第20話 妖との遭遇
360度。辺り全体から見られているような、それでいて重さを感じるような、言葉にしがたい不吉な感覚がして、徳は冷や汗が出る。
「ヒュー…。これが妖様の圧ってか。俺ぁ、妖なんて初めてお目にかかるぜ…。」
「おい、気を抜くな。」
「…姫さんもいるし、逃げますか?主様。」
「いや、もう逃げられないだろう。迎え撃った方が得策だ。」
「強え妖だったら忍なんて当てになんねぇんだから、あんたを頼りにしてるぜ。武将の坊ちゃん。」
「「うるさい(ぞ)才蔵。」」
「おいおい。猿飛ども!おめぇらいつから俺のこと呼び捨てで読んでやがる!」
―ザワザワザワザワ
――ドンッ!!!
葉がひときわ大きく音を鳴らせた瞬間、木々をなぎ倒しながら徳たちの真横から爆風を伴う衝撃波が襲いかかってきた。
それを信繁が瞬時に刀で受けとめる。信繁の刀からは雷のような電流をまとった光が出ており、それが、徳たちを襲った衝撃波と拮抗しているように見える。
ビリビリと空気が震え、強い風と光で徳は前が見れない。
「…おうおう!…これが武将様のチャクラ量かよ!身体が痺れるぜぇ…!」
信繁が刀を振るうと刀から青い光の筋が放たれた。その光が爆発するように衝撃波を相殺する。辺りの木々がばらばらと崩れおちた。
「――主様、」
「まだだ。」
信繁と忍三人が真上を見る。徳も何が何だか分からないが倣って真上を見ると、ゴゴゴと山鳴りが聞こえ、地面が揺れ始めた。
「えっ!?地震!?」
「…いや、妖の仕業だろう。大丈夫か?」
「徳様、私を支えにしてくだされ!」
「…ありがとう。でも、大丈夫…。」
「…無理はするなよ。
…来るぞ。」
――ドゴーーーンッ!!
大きな音と共に頭上から巨大な岩石がどこからともなく次々と落ちてくる。
佐助が忍術で岩の落下スピードを弱め、信繁は振るった刀から光の筋を放ち岩を砕く。阿吽の呼吸で繰り広げられる連携により危機を免れたと思ったのも束の間、砕かれたその石は炎を纏い、より速度を上げて落下する。
「うそ!?」
「チッ。」
落下してくる炎の石に舌打ちをした信繁は、素早く詠唱を唱えると、立てた人差し指と中指に息を吹きかけ、その指で頭上の空を切る。
すると切った場所から蜘蛛の糸の様なものがいくつも伸び、それが透明な膜へと変化した。膜は一気にピシピシと壁のように硬度を高め広がっていく。
――ドーン!
――ドーン!
「…おいおい…、まじかよ…。」
「さ、佐助兄さま…、…信繁殿って、いったい何者なのですか…?」
信繁が張った壁が防弾ガラスのように炎の石を受け止めているのだ。その合間も信繁の刀は光を纏い、時折ビリビリと電流が走る。
「いやー、ほんと何者なの?って感じだよねー。こんな繊細な術にものすごい量のチャクラを練り込むんだから…。しかも、神具まで同時に使いこなしてんだもん…。」
「いや、ありえねぇだろ…っ!」
「…様子がおかしいな。」
「え?」
信繁が次々と繰り出す技に驚きで言葉も出ず固まってしまっていた徳だったが、信繁のつぶやきが耳に届いたことで、やっと固まっていた身体と思考が動きだす。
「向こう側の攻撃の質にムラがある。」
「んー?妖力切れとか?」
「それにしては、ちょっと違和感がな…。」
信繁が疑問を持ち始めた時、山鳴りが止まり、一気に辺りが静寂に包まれた。
「…あ?…どーなってんだ?」
――ボキッ!ガサガサ!ザザザ!
静けさが戻った空間に、木の上から何かの落下音が聞こえる。
音のする方へ皆の集中が集まる。
ドサッ
落下してきたそれは地面に思い切りぶつかったが、その後勢いよく立ち上がり、空手の構えの様に腕を前に突き出した。
「……え?…子ども…?」
落ちてきたのは山伏の格好に黒い羽根が生えた、赤い面をかぶった子どもの様であった。
「…大谷の姫。子どもであろうと気を抜くな。相手は正真正銘の妖だ。」
信繁が刀で宙を切ると、先ほど炎の石を防いでくれていた透明な壁がきらきらと消えていく。
「…。」
「…はぁ、…はぁ。」
「ん?…あの妖、なんか様子おかしくない?」
よくよく見てみると、傷だらけで、息も荒い。信繁は攻撃を受け流すことしかしていなかったずだ。
「の、信繁様、あの子…――、」
徳が信繁に戦いの中断を提案しようとしたその時、妖が地面に倒れた。
「…っ!」
「おいっ!大谷の姫!」
「徳様!」
徳は思わず妖に駆け寄った。近くで見るとさらに傷が目立つ。そこら中血まみれで、服もボロボロである。荒い息づかいが苦しそうであったため、損傷の激しい面を外させてもらう。
「…っ!…ひどい…。」
面の中のでは無垢な少年の顔が苦痛に歪んでいる。その顔にも切り傷や打ち身が見られ、閉じられた目には涙が零れていた。
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