始編 桜ヲ植エル日ノ事

登場人物名

八木原 旭やぎはらあさひ

17歳

同好会の創設者。面倒見がいい。男子生徒。



岩城 定介いわきじょうすけ

16歳

~っすといった特徴的な語尾の男子生徒



夢野 天ゆめのそら

16歳

学園ではひっそりと人気な女子生徒



南雲 月夜 なぐもつくよ

15歳

自由気ままな女子生徒




Nは→後のキャラ演者が読む




役表

八木原 旭やぎはらあさひ♂:

岩城 定介いわきじょうすけ♂:

夢野 天ゆめのそら ♀:

南雲 月夜 なぐもつくよ♀:

ナレーション&黒いローブの男♂:




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      血桜ハ還リ咲ク 零章

       「桜ヲ植エル日ノ事」




N→ナレーション

これは今は忘れ去られたとある日々

妖刀の中で刻まれている失われた命の記憶

間違った道に逸れて堕ちた青年の記憶を呼び覚ましてみるとしましょう




冬の寒さが落ち着いてきた3月上旬。

月ノ都つきのみやこ学園の屋上にて一人の青年が校庭を眺めていた。

成績表と進路調査票を手に呆然ぼうぜんと風に吹かれながら考え事をしており、溜まっていた愚痴を漏らすように独り言を呟く。



八木原 旭やぎはらあさひ

「はぁ………どうするかなぁ~

やりたいこと…って言われても

そんなもんがあったら苦労してねぇんだよな」



N→ナレーション

フェンスを乗り越え、パラペットから足を乗り出して座る。

ここは風通しがよく、考え事をしたいときには打って付けの場所であった。

屋上から演習授業を行っている者や足早に歩いている生徒がよく見え

最近ではそれを眺めながら物思いにふけることが多くなっていた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「やる事決まってるやつらが羨ましく見えるな

俺はどうしたもんかなぁ~」



N→ナレーション

進路調査票を睨むように眺めていると

突然、階段を物凄い勢いで走ってくる音が聞こえてくる。

フェンスの先は基本安全のため立ち入り禁止であり

教師や生徒会にバレたのかと思い、驚いて立ち上がった。



八木原 旭やぎはらあさひ

「おっと、教師とかに見られたか?」



N→ナレーション

屋上の扉を開けて出てきたのは、教師や生徒会ではなく普通の生徒のようで

その女子生徒は焦った様子でこちらに向かって近づいてきた。



夢野 天ゆめのそら

「ね…ねぇ!早まらないで?

少し落ち着きましょう!?私でよければ話し相手になるからさ…!?

だから一旦そこから出ましょう?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あっ…えっと……あ~?ありが…とう?

・・・・ん?ちょっと待ってくれ?何か勘違いしてないか?」



夢野 天ゆめのそら

「え…?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「…ひとまず落ち着いてくれ

まず君は誰だ?」



夢野 天ゆめのそら

「えっ…私は第一学年の夢野 天ゆめのそらよ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「とりあえず…なんかすれ違ってる気がするから話を整理しようか?」



N→ナレーション

八木原やぎはらはフェンスから屋上へと戻り、二人は隣り合うようにベンチに腰掛ける。

どうやらこの女子生徒は自分が屋上から飛び降りでもしようとしているのかと思い、焦って止めようとしてくれていたようだ。



八木原 旭やぎはらあさひ

「つまり…俺が自殺でもしようとしてるかと思って急いで来たのか?」



夢野 天ゆめのそら

「そ…そうなんです…

表情も思い詰めてるようでしたので…てっきり」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ぷっ…あははははは

そんなことしねぇって

たとえするとしてもあんな目立つところでしようなんて思わないだろ」



夢野 天ゆめのそら

「その…ごめんなさい

こっちの思い込みで休み時間を邪魔してしまったみたいで」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あー敬語じゃなくていいって

どうせ1年しか歳も変わんねぇからな

ところで君はなんて呼べばいい?」



夢野 天ゆめのそら

「そ、そう?

それじゃあ名前でお願いしてもいい?

苗字で呼ばれると…ちょっと色々あって名前の方がいいかな」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうか…じゃあそらでいいかな?

俺の方も名前でいいぞ

八木原やぎはらだと文字数が多いしな」



夢野 天ゆめのそら

「それじゃあ…えっとあさひ君でいいかな?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「おう、それでいいぞ

ところでこんな時間にそらはなにしてたんだ?」



夢野 天ゆめのそら

「私も休み時間だったから考え事をしてて

空を眺めてたら屋上にいるあさひ君が見えて…って感じかな」



八木原 旭やぎはらあさひ

「考え事か…」



夢野 天ゆめのそら

あさひ君はどんなことを考えてたの?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ん?別に大したことじゃないんだがな

俺は来年で三年だろ?

卒業か就職かって時期になるわけなんだが…

特に何をやりたいってわけでもねぇんだよな

どうするかな~って思ってよ」



夢野 天ゆめのそら

「進路かぁ…私もまだ考えてないな」



八木原 旭やぎはらあさひ

「まだお前は一年だろ?

ゆっくり考えればいいんだよ

どうせ二年も色々やってたら気持ちが変わる事だってあるしな」



夢野 天ゆめのそら

「そう…ね。あさひ君は就職するとして

どこに入りたいとかあるの?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうだな…普通にこのまま警察学校に行くってのが楽なのかな

あまりV.H.A.ぶいえいちえーに入って化け物と戦うってのも

いまいちピンと来ないんだよな」



N→ナレーション

八木原やぎはらが悩んだ表情を浮かべていると

突然そらはハッと何かを思い出したような顔をする。



夢野 天ゆめのそら

「あ、そうだあさひ君!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「お、おう!?どうした急に?」



夢野 天ゆめのそら

「もしよかったらなんだけどさ

紅茶とかって飲む?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「紅茶?」



夢野 天ゆめのそら

「あ、もしかして飲めない?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「別に飲めなくはないんだが、それがどうしたんだ?」



夢野 天ゆめのそら

「私が淹れてきたのがあるんだけどよかったら飲まない?

せっかくのお昼だし、一息つくのもいいと思うの」



N→ナレーション

そらはそういうと持っていた小さなカバンから水筒とプラスチックのコップを取り出す。

そして水筒からコップに注ぐと、八木原やぎはらに手渡した。

中身は冷たい紅茶のようで、いい香りが手元から漂ってくる。



八木原 旭やぎはらあさひ

「おーいい匂いだ

それにちょっと変わった色してるんだな?

自販機とかで売ってる午前の紅茶とかより濃い色をしてないか?」



夢野 天ゆめのそら

「その茶葉は私が寮で作ってるものなんだ

だから私のお手製の紅茶なの!

自信作なんだけどよかったら感想とかほしいかなって」



八木原 旭やぎはらあさひ

「おーすごいな、そんなことができるのか

わかった。じゃあ遠慮なくいただくぞ」



N→ナレーション

八木原やぎはらは匂いを嗅ぎ、ゆっくりと口に入れる。

落ち着くような香りと、口の中に濃厚だが飲みやすい茶葉の味が広がり、静かに飲み干すとほっとため息をつく。

不思議とリラックスするように肩の力が抜け、口からは咄嗟に感想をこぼしていた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「これは美味しいな」



夢野 天ゆめのそら

「そう??ならよかった!

人に飲んでもらうの実は初めてだからちょっと緊張しちゃった!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうなのか?ほかの友達には飲ませたりしなかったのか?」



夢野 天ゆめのそら

「あんまり紅茶が好きな子が周りに居なくて飲んでくれる人がいなかったの

みんな演習とかで身体を動かす機会が多いから

ジュースとかスポーツドリンクとかばっかりで私も無理には勧めてなかったの」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうなのか?でもこれ結構美味いぞ?

普通に店とかで出てもこれは人気出るぞ」



夢野 天ゆめのそら

「そ、そ…そうかな?

あ、あのね?まだあるんだけど

実はこれに合うお菓子もあって、こっちも手作りなんだけど一緒に食べたら合うと思うんだ」



N→ナレーション

そらはバッグから菓子の入った袋を取り出す。

中身はバームクーヘンのようで、手作りとは思えないほど形が整っているそれは

小腹が空いていた八木原やぎはらの食欲をそそる。



八木原 旭やぎはらあさひ

「是非いただきたいな」



夢野 天ゆめのそら

「うん!食べて食べて!

ちょっと今日は上手くできなかった方なんだけど

それでも不味いなんてことはないから安心してほしいな」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうなのか?でも美味しそうだけどな

遠慮なくいただくぞ」



N→ナレーション

八木原やぎはらは綺麗に切り分けされていたバームクーヘンの一欠片を手に取った。

ふわふわした柔らかさとほのかに甘い香る匂いが、食欲を再熱させる。

がっつくように少し手早に口へと放り込んだ。



八木原 旭やぎはらあさひ

「なんだ!すごく美味いじゃないか!

これはすごいな!しかも甘すぎないから紅茶にすごく合うな!」



N→ナレーション

そらは嬉しそうに笑い、照れるように顔を背けていた。



夢野 天ゆめのそら

「そ、そう…かなぁ?エヘヘ…

そんなに褒められるとうれしいな」



八木原 旭やぎはらあさひ

「いやいや、これはもっと色々な人に見せてもー」



夢野 天ゆめのそら

「そんなことないって!もっと上手い人は沢山いるし」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そんな謙遜けんそんしなくたっていいと思うが…」



N→ナレーション

すると校内に13時のチャイムが鳴り響く。

二人は授業の時間まで残り10分になっていたことに気がついた。



夢野 天ゆめのそら

「あ。もうこんな時間?

私そろそろ行かなくちゃ!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そういや俺も次から授業か…」



夢野 天ゆめのそら

「それじゃあ…私急ぐね!またねあさひ君!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「お、おい!?気をつけろよ?」



N→ナレーション

そらは急いだ様子で水筒をバッグにしまい、急いで立ち去ってしまった。

屋上に残された八木原やぎはらはくすっと笑い、独り言をこぼす。



八木原 旭やぎはらあさひ

「急いで現れたと思ったら急いで帰っていきやがった

台風みたいに騒がしい子だな

そらか…」



N→ナレーション

八木原やぎはらもゆっくりと授業の教室まで歩いていくことにした。

それから次の週の同じく昼休み。

先週と同じく屋上で校庭を眺めていた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「はぁ~…この時間はほんと暇だなぁ」



N→ナレーション

八木原やぎはらは先週の事を思い出す。

そらと話す時間が想像以上に楽しかったようで、最近はふと思い返すことが多くなっており、それが八木原やぎはらのひと時の楽しみとなっていた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「まぁ…来るわけねぇか」



N→ナレーション

すると再び階段を上がってくる音が聞こえる。

この時間に屋上に来る生徒は少ないので、八木原やぎはらは少しの期待を込めて扉を見つめた。

扉から出てきた女子生徒は笑いながら名前を呼ぶ。



夢野 天ゆめのそら

あさひ君。先週ぶりだね!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「おう、そら

また来たのか?」



夢野 天ゆめのそら

「そうなの。この時間ってみんな学食とかに行くんだけど

私は自分で作ったりしてるから一緒に食べに行けなくてね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうなのか?まぁ持参のを持って学食の席には座りづらいよな

結構毎日混んでるみたいだしな」



夢野 天ゆめのそら

「そういえばあさひ君はお昼ご飯とかどうしてるの?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ、俺は朝にパンとかを買って適当に食べてるからな

場所はどこでもいいんだよ

いつも人がいなくて静かだからここに毎日いるんだよ」



夢野 天ゆめのそら

「そうなんだ?まぁでも寮もちょっと遠いからお昼の間に行き来するのは大変だものね

そうだ、まだお弁当食べてないんだけど一緒に食べてもいい?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ。構わないぞ?とりあえず座れよ」



N→ナレーション

そらが隣に座り、弁当箱を取り出した。

中にはまたしても手作りのようで、きれいに盛り付けされており、そらの女子力の高さを伺わせる。



八木原 旭やぎはらあさひ

そらは料理とかそういうのが得意なのか?」



夢野 天ゆめのそら

「まぁ…お菓子とかはそうだけど

料理は結構小さいころからやってたから慣れてるってだけだよ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうだったのか?でもすごい綺麗に作ってるよな

母親とかに教わったのか?」



夢野 天ゆめのそら

「あ、いや…えっと

私……親がいなくてさ

自分でやらないとだめだったんだよね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうだったのか……悪かった」



夢野 天ゆめのそら

「ううん、気にしないで?

一緒に住んでた人がいたんだけど

その人達どっちも料理なんてできなかったから

私が作らないといけなくて頑張って覚えたんだ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ふーん。でもそれで覚えたのはすごく偉いな

俺なんて台所に一度も立ったことないぞ」



夢野 天ゆめのそら

「男の子なんてそんなもんじゃない?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「まぁそうかもな」



N→ナレーション

二人はお昼ご飯を食べて終わると先週のように

紅茶を飲みながらお菓子を食べる日を毎週、時間を決めて過ごしていた。

八木原やぎはらそらと話しているうちに心を開いていく。

二人は時々授業の内容について話をするようになっていた。

そうした日々の中、思いついたアイデアを八木原やぎはらは話し始める。



八木原 旭やぎはらあさひ

「なぁそら。一つ思いついたんだが

こんな感じで俺らみたいに暇な生徒を集めてお茶会みたいなのをするって良くないか?」



夢野 天ゆめのそら

「それ楽しそうね!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「部活動みたいに活動するには生徒会の許可とか

事前の人数とか、顧問が必要だとか

設立が大変そうだから、同好会みたいな形でやるのがよくないか?

当然、部費とかはないから費用は毎回自分たちで出すことになるけどな」



夢野 天ゆめのそら

「そう…それは仕方ないかもしれないわね

でも私の紅茶の実は毎回作っては植えてるからまだまだストックがあるし

他にも市販のでもいいからお茶するのはいいかもね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「まぁ費用とかあったら俺に言ってくれれば出すくらいはできるから一度やってみないか?」



夢野 天ゆめのそら

「それ賛成!やってみましょう!」



N→ナレーション

それから少しして八木原やぎはらは同好会設立の届け出を生徒会の情報管理員に出してきた。

その間に二週間ほど経ち八木原やぎはらたちは学年が一つ上がり第三学年となる。

学年が変わったことによる変更に慣れ始めた頃

生徒会から先の申請が受領された報告のメールと、使用してもよい空き教室の場所が送られてきた。

そらにそれを教え、二人はその日の放課後に同好会の教室に向かうことにする。

あまり授業で使用されることが少ないC棟の4階にある教室の一室のカギを教師から受け取ると部屋の前に向かう。



夢野 天ゆめのそら

「ここが同好会の教室なのね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「開けるぞ」



N→ナレーション

鍵を使って、扉を開くと中には机やソファー、長らく使っていなかった様子の棚

段ボールの山や使われなくなった資料の束が

乱雑に置いてあり、部屋内は少しほこりっぽい空気が広がっていた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「これは…数年使われてなかったような場所だな」



夢野 天ゆめのそら

「まずは掃除からしないと…よね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうだな。ゆっくりやってみるか」



夢野 天ゆめのそら

「そうね、一緒にやりましょ」



N→ナレーション

それから三日ほどかけて、部屋内の掃除を終える。

部屋は見違えるように整理され

窓を開けて換気をすることで

三日前のそれとは比べ物にならないほどに綺麗になった。



八木原 旭やぎはらあさひ

「かなり綺麗になったな

しかも…結構いいソファーが置いてあったんだな」



N→ナレーション

部屋の中には段ボールの山に隠れるように高そうなソファーが置かれていたのだ。

綺麗に拭けば使えそうなので、これからも使用することにする。



夢野 天ゆめのそら

「そうね。それじゃああとは人が来るかだけど

どうやって誘おうかな」



八木原 旭やぎはらあさひ

「募集文は掲示板に載せておいたぞ」



夢野 天ゆめのそら

「掲示板…?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「端末に学園内掲示板アプリがあるだろ?

そこで募集をかけてみたんだ

まさか、知らないのか?」



夢野 天ゆめのそら

「その~あんまり使ったことないからわからないんだよね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「一応載せてみたから気になる人がいれば来るんじゃないか?」



夢野 天ゆめのそら

「そうね~沢山来てくれたらいいんだけどね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「まぁ気長に待ってみようぜ」



N→ナレーション

それから次の日、二人が教室で準備をしていると扉が開く。

部屋の中を見るように、扉の先に一人の生徒が立っていた。



岩城 定介いわきじょうすけ

「あの~お茶会みたいな募集みてきたんっすけど~ここであってるっすか?」



夢野 天ゆめのそら

「いらっしゃい!どうぞ座って!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「失礼するっす!あの~ここは何をするところなんっすか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「実は特に決まってねぇんだよな

とりあえずお茶会でもしながら交流を図ろうかって感じだ」



岩城 定介いわきじょうすけ

「そうなんっすね!まだ俺以外は来てないっすか?」



夢野 天ゆめのそら

「うん。今は貴方が初めて来てくれたんだよ

あ、そうだ。名前は何ていうの?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「俺は二学年の岩城 定介いわきじょうすけっす!

気軽に定介じょうすけって呼んでほしいっす!!

よろしくっす!」



夢野 天ゆめのそら

「私も二学年の夢野 天ゆめのそら

私もそらって呼んでね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「俺は三学年の八木原 旭やぎはらあさひ

定介じょうすけ。よろしくな」



岩城 定介いわきじょうすけ

「お茶会って言うと何をするんすか?

俺やったことないんっすけどなんか必要なものとかあるっすか?」



夢野 天ゆめのそら

「特に何も持ってこなくて大丈夫よ

それじゃあちょうど定介じょうすけ君も来てくれたし

私たちもお茶にしようか」



N→ナレーション

三人分のお茶とお菓子を並べ終え、準備を終えた。

今まで屋上で飲んでいた時と違い、教室にある電源コードを使い

持参したポッドを使って温かい紅茶を淹れる。

そしてプラスチックのコップではなく、ティーカップや皿、フォークがいくつか用意されており、それをテーブルの上に並べていく。

定介じょうすけはコップに注がれた紅茶を思いきり飲み込む。



岩城 定介いわきじょうすけ

「熱っ!熱かったっす!!

でも、美味しいっす!俺あんまり飲んだことないっすけど

飲みやすくてゴクゴク飲めるっす!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「おお…温かいの始めて飲んだけど

こっちもすげぇいいな

茶葉の香りがより引き立ってて落ち着くな」



岩城 定介いわきじょうすけ

「すごいっす!そらちゃんが自分で作ってるんっすよね!」



夢野 天ゆめのそら

「そんなことないよー、やってみたら簡単だって」



岩城 定介いわきじょうすけ

「でも俺だと育てようとしても水とかあげるの忘れちゃいそうっすもん

帰ったらすぐ寝ちゃったりするからできないっすよ~」



八木原 旭やぎはらあさひ

「それは…確かに育たねぇな」



夢野 天ゆめのそら

「それじゃあ駄目よね」



岩城 定介いわきじょうすけ

「でも本当に美味しいっす!これは癖になるっすね~」



八木原 旭やぎはらあさひ

「確かにこれは中毒性あるな」



夢野 天ゆめのそら

「もう…そんなに褒めても追加でお菓子は出ないわよ!」



N→ナレーション

突然、教室の扉がガタッと鳴る音がする。

誰かがこちらを覗いているようで、扉の先から気配がした。



八木原 旭やぎはらあさひ

「誰かいるな」



夢野 天ゆめのそら

「そうみたいね?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「俺が行ってくるっすよ!」



N→ナレーション

定介じょうすけが立ち上がり扉を思いきり開ける。

扉の先の女子生徒はびっくりした様子で肩から飛び上がっていた。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「わあああぁっ!!?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「うおおおお!?

急に大声出したらびっくりするっすよ!!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「こっちも急に扉が開いたらびっくりしますよ!!!?」



夢野 天ゆめのそら

「あら?かわいい子ね、いらっしゃい」



N→ナレーション

定介じょうすけの前に立っていた小柄な女子生徒は少しオドオドした様子で室内をキョロキョロと覗いている。



夢野 天ゆめのそら

「とりあえずそんなところで立ってないで二人とも席に着いたら?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「それもそうっすね!どうぞこっちに!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「掲示板にお菓子が食べれるみたいにあったんですけどここであってますか~?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「あってるっすよ!同好会にようこそっす!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「お前…今さっき来たばかりだろ」



岩城 定介いわきじょうすけ

「まぁまぁ固いことはいいじゃないっすか!

それより自己紹介をするっす!

俺は二学年の岩城 定介いわきじょうすけっす!!

定介じょうすけって呼んでほしいっす!」



夢野 天ゆめのそら

「私も同じく二学年の夢野 天ゆめのそら

私も名前で呼んでほしいかな!

お菓子とか作ったりお茶を淹れたりしてるわ

よろしくね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「俺は八木原 旭やぎはらあさひ

第三学年だ。」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「はい!…えっと?

定介じょうすけ先輩とそら先輩と

や…?あさひ…やぎ…?えっとどっち呼んだらいいですか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「どっちで呼んでもいいぞ?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「一応二つ上の先輩なので八木原やぎはら先輩ってお呼びしますね!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「そういえば俺もまだ呼び方決めてなかったっすね

…えっと~先輩だと固いっすかね

そしたら、八木原やぎはらさんとかでどうっすか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「なんでもいいぞ」



岩城 定介いわきじょうすけ

「それじゃあ名前はなんていうんすか?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「えと…一年の南雲 月夜 なぐもつくよです!」



夢野 天ゆめのそら

「あら?新入生なのね?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「はい!そうです!」



夢野 天ゆめのそら

「学校には慣れた?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「全然慣れないです!広くて迷子になります!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「わかるっす!俺も二年生っすけどまだ半分も覚えてないから

いつも同じクラスの人に着いて行って授業の場所に着いてるっす!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「それは…そんなに誇らしげに言えることか?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「つまり覚えなくてもなんとかなるってことっすよ!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「ここを探す時も困って同じクラスの子に着いて来てもらってどうにかなったんですよ!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「その教えてくれた子ってのは一緒じゃないのか?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「あれ…?そういえば扉の前までは一緒だったんですけどいませんね?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「あれ?周りにほかに生徒いたっすかね?

ここあんまり生徒通ってないんでわかると思うっすけどね」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「う~ん?その子と話したのさっきが初めてなんです

すごい特徴的な話し方…というか語尾だったんですけど名前は聞いてなかったです」



夢野 天ゆめのそら

「そうだ!月夜 つくよちゃんも一緒にお茶どう?

お菓子も付いてるわよ」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「ぜひ食べたいです!!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「紅茶のお代わりもついでに貰えるか?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「あっ、俺も欲しいっす!

一気に飲んじゃったんでもっと飲みたいっす!!」



夢野 天ゆめのそら

「うんうん!いいわよ

ちょっと待っててね~

月夜 つくよちゃんには今朝作ったのと昨日の残りだけどパンケーキも一緒にどう?」



N→ナレーション

室内に設置された小さい冷蔵庫に入ったケーキを取り出し

月夜 つくよのお菓子とみんなの紅茶も淹れ終わると

各自のペースで飲み始める。



夢野 天ゆめのそら

「どう?月夜 つくよちゃん?

舌に合うといいんだけど」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「甘くて美味し~~~~!!

めっちゃ美味しいです!そら先輩は天才です!」



夢野 天ゆめのそら

「そっか!それならよかったわ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「だから言っただろ?謙遜しなくても美味いって」



夢野 天ゆめのそら

「今まで私しか食べたことなかったら自信がなかったの」



岩城 定介いわきじょうすけ

「でもすごいっすよ!

俺、購買のお菓子とかもたまに食べるっすけど

それよりも美味しいっすよ!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「ケーキは甘くて、バームクーヘンはふんわりしてて

とっても美味しい~~!!頬っぺたが落ち切っちゃう~~!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「甘すぎるのは苦手だと思ってたけど

しつこくなく、味がいいと食べれるんだなって最近気づいたよ」



N→ナレーション

しばらくして全員が完食するとティーカップや食器を片付け、談笑を始めていた。



岩城 定介いわきじょうすけ

「聞いてもいいっすか?

八木原やぎはらさんとかそらちゃんってどうして同好会を開いたっすか?」



夢野 天ゆめのそら

「それは私とあさひ君が前にお茶を一緒にしててね

それをこうやって色々な生徒とするのいいねって提案されたから開いたの」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「そうなんですね~

あと聞きたいんですけど!二人はどういう関係なんです~?」



夢野 天ゆめのそら

あさひ君とは友達同士よ?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「そうなんですね~?

八木原やぎはら先輩はどうなんです?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「…あぁ。友達…なのかな?

あんまりわからないな」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「そうなんですね~?ふ~ん?」



夢野 天ゆめのそら

「ちなみに二人はどうしてここに来たの?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「俺は~ちょっとクラスのみんなが真面目というか

なんか別に友達とかはいるんっすけど

どうも、お喋りとかそういうのができる感じじゃないんすよ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あー確かにな

一年目だとまだ中学生くらいの気分かもしれないが

二年、三年ってなると授業や演習も大変だし、進路とか

色々忙しいことが多くなるから

あんまり遊んでもいられないんだろうな

しっかりした仕事に就きたいってやつは

余計にせかせか動いてるってイメージだ」



岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらさんは進路とか決まってないんすか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁー。まだ決まってないんだよなー

追年してもいいんだが、あと一年あっても答えが決まらない気がしてる」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「でも私のクラスでも、もう何をやりたいって決まってる人もいますからね~

私は何も決めてないんですけどね~」



岩城 定介いわきじょうすけ

「俺は…どうするっすかね

同じく決まってないっす」



夢野 天ゆめのそら

「実は私もなのよね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ここに集まったやつの共通点としては進路が決まってないってことだな」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「なんかそれはそれで悲しいですね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「まぁお前らはまだ二年以上あるだろうが

俺は今年中に出さないといけねぇからな

ほんと大変だよ」



夢野 天ゆめのそら

「うん、でも無理しないでね?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「無理して答えが決まってたらとっくに悩んでねぇよ

お前らはまず自分の事を心配してろ」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「あ…そら先輩

一つ聞いてもいいですか?」



夢野 天ゆめのそら

「ん~?なーに?」



N→ナレーション

月夜 つくよの視線の先には綺麗に掃除し終わったあとのソファーがあった。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「あのソファーって寝っ転がってみてもいいですか?」



夢野 天ゆめのそら

「別に構わないわよ?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「それじゃあ失礼しま~す!」



N→ナレーション

月夜 つくよは勢いよくソファーに飛び乗ると身体を伸ばしてくつろぎ始める。



夢野 天ゆめのそら

月夜 つくよちゃん~あんまり強く飛び乗ったらほこりが舞っちゃうわ」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「ごめんなさ~い。でもこのソファー

めっちゃふかふか~~!このまま寝れる~

……スヤァ」



岩城 定介いわきじょうすけ

「あれ?月夜 つくよちゃん寝てないっすか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「これは寝てるな」



N→ナレーション

月夜 つくよはソファーに寝転がってから数秒で寝息を立て始めていた。

そらはブランケットをかけてあげると、優しく微笑む。



夢野 天ゆめのそら

「まだ学校に慣れてないから疲れてるのよ

時間まで寝させてあげましょ」



N→ナレーション

それから数時間後、日が落ち始め空が夕焼け色に染まっていた。



夢野 天ゆめのそら

「そろそろ起こした方がいいわよね

月夜 つくよちゃーん?起きて?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「スースー…」



夢野 天ゆめのそら

「起きないわね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「もっと強く起こせばいいんじゃないか?」



夢野 天ゆめのそら

「なんかそれはそれで可哀そうなのよね」



岩城 定介いわきじょうすけ

「俺に任せてほしいっす!」



N→ナレーション

定介じょうすけは何かを持ったまま月夜 つくよに近づき首元に何かを当てる。

数秒後、月夜 つくよが飛び上がるように目を覚ました。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「つめたあああああっ!!!

なんてことするんですか!?定介じょうすけ先輩っ!!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「起きなかったのが悪いっすよ!」



夢野 天ゆめのそら

定介じょうすけ君なにしたの?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「冷蔵庫にあった保冷剤を押し付けたっす!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「お前…結構残酷だな」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「確かに起きましたけどもっと優しく起こしてください!!

デリカシーなさすぎます!!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「優しく起こそうとしたら起きなかったんっすよ!!仕方ないっす!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「とりあえずお前ら早く外出ろ~

鍵閉めなきゃいけないんだぞ」



N→ナレーション

扉を出てもなお、言い争いをやめない定介じょうすけ月夜 つくよを置いて八木原やぎはらは扉の鍵を閉める。



夢野 天ゆめのそら

「でも、二人も新しく入ってくれたね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ、そうだな。誰も来ないかと心配してたけど

よかったな」



夢野 天ゆめのそら

「うん!ありがとうあさひ君」



八木原 旭やぎはらあさひ

「俺は何もしてないぞ

お茶淹れたのもお菓子を作ったのもお前だろ?」



夢野 天ゆめのそら

「んーん。私だけだとこんなの思いつかなかったよ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「とりあえず俺は鍵を教師に渡して帰るからお前ら気をつけろよ」



岩城 定介いわきじょうすけ

「了解っす!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「はーい!」



夢野 天ゆめのそら

「それじゃあみんな、また明日ね」



N→ナレーション

三人は寮へと戻っていく。

八木原やぎはらは一人職員棟へと向かうため、他の道を歩きだす。

少し立ち止まって振り返り、三人の後ろ姿を見ながらふと呟いた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「また…明日か」



N→ナレーション

それから半月ほど、ほぼ毎日のように同好会のお茶会は開催されていた。

しかし、最初の数日は何人かの生徒が試しに来ていたが、定介じょうすけ月夜 つくよ以外に何度も入りびたる生徒は居なかった。

ある日、八木原やぎはらそらが教室に居ると普段より早く定介じょうすけが教室に入ってくる。



岩城 定介いわきじょうすけ

「お疲れ様っす~八木原やぎはらさんとそらちゃん!」



夢野 天ゆめのそら

「こんにちは定介じょうすけ

今日は早かったのね?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「そうなんっすよ。

なんか教師が新カリキュラムを学ぶからどうこう~みたいに言ってたっす!

あんまりよくわからなかったんすけど」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そういや生徒会ニュースにあったが、この月ノ都つきのみやこ学園に官房副長官からの資金援助が入ったらしいな

なんだっていくつかの授業方針とかも見直しが検討されるから会議が行われるため全学年での時短授業日程になる…ってあるな」



夢野 天ゆめのそら

「そうなんだ?でも資金か~

この同好会に少しでも入ってくれたらいいんだけどな~」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そんなわけないだろ。しっかりとした部活とは違うんだからな?

で、この岩城いわき官房副長官ってのが視察にも来るのか

…ん?そういや定介じょうすけと同じ苗字か」



夢野 天ゆめのそら

「ほんとうだ。偶然ね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「まさかのほんとの親御さんだったりしてな」



岩城 定介いわきじょうすけ

「いやぁ~その~~あんまり会った事ないんで知らないんっすけどね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そりゃそうだよな~………あ?」



夢野 天ゆめのそら

「え?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「ん?どうしたんすか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ちょっと待て?今なんて言った?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「俺あんまり父さんと会った事ないんすよ

俺が産まれる前から偉い人だったらしいっす」



八木原 旭やぎはらあさひ

「まてまて?じゃあほんとにお前の父親なのか!?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「そうなんっすよね

でも…その、あんまり知らないっていうか

関わってないんっすよ

一緒に住んでたことがなくて…」



八木原 旭やぎはらあさひ

「それは…母親が離婚したとかか?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「そうじゃないんすけど

その…母さんって俺が物心つく前に病気で死んじゃったみたいで

あんまり覚えてないんすよ

ずっと家には家政婦さんがいてくれてたんで生活はできてたんすけど

寮に入ってからはちょっと家政婦さんがいないの不便に感じちゃうっすけどね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「家政婦って…結構なお坊ちゃんだったんだなお前」



岩城 定介いわきじょうすけ

「そんなことないっすよ

小・中学校も普通のところっすし

この月ノ都つきのみやこ学園に来たのは俺が一人立ちしたかったからなんっす」



八木原 旭やぎはらあさひ

「なるほど…?でもいくら住んでたことがないとはいえ

父親とは多少は会ったりするもんじゃないのか?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「最後に会ったのは小学生になる前だったと思うっす」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そんなにか?でもそれじゃあ…」



夢野 天ゆめのそら

「ねぇ、定介じょうすけ君!そういえば月夜 つくよちゃんが遅いんだけど、行ってきてもらえない?

もしかしたらまた迷子になってるかもしれないからさ」



岩城 定介いわきじょうすけ

「あ、了解す!急いで探してくるっすね!」



N→ナレーション

定介じょうすけは急いで教室から出ていった。



八木原 旭やぎはらあさひ

「どうした?あいつの事だから放っておけばくるだろ?」



夢野 天ゆめのそら

「ちょっと親の話とかあんまりしたくなさそうだったからさ

詮索しすぎないであげた方がいいかも」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あーそうか。たしかにそれは悪いことをしたな

後で謝っておくか」



夢野 天ゆめのそら

定介じょうすけ君は優しいからきっと大丈夫よ

変に謝って思い出させないでいいと思うわ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ…それもそうだな」



夢野 天ゆめのそら

「私たちは待ちましょうか」



八木原 旭やぎはらあさひ

「それじゃあ一杯もらっていいか?」



夢野 天ゆめのそら

「今日のは手作りのじゃないんだけど

私のお気に入りのお店から買ったものだから味は美味しいよ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ほう?それは楽しみだな」



N→ナレーション

それから数分後、月夜 つくよは教室でクラスメイトと話をしていた。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「そうなの!最近出た食堂のパフェが美味しくて~」



N→ナレーション

すると教室には入らないように扉から顔をのぞかせて定介じょうすけが大声で名前を呼んでいた。



岩城 定介いわきじょうすけ

月夜 つくよちゃんはいるっすか~~!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「んん!!?定介じょうすけ先輩!!?」



岩城 定介いわきじょうすけ

「あ!月夜 つくよちゃん!!居たっす!

待ってたっすよ~!時間通りに来ないから心配したっすよ~」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「ああああ、あの!定介じょうすけ先輩!?ここは…

…え?ちがうちがう!!そういうのじゃないって!!

ねぇ待って!ちょっ……

あ~あ~あ~!」



N→ナレーション

月夜 つくよは赤面した顔を隠しながら定介じょうすけの頭をバシンと叩いた。



岩城 定介いわきじょうすけ

「ええ!?痛いっす!!?なんで俺叩かれたっすか!?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「しーらないっす!ベーだ!」



N→ナレーション

月夜 つくよは荷物も持って怒った様子で同好会の教室へと向かっていった。



岩城 定介いわきじょうすけ

「ええ?!なんでっすか!?

俺悪いことしたっすか!?てか待ってほしいっす~!」



南雲 月夜 なぐもつくよ(小声で)

「…あんまり大声で呼ばないでくださいよ~…

そういう噂が立っちゃうんですから…」



N→ナレーション

それから数時間後、月夜 つくよ定介じょうすけは早くに帰っていき、教室にはそら八木原やぎはらが残された。



八木原 旭やぎはらあさひ

「あいつら今日なんかあったのか?

すごい南雲 なぐもの機嫌が悪そうだったが」



夢野 天ゆめのそら

「んー?さぁ、なんなんでしょうね~」



八木原 旭やぎはらあさひ

「なんだ?心当たりがあるのか?」



夢野 天ゆめのそら

「ん~?お菓子よりあま~いことが起きてるんじゃないかな~?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「なんだそりゃ」



夢野 天ゆめのそら

「あ、私もそろそろ行かないとかな

今日は寮の掃除担当があるんだ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうか、じゃあ俺は少し課題をしたら鍵閉めておくよ」



夢野 天ゆめのそら

「そっか、じゃあまた明日ね」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

教室内に一人残された八木原やぎはらはふっと微笑む。



八木原 旭やぎはらあさひ

「…また明日。この気持ちはなんだろうな

楽しみ…なんだろうな

就職とか考えなきゃいけないのに

この日々が続けばいい…な~んて考えちまうな」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

教室内を見渡し、物思いにふける。



八木原 旭やぎはらあさひ

「そういや一か月前くらいまで一人で悩んでたんだった

最近あんまり考えてなかったな」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

筆記の課題をしていた手を止め、伸びをする。



八木原 旭やぎはらあさひ

「あ~思いつかねぇ。どうするかなぁ」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらは端末で生徒会ニュースを見始める。

内容は新たな生徒会監査が選ばれたという記事が書かれてあった。



八木原 旭やぎはらあさひ

「また…生徒会が増えたのか」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらは生徒会役員が苦手であった。

月ノ都つきのみやこ学園の生徒の中でも特にエリートの存在であり

普通の教師より高い地位を持つ特別な存在達。

すべてにおいて自らを超えているであろう存在に憧れ、そして嫉妬していた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「はぁ…俺もそれくらい強かったらな……」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

胸が締め付けられる気持ちに襲われる。


本来、八木原やぎはらは落ちこぼれというわけではない。

通常の学校に通っていればその中では上の方に位置できるほどではある。


しかし優秀な生徒が揃うこの月ノ都つきのみやこ学園の中では話が違う。

今の成績では到底成績が良いとは言えず

そんな優秀な生徒の中でも特に優秀な者のみが入れる生徒会。

八木原やぎはらの現在の実力ではどうやってもなれるわけのない役職であった。



八木原 旭やぎはらあさひ

「考えすぎるのもよくないな…」



黒いローブの男

「ふっ、諦めるのか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「なっ!誰だ!!?」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらは咄嗟に振り替えると先ほどまでいなかったはずのソファーに黒いローブを着た男が座っていた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「いつの間に入ってきた!?」



黒いローブの男

「さぁな…それよりもそれ

生徒会のニュースだな?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そ、それがなんだ?」



黒いローブの男

「生徒会ってすごいよな

凡人とは比べ物にならない天才揃い

俺なんかじゃ追いつかない強さ

羨ましい…って思っただろ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「な、何を言ってるんだお前…?」



黒いローブの男

「図星って顔だな

わかってるだろうが、お前程度じゃどうやっても追いつかない」



八木原 旭やぎはらあさひ

「だからなんだっていうんだ。

そんなものは前からわかってる!」



黒いローブの男

「そこで…だ。

そんな可哀そうな凡人くんに特別チャンス

お前に力を授けてやろう」



八木原 旭やぎはらあさひ

「力……?」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

黒いローブの男は突如、刀を差しだすように手に持ってみせた。



黒いローブの男

「これを使い、とあることをすれば

お前は生徒会にも負けない・・・・いや生徒会をも超えるほどの実力が手に入る」



八木原 旭やぎはらあさひ

「なっ…そんなものが!?」



黒いローブの男

「そうだ…その、とある事さえ実現すれば…な

どうだ?気になるだろ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「何を…すればいいんだ?」



黒いローブの男

「そうだな…」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

少し焦らすようにわざとらしく考える仕草をしてみせる。



八木原 旭やぎはらあさひ

「なんなんだ!教えるなら教えてくれ!」



黒いローブの男

「そんなに気になるのか?

いいだろう、教えてやる

よく聞け…この刀を使って」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

その黒いローブの男はとても軽く、そして冷たく残酷に言い放った。



黒いローブの男

「この同好会に居る生徒3人。

それと他にも何人か…なるべく多くの生徒を殺してもらおうか」



八木原 旭やぎはらあさひ

「は…?」



黒いローブの男

「ん?聞こえなかったか?

同好会の3人と他生徒多数を

この刀を使って殺してもらいたいんだ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「なにを意味わからないことを言っている!?」



黒いローブの男

「とはいってもこの刀の力を信じてもらえないだろうから少し見せてやるか」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

その刀の鞘を抜かないまま、床に鞘先をトントンと二回ぶつけるとなにかを呟く。



黒いローブの男

風雲かぜぐも



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

突如妖刀から黒い衝撃波のようなものが走り、八木原やぎはらを吹き飛ばす。

何をされたか理解する暇もなく、気がつけば壁に背中をぶつけ、一瞬息が出来なくなりその後衝撃から意識が朦朧とし始めた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「ガハッ…!!?なっ……なにをした!?」



黒いローブの男

「ふっ…何が起きたかわからないよな

これがこの刀…妖刀 御影ノ邪刀みかげのやつるぎの力の一端だ

どうだ?立てないだろ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「身体に…力が……入らないっ!?」



黒いローブの男

「これをお前が使って

さっきのやつを達成したらお前はより強くなるぜ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「…だがその為にあいつらを犠牲にしろと?」



黒いローブの男

「そうだ。強くなるためには犠牲が付き物だ

その為の餌としてあいつらを喰らえばいい

所詮、この世は弱肉強食っていうだろ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「…ハハハ」



黒いローブの男

「あ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「その刀で…みんなを殺せば…俺は強くなれるのか」



黒いローブの男

「そうだ、お前は最強になることができるぞ

これはまたとないチャンスだと思わないか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あいつらを…

そら定介じょうすけ南雲なぐも

殺す……か………」



黒いローブの男

「さぁ、答えを聞こうか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「断る」



黒いローブの男

「あ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あいつらを…友達や後輩を犠牲にしてまで

強くなるなんて…糞くらえだ馬鹿野郎っ!!」



黒いローブの男

「それが答えか…?

だが、チャンスは今しかないぞ

ゆっくり考えてみるといい

そうだな…一度手に取ってみてみろ」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらは刀を無理やり手渡される。

その瞬間、声が、音が、そして記憶が八木原やぎはらの中に流れ込んできた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「ああぁぁぁああぁああ???!!!!?」



黒いローブの男

「どうだ?力が漲る感じ…その高揚と重圧

心地いいとは思わないか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ああぁぁあぁあ!?これはあぁぁあぁ…!!?

誰の…!!?記憶だあぁぁぁぁああ!!?」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらは刀を強く握りしめながらゆっくり立ち上がった。



黒いローブの男

「覚悟は決まったみたいだな」



八木原 旭やぎはらあさひ

「……どうしたらできる?」



黒いローブの男

「ふっ…色々助言もしてやるよ

これからよろしく頼むぜ」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ‥‥わかった」



N→ナレーション 兼任岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらの脳裏に流れ込んできたのは

誰かの黒い感情や悪夢のような記憶

その人生そのものだった。

それは普通の男子高校生には到底耐えうることのできないほどの

惨苦、悲哀、絶望、憎悪、憤怒、

八木原やぎはらの中の価値観をすべて変えてしまうほどものであった。

不思議と笑みを零した八木原やぎはらの瞳は魔に染まりきっており

彼の心を深い所へと堕としていく。



八木原 旭やぎはらあさひ

「…必ず達成してやる

俺は…どんな奴だって超えてやるんだ」



N→ナレーション

そして次の日…



夢野 天ゆめのそら

あさひ君。こんにちは」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ」



夢野 天ゆめのそら

「今日は月夜 つくよちゃんと定介じょうすけ君は来れないみたい

新しい授業の補修が二人ともあったみたいで時間までに間に合わないんだって」



八木原 旭やぎはらあさひ

「そうか」



夢野 天ゆめのそら

「今日は私たちだけだね

どうする?紅茶淹れようか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「いや、今はそんな気分じゃないんだ

すまないな」



夢野 天ゆめのそら

「なにかあったの?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「・・・・」



N→ナレーション

八木原やぎはらはニコリと笑い、そらに向き直る。



八木原 旭やぎはらあさひ

「ちょっと面白いことを思いついて

それを考えてたんたが頭を使いすぎて疲れてた

悪いなそら?」



夢野 天ゆめのそら

「そう?そうだったのね

ごめんね気づかなくて!

なにをするのか聞いてもいい?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ちょっと出来上がるまで内緒にさせてくれ

この同好会でやりたいことが何となく思いついてな

聞かずに待っててくれ」



夢野 天ゆめのそら

「うん!わかった

楽しみにしておくね」



N→ナレーション

以前の俺ならばその言葉に止められていただろう。

その方が救いがあったのかもしれない。

だが、もう後戻りはできない。

俺は俺の為に生きると決意した。

あの日、屋上で俺の時計の針は動き出した。

その針先はいずれ血が滴る剣となるだろう。



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ楽しみにしてろよ」



N→ナレーション

これは俺の暗い道の始まり。

妖刀に刻まれる記憶の一切れ。



















八木原 旭やぎはらあさひ

「最後の一人になるまで楽しませてやるからさ・・・・クックック」



N→ナレーション

ニヤリと笑った八木原やぎはらの目には深い狂気が宿っていた。

そして花見イベント当日

会場の外側にある橋へそら修也しゅうやは向かっている。

そのイベントに参加した生徒22名と残りの実行委員の2名がその場に残り

八木原やぎはらは最後の企画説明の前に定介じょうすけ月夜 つくよの二人を入れて打ち合わせをしていた。



南雲 月夜 なぐもつくよ

そら先輩、上手くいくといいですね!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「そうっすね!でも修也しゅうやは結構堅そうなんで難敵っすよ~」



八木原 旭やぎはらあさひ

「お前ら雑談はその辺にしておいて早く持ち場につけよ」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「あ、忘れてたぁ!早くいかないと!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「俺も今すぐ行くっす!

月夜 つくよちゃん!忘れずスタンプ持ってないとだめっすからね!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「あっ…!?そ、そそそ、そうっすよねぇ!

そんな大事なもの忘れないですよ!まったくまったく…!!」



N→ナレーション

月夜 つくよは荷物をまとめてある鞄からスタンプを入れたケースを取り出す。

急いで立ち上がろうとすると、いつの間にか真後ろに八木原やぎはらが立っていた。

その手には学園支給の武器をしまうための袋を持っており

暗い表情をじーっと向けている。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「わあ!?びっくりしました!

八木原やぎはら先輩?

どうしたんですか?イベント開始は……」



八木原 旭やぎはらあさひ

「………南雲なぐも

お前には怖いものってあるか?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「え?怖いもの…?

そりゃいっぱいありますけど、それがどうしたんですか?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「俺は一つ怖いものがある

自分の弱さに気づいてしまうことだ…」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「弱さ?」



八木原 旭やぎはらあさひ

「この同好会を作るまではな

俺はそれをずっと体感してた…

恐ろしかったよ…

だけどな…その時天に出会ってよ

こうやってお前らとバカ騒ぎする事で救われてたんだ

楽しい夢を見ているようで、怖いことから目を背けていられた。

ありがとうな」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「いやいや~そんな照れちゃいますね!

私も八木原やぎはら先輩が開いてくれたおかげですっごく楽しかったですよ

多分定介じょうすけ先輩もそら先輩も一緒なはずです!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「あぁ、そうだな

だけど…そろそろ目を覚まさないとな」



N→ナレーション

突如、八木原やぎはらは袋から刀を取り出し、振る。

その一撃を受けた月夜 つくよの右腕からは思い切り血が噴き出した。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「え…なんで、痛っいぃ!!!

…急に…どうして…!

なにするんですか先輩!!!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「いいから黙って見てろ…最高のショーを見せてやるからよ」



N→ナレーション

八木原やぎはらはその刀を持ったまま、開始の合図を待つ参加生徒の元へと向かう。

そして一番近くに居た生徒へと刃を突き刺した。

血を、辺り一面にまき散らす。

突如として生徒が刺されたことに気がついた生徒たちは絶叫をあげる。

次々と生徒へ向けて斬撃を浴びせていく八木原やぎはら

その光景をゆっくりと立ち上がり、見ていた月夜 つくよは絶望の表情をしていた。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「なんで…こんなこと……!

こんなっ!…どうしてなんですか!!八木原やぎはら先輩っ!!!」



N→ナレーション

最後の一人を斬り捨て、死体へと刃を突き刺す。

するとその死体は色を失っていき、灰のようにボロボロと崩れ風に吹かれて飛ばされて行った。

そして同じように次々と死体を消し続けながら八木原やぎはらは笑い声をあげる。



八木原 旭やぎはらあさひ

「ククク…ハハハハハハハ!!!

こんな気分だったんだな!力を得るって…

ゾクゾクするなァ!!

漲っていくこの力が快感だ…」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「どうして…人殺しなんかっ!!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「おお~いい表情だな

その絶望は格別に美味だろうな」



N→ナレーション

その表情はいつもの温和な八木原やぎはらとは違い

狂気に満ち、虚ろな目に似合わず満面の笑みを浮かべていた。



八木原 旭やぎはらあさひ

「これで…あとは4人か」



岩城 定介いわきじょうすけ

八木原やぎはらさん~ちょっと遅くないっすか?

さすがに遅すぎ‥‥って、これは!?

どうなってるっすかっ!!!」



N→ナレーション

定介じょうすけが戻ってきたようで呑気な顔をしながら歩いてくるが

その惨劇を見て驚愕の表情へと変わる。



岩城 定介いわきじょうすけ

「これ…まさか、八木原やぎはらさんがやったっすか…!?」



南雲 月夜 なぐもつくよ

定介じょうすけ先輩…!痛いっ…」



岩城 定介いわきじょうすけ

月夜 つくよちゃん!怪我したっすか!」



八木原 旭やぎはらあさひ

「ククク…まだ時間はたっぷりある

もっと楽しもうぜ…」



N→ナレーション

八木原やぎはらはその場から走って立ち去っていった。

定介じょうすけは急いで月夜 つくよへと駆け寄る。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「私より先に…あいつを!」



岩城 定介いわきじょうすけ

「わかったっす!それじゃあ月夜 つくよちゃんはこっから逃げて助けを呼んでほしいっす!」



南雲 月夜 なぐもつくよ

「うん…!定介じょうすけ先輩……気を付けて」



N→ナレーション

荷物置き場から自分の武器である槍を取り出して八木原やぎはらの逃げていった方向へと走っていく。

月夜 つくよは痛みに耐えながらその姿を見送る。



南雲 月夜 なぐもつくよ

「…逃げる前に、そら先輩を…見つけないと

あいつが着くより前に…教えないと…!」



N→ナレーション

月夜 つくよそら修也しゅうやの持ち場へと向かっていく。

それと同刻、八木原やぎはらはゆっくりと辺りを歩いていた。

満開の桜を見上げながら、愉悦に浸りつつ考え事をする。



八木原 旭やぎはらあさひ

「さてと…そらはどこかな」



N→ナレーション

そうしていると、視界にそらの姿を捉える。



八木原 旭やぎはらあさひ

「みーつけた」



N→ナレーション

八木原やぎはらそらの方へと駆け寄っていく。



八木原 旭やぎはらあさひ

「これは邪刀やつるぎに残る記憶の一欠片

才に飢えた弱者に力を与える妖刀

その刃は絶望を喰らいつくす」






零章 桜ヲ植エル日ノ事 完

前編 桜ハ芽ヲ咲カセズ へ続く




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裏設定



・同好会と部活の違い

学園にある同好会と部活の違いは

同好会は最低人数3人以上、部費は全額自腹で活動方針や使用する道具などを

生徒会に書面報告ののち、受領されれば設立できる


対して部活動は

最低人数が10名以上、専属顧問がいること

そして仮設立した際に1週間の生徒会役員監査の指導を行ったのちに正式設立される。

部活動は学園から規定の部費や活動するのに必要な学園施設の提供を受けられ

運動部は他高校とのスポーツ大会、芸術関連はコンクールなどの参加を行うことができ、その際は学園代表として出場することができる。

ここからスポーツ選手やインストラクターになる者も出てくるという。



・卒業と追年について

学園は基本的に3年制で3年次には就職活動や進学受験を行わなければならない。

しかし、就職先が決まらない場合や、実力を更に伸ばすため等の理由がある際は年

4、5年生になるまで通うことができる。

生徒がとるべき単位は3年で取れるため、成績で落とした単位をそこで行うこともできる。

全ての単位を取り終わった4年以上の生徒は授業の参加は任意となり

自由に学園生活を送ることができる。

その間に戦闘演習を行ったり、学園で取れる資格に専念することが可能である。



・学園の授業について

1年次には基礎体力の増強を行い、そして基本的な高校で受ける座学を行う。

座学ではいくつかの科目を選択式で授業を行い

その選択した授業により同じ学年内でも授業や休憩時間が異なる。


2年次には各々にあった武器や戦闘方法を選択し

それに特化した戦闘演習や生徒同士での対人訓練もカリキュラムに含まれるようになる。

座学は2年次までに本来の高校の3年までの範囲を受けることになるが

この座学はあくまで一般社会に出た際に必要になる範囲を超えているため

座学は成績の中でも4割程の評価でしかなく

ここでの単位は3年次になって補習することができる。


3年次

就職先や進学先を決定した生徒から

その目標に特化された個人の授業になり

生徒会役員と顧問による指導を受けて生活することになる。

座学はあくまで1、2年次の補習や応用という範囲に留まり

演習も他学年と混ざり苦手分野を強化していく方針になる。

卒業試験がないため、比較的卒業は簡単であり

卒業だけしてしまい一般企業に就職するような生徒もいるという。




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・アドリブ演技に関して

この台本はアドリブを入れる事を前提として書いています

なので演者様方の判断で挟んで頂いて構いません

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作者はあまり好ましくは思っていませんがある程度ならば可とします

そのある程度の境界線は他の演者様たちとの話し合いに委ねます



・特殊なものについて

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多分そうじゃないとこの台本は演じれないです



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