2 勇者を待ち伏せに行こう
勇者はハジマリノ村を出て真っすぐ北に進んでいた。真っすぐ行くと森がある。ゴブリン兄弟の寝床がある森だ。日の光で森の葉がきらきらと光っている。勇者は森の木の実などを調達するつもりなのかもしれない。
「よし! 善は急げだ! 準備して行くぞ! 勇者を待ち伏せするんだ!」
自分の武器である木の棒を持って勢いよく立ち上がったゴブリン兄。ぼやぼやしてられない、勇者はハジマリノ村を出た、この森はハジマリノ村から一番近い森、勇者は目と鼻の先にいると言っていい。
「行くって今から?」
「そうだ、今すぐだ」
「やっぱりあいさつにいくんだね⁉」
「だからそうじゃねーっつうの! オレの手を見ろ! 武器持ってるだろ⁉ 武器もって挨拶に行くやつがどこにいる!」
毎度毎度この弟には疲れさせられる。気が抜けちまうよ。ゴブリン兄は大きくため息をついた。
「今から勇者を倒しに行くんだ! 俺たちの暮らしを守るためにな」
「そ、そうか、そうだったね! すぐ準備するよ!」
そう言ってゴブリン弟も形だけでもいいからとりあえず兄と同じ木の棒を持って立ち上がった。顔つきも引き締まってやる気がある感じだ。
「いいか、これは俺達兄弟にとってまたとないチャンスだ」
「またとないチャンス?」
「そうだ、考えてみろ、勇者は今魔王様にとっては厄介な邪魔者なんだ。その勇者を倒せば俺たちは英雄だろ? 金だっていっぱい貰えるし、いやそれだけじゃない、魔王軍内で昇格もあるし、いい女だってたくさん……、いやお前にはまだ難しいか、まあとにかく勇者を倒せば俺もお前も欲しいものは何でも手に入るってことだ。」
「すごーい! 良い事ばっかりだ!」
「ようやくお前もわかって来たか、しかもオレ達が勇者に一番近い距離にいるんだ。つまりオレ達が手柄を独占できるってわけだ、他の奴らが勇者を倒す前にな。早い者勝ちってやつだ」
「おおー!」
ぱちぱちとゴブリン弟は拍手をして喜んでいる様子だ、拍手するため持っていた木の棒が落ちた。この弟は天然なところがある。事の重大さをどこまで理解しているかはわからないが気にしない事にした。
「よし! 勇者はおそらくこの森を通るはずだ、だから森の入り口の所にある大岩の所で隠れて待ち伏せする、いいな?」
「ねえ、何でこの森を通るってわかるのさ?」
「それはな、人間ってやつはな、森とか洞窟とか何かありそうな所を通りたがるんだよ」
「へー、兄ちゃんって何でも知ってるんだね。感心しちゃうよ」
「へへへ、まあな、そんなに褒めるなって」
おかしなやりとりで士気を高めているゴブリン兄弟、もたもたしてたら勇者は行ってしまう、ここで腹ごしらえをしている時間はない、とりあえず水と食べ物を鞄に詰めた。
「でも兄ちゃん、勇者と戦って勝てるの?」
「う……、それはだな……」
それは最も心配していたことだ。何せ俺たちはゴブリン、ドラゴンが1000ならゴブリンは10だろう。しかし兄としての威厳を保つためにそこには触れないでいたのだ。
「兄ちゃん?」
「だ、だーい丈夫に決まってんだろ。何とかなるってもんだ。それに勇者はまだ旅を始めたばかりだ。まだ実戦経験も浅いし道具もそんな大したものは持ってないだろ。俺でも十分対抗できる! 心配はない!」
「なるほど! さすが兄ちゃん!」
そうだ、今ならば何とかなるだろう、相手は勇者とはいえまだ駆け出しなのだ。そしてもし倒すことが出来たら駆け出しとはいえ勇者を倒したという事には変わりはない。
《ゴブリン兄弟、勇者を倒す! 一気に昇格か⁉》
こんな記事が魔王軍新聞に出るのは間違いないだろう、そうなれば他のモンスターを見返せる、一気に逆転だ!
ゴブリン兄のひそかな夢と希望は一気に広がる。外に出てみると空は青く晴れやかだった。新たな門出には申し分のない天気。かすかに吹く風が興奮の熱を冷ましてくれる。
今日からオレ達は誰もが認める英雄になるのだ。
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