1 勇者が旅に出た
あるゴブリン兄弟は勇者が旅立ったハジマリノ村のすぐ近くに寝床を構えていた。一日中、特にすることもなく、朝起きて腹が減ったら何か食べてそして寝る。それもこれも魔王のおかげに他ならない。魔王が世界を支配しているからこんな悠々自適な生活が遅れているのだ。しかしそんな都合のいい事がいつまでも続くわけがない。魔王を討つために勇者が旅立ったという情報がゴブリンの兄弟にも知るところとなった。
「ちょっと弟よ、これを見てみろ」
ゴブリン兄は手にした手紙をゴブリン弟に見せた。
「なんだいこれ?」
ゴブリン弟はいつもと違うゴブリン兄の様子にとまどいながらも渡された手紙を読んだ。
「あ! これってまさか……」
「その通り、そのまさかだ」
「高級な紙に書いてある!」
「ばか! そういう事じゃねえよ! 書いてある文章だよ!」
「文章?」
手紙にはこう書かれてあった。
親愛なるモンスター諸君、ごきげんはいかがかな?
今回、こんな手紙を送ったのは他でもない。人間どもの中から我を討とうとする勇者が誕生したらしい。
やっと手にした世界を人間どもに奪い返されたくはない。勇者を倒さなければ君達の暮らしも補償出来なくなってしまう。
そこでだ、まだ若い勇者が力をつけないうちに叩いてしまいたいのだ。勇者は今、ハジマリノ村から旅立ったようだな、勇者はどこをどう行くかは知らんが、もし勇者を見かけた者は見つけ次第襲いかかってくれたまえ。そうだ、大事な事を一つ忘れていた。勇者の特徴を記す。
年齢は16才くらいだろうか、髪型は全部後ろに流しているらしく、色はまばゆいほどの金色出そうだ。それとそいつはまるで漆黒の鎧を着ているようだったという報告がある。それと武器は……、驚いたことに何も持っていないらしい。おそらくまだ武器を買うだけの所持金がないのだろうな。とりあえずそれくらいか、では健闘を祈る。
魔王
「勇者が旅立ったって、大変じゃないか! しかもハジマリノ村って、すぐ近くじゃないか!」
ゴブリン弟はそわそわし始めた。
「そうだ、お前もやっと世の中ってやつがわかるようになってきたか」
「うん、すぐあいさつに行かなきゃ!」
「何でだ! 何で敵にあいさつに行かなきゃなんねーんだ! どうも! はじめましてゴブリンです! とか言うつもりか⁉」
「え? そうじゃないの?」
一歩進んだと思ったら二歩下がる。全然話が進まないゴブリン弟に何かを言うのはやめてこっちで勝手に話を進めようかといつも本気で思うゴブリン兄であった。
「勇者が旅立ったって事はな、魔王様を倒しに行ったって事なんだよ、この意味がわかるか?」
あまり期待をせずゴブリン弟の言葉を待つゴブリン兄。
「えーっと……、魔王様が倒されるってことは……、えーっと……、世界が平和になる!」
「この裏切り者! 何て事言うんだ! 魔王様が聞いたらどんだけ怒られると思ってんだ!」
「だってそういう事じゃないの?」
「ちげーよ! よく考えてみろ! 今の暮らしがあるのは誰のおかげだ? 森の中で好きなだけ寝て暮らせるのも魔王様のおかげだろ? 川に行って魚も釣り放題だし、森の木の実もとり放題だし、お前の好きなお菓子だって魔王様が届けてくれるんだぞ? もし魔王様が倒されてしまったらもうお菓子は食えなくなってしまうんだぞ?」
「そ、それは大変だ!」
「そうだろう?」
理解させるのには情けない理由だがこの際仕方ない。とにかく勇者は敵だという事をわかってもらえればいいのだ。俺たちは兄弟、力を合わせて勇者を倒すと言いたいが弟はあまり頼りにならない、だから兄のオレがやらなければならない。
ゴブリン兄の胸中には野望が芽生えていた。
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