



東郷 椎菜とうごうしいな

「こんな時間に出歩くなんて悪い子ね、不良生徒さん?」



夢野 彩ゆめのいろ

「それを言うなら貴女もじゃないかしら?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「残念、私は今日卒業したばかりなの

だからもう生徒じゃないわ」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう…おめでとう」



二人はしばし無言になる。



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴女…どうしてこんな夜更けに出歩いているの?

いい夜だとは思うけど、何かお悩み中だった?」



夢野 彩ゆめのいろ

「………特に意味はないわ、気まぐれよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「へぇ~気まぐれね

でも最近学園は物騒で、出歩く生徒もあまりいないって言うのに

なんだか怪しいわね~

貴女に少し興味が沸いてきたわ」



くるりと振り返り、どこからか出した缶コーヒーを見せる。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ちょっとお話でもしない?」



二人は少し歩いた先にある広場へと向かう。

そこにある東屋に入ると向かいあうように腰かけた。



夢野 彩ゆめのいろ

「それで…私に何か用?

正直私は貴女の事全く知らないのだけれど」



東郷 椎菜とうごうしいな

「特に用ってわけじゃないわ

今日で学園を去っちゃう卒業生を見送るぐらいしても罰は当たらないんじゃない?」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう…見送るって言っても何かしてほしいの?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「別に、ただ話でもしたいなと思ってね」



夢野 彩ゆめのいろ

「話?……えぇ、構わないわよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ありがとう、じゃあ聞いてもらうわね

私、防衛隊に入る事になってね

志願してテストを受けたら一発合格

特例卒業って一年に1回あるかないかの事らしいわ

凄いでしょ?」



夢野 彩ゆめのいろ

「えぇ、そうね。とてもすごいわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「………ところで怪しい雲行きね

そろそろ雨が降るかもしれないわ

貴女は大丈夫なの?

傘なんて持ってないんでしょ?」



夢野 彩ゆめのいろ

「そうね、降るかもしれないわね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「………貴女、相槌打つの下手くそなのね

下手な面接官でも、もっとマシな返しをするわよ」



夢野 彩ゆめのいろ

「そうかしら?ちゃんと聞いてはいるつもりだけれど」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ずっと反復した言葉返しだから飽きちゃうのよ

もっと返事の仕方を覚えた方がいいんじゃない?」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう…それはごめんなさいね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「フフッ………悪いなんて思ってない癖に」



東郷とうごういろの目をじーっと見つめる。



夢野 彩ゆめのいろ

「なにか付いてるかしら?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴女の目、私と似ているわね」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう…?目なんてどれも変わらないわよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴女…この学園にどうして所属しているの?

周りの誰よりも断然強いわよね

今すぐにでも生徒会にだって入れちゃうぐらい

勉強に興味があるってようにも見えない

こんなところに通っているのはどうして?」



夢野 彩ゆめのいろ

「どうして………そうね、なんとなくよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「なんとなく?」



夢野 彩ゆめのいろ

「私の心は空っぽ…

埋めるためにここに来たけど違ったみたい

ここは私の居場所じゃなかった」



東郷 椎菜とうごうしいな

「空っぽ…?」



夢野 彩ゆめのいろ

「ただの独り言よ、忘れていいわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ふ~ん、そっか

あまり詮索はしないわ

どうせ聞いても答えてくれないんでしょ?

というより答えることがないって顔だけど

じゃあ次は私の話でも聞いてみない?」



夢野 彩ゆめのいろ

「興味ないって言ったら話さないの?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そう言わずに暇つぶし程度に聞いてちょうだい

どうせやる事もないんでしょ?」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう、じゃあ聞くわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私にはやらないといけないことがあるの

そのために学園に来たんだけど

ここにそれはなかったみたいでね

だから卒業することにしたのよ

でもここに来た意味はあった

いいキーワードを教えてもらってね

その目的が防衛隊に入れば辿り着けそうなの」



夢野 彩ゆめのいろ

「キーワード?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私はとある人を探しててね

そいつの息の根を止めることが目的…

簡単に言えば…復讐よ」



夢野 彩ゆめのいろ

「復讐……へぇ、そうなのね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「どう?理由としては不純でしょ?」



夢野 彩ゆめのいろ

「いえ?素敵だと思うわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「·····え?………ヒヒッ、アッハハハ!」



夢野 彩ゆめのいろ

「何かおかしなこといったかしら?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「復讐をまさか素敵なんて言われると思ってなくてね!

普通はそんなの良くないだとか

驚いて聞いてきたりとか説教垂れたこと言うかと思ってたら

予想外の答えが来て面白くて!

…悪かったわね」



夢野 彩ゆめのいろ

「いえ、全く気にしてないわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私、貴女にもっと興味が沸いてきたわ」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう…?私はあまり気になってないんだけど」



東郷 椎菜とうごうしいな

「本当に冷たいわね……」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう?そんなに寒い?

濡れてるからかしら…?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そうじゃないわ

表面上じゃなくて内面的な部分

貴女の心、芯とするもの…本当に冷え切ってる

冷たくて……空虚で……

吹雪の真っ只中みたい

そんな風に見えるわ

貴女はどう思ってるか分からないけど私は貴女との話、とっても楽しいわ」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう、それはよかったわね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そういえば最近面白い子と出会ってね

その子、仲がよかった子がみんな死んじゃったんだって

それからというもの例の事件についてずっと調べてる、健気よね」



夢野 彩ゆめのいろ

「へぇ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そんな子が今や生徒会にまでなるぐらい強くなったんですって

果たしてその実力はどこから来たものなんでしょうね」



夢野 彩ゆめのいろ

「さぁ?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「遠くから見てたんだけど知らない技を使ってるみたいだった

本人もそれをわかってて使ってるのかな?

でもその技を見た時、眩しく感じるような温かい感覚になったの

照り付けて痛いとまで感じるほどにね

その時に思ったの

きっとあの子は私たちと真逆な存在なんだってね」



夢野 彩ゆめのいろ

「よくわからないけど

戦ってもいないのに変な事を言うのね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「向かい合わずともわかるのよ

その力は先天的なものなのか

それとも誰かに教え込まれたものなのか

どっちだと思う?」



夢野 彩ゆめのいろ

「残念だけどあの子の事は私は何も知らないわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「まだ誰の事とは言ってないんだけどな~

何か心当たりでもあるの?」



夢野 彩ゆめのいろ

「回りくどいからさっさと答えただけよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「興味がないって顔ね

どうして?姉妹っていうと少しは知ってると思ってたわ」



夢野 彩ゆめのいろ

「えぇ、私が周りからどう思われてるのか知らない

あの子がどう生きようが、なにを目指そうが

その結果どうなろうが私には関係がないの」



東郷 椎菜とうごうしいな

「身内にも冷たいのね

でも、そういうところも嫌いじゃないわ

ただ貴女モテなさそうね」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう?そんなもの興味ないわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「冗談、からかっただけよ

本当は貴女結構注目されてるのよ

知ってる?」



夢野 彩ゆめのいろ

「知らないわ

何を言われようと好きに言わせておけばいい」



東郷 椎菜とうごうしいな

「悪口ならまだしも褒められているんだけどね」



夢野 彩ゆめのいろ

「褒められたところで何も嬉しくないわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ふぅ~ん?全然色気づかないのね

この年代にしては珍しいんじゃない?」



夢野 彩ゆめのいろ

「貴女と同じよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「まさしくその通りね

やっぱり、私たち似ているわ」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴女の事もっともっと知りたくなってきたわ

どれだけの技を使うんだろう

どの武器を使うんだろう

どうやって相手を追い詰めるんだろう

どんな目をして戦うんだろうってね」



夢野 彩ゆめのいろ

「どうでしょうね?

どんな目なんて私には答えようがないわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「どう?こっちから仕掛ければ反応してくれる?」



東郷とうごうは拳を握り締めた。

そして夢野 彩ゆめのいろの顔面へと振りかぶった。

しかしいろはその攻撃を避けることなくモロに食らう。



東郷 椎菜とうごうしいな

「え、ちょっと避けないの?」



殴られた拍子に吹き飛ばされ、濡れた地面に倒れ伏した。

東郷とうごうは駆け寄るとその表情を見つめる。

その顔を見て東郷とうごうは驚いた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴女……そんな顔もできるのね」



夢野 彩ゆめのいろ

「そんな顔……?私どんな顔をしているの?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「初めて見たわ、貴女のそんな顔…

とってもいい顔よ

まるで生きているみたい」



なぜかその顔は少し微笑むように見えたのだ。

東郷とうごうは倒れたいろを起こすように身体を持ち上げると互いに泥に塗れながらも立ち上がった。



東郷 椎菜とうごうしいな

「ごめんなさい、服汚れちゃったわね」



夢野 彩ゆめのいろ

「それは貴女もでしょ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私はもうこの学校辞めるからいいけど

貴女はそうじゃないんでしょ?

クリーニング代くらい出すわよ」



夢野 彩ゆめのいろ

「いらないわ、別に汚れてても構わないし」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ヒヒッ…やっぱり面白いわ貴女」



夢野 彩ゆめのいろ

「…そう」



東郷 椎菜とうごうしいな

「ねぇ、一つ聞いてもいい?

貴女が思う人の幸せって何?」



夢野 彩ゆめのいろ

「さぁ?考えたこともないわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「何かを達成する、手に入れる、叶える

幸せってものは色々なものがあるそうなの

自己完結できるものは叶えるのはそう難しくない

でも、他人が絡むとそう簡単にはいかなくなるでしょ」



夢野 彩ゆめのいろ

「そうね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「好きな人と結婚する、愛し合う、子を作る

そういうものは一人じゃできない

どう?わかりやすいでしょ」



夢野 彩ゆめのいろ

「えぇ、わかりやすいわね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「普通の人ってそれを幸せと呼ぶそうなの

でも私たちはそのどれにも興味がない

それらではこの心は満たされない」



東郷とうごういろに巻き付くように物色する。



東郷 椎菜とうごうしいな

「心の穴は他人では満たせない

それは拠り所になりえないから

そうでしょ?」



夢野 彩ゆめのいろ

「……そうかもしれないわね」



東郷 椎菜とうごうしいな

「でもそんな私たちが満たされるものってなんでしょうね」



夢野 彩ゆめのいろ

「さぁ?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「私たちの欠けた心にあるもの

それは人の不幸で埋められる

唯一、私たちが求めずとも与えられるもの

そうでしょ?」



夢野 彩ゆめのいろ

「不幸…」



その言葉を聞いた瞬間、いろの瞳が揺らぐ。

まるで興味を持った子供のような瞳をしていた。



東郷 椎菜とうごうしいな

「やっぱりそうなのね

私と同じ目をしてる」



夢野 彩ゆめのいろ

「貴女は何を言いたいの?

私を知ってどうしたいの?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「別に、何か深い意味はないわ

ただの興味本位よ

こんなに他人のことを知りたいって思ったのは初めてだったのよ」



東郷とうごういろから離れて雨の中ずぶ濡れになりながら空を眺める。



東郷 椎菜とうごうしいな

「さっきの質問は自問自答みたいなものだったの

でも、ありがとう

おかげで色々と覚悟が決まったわ」



夢野 彩ゆめのいろ

「よくわからないけれど役に立てたならよかったわ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「よかったなんて思ってない癖に」



夢野 彩ゆめのいろ

「本当に思っているつもりなのよ」



東郷 椎菜とうごうしいな

「そっか、ありがと」



夢野 彩ゆめのいろ

「…それで、何か得たものはあったの?」



東郷 椎菜とうごうしいな

「結構、有意義だったわ

貴女と話していると感性が戻ってくる感じがある

久しぶりに人と話した気分になれたわ

とても楽しかった」



東郷とうごうはそのまま振り返った。



東郷 椎菜とうごうしいな

「今日はありがとう

学園最後にいい思い出ができたわ」



夢野 彩ゆめのいろ

「そう」



東郷 椎菜とうごうしいな

「貴女を友達と呼んでもいい?」



夢野 彩ゆめのいろ

「好きにしたら?

私はなんでも構わないから」



東郷 椎菜とうごうしいな

「それじゃあ、さようなら

私の最初で最後の友達さん」



夢野 彩ゆめのいろ

「……さようなら」



東郷とうごうが去っていくのを見送るように眺めながらいろは呟いた。



夢野 彩ゆめのいろ

「友達………ね

そんなの…あってどうするつもりなのかしら

私には……わからないわ」



他愛もないこの会話だが彼女たちなりに意味のあった時間となった。

闇に生きる二人は暗く重たい運命に対して抗う術をこれからも模索し続けるだろう。

そう、その為なら…どんな事をしてでも。



M→東郷 椎菜とうごうしいな

私たちの道は交わることはない



M→夢野 彩ゆめのいろ

私たちが助け合うことはない



M→東郷 椎菜とうごうしいな

私たちは幸せにはなれない



M→夢野 彩ゆめのいろ

似通った私たち



M→東郷 椎菜とうごうしいな

その瞳は同じ色の濁りかたをしていた






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