第4話
翌日。
フレディが寝てる間に改めて荷物を買い、フレディが起きたら宿をチェックアウトして村の外でまた氷の車を作ってもらった。
改めてトルトニート岩壁橋を目指すんだな!
「! 地震!」
いざ!
と車に乗ろうとした時だ、地面がカタカタと揺れる。
まさか、とビビるが二人はケロリとしていた。
「小規模みたいだけど…」
「…地脈がぶちぶちブチ切れてる音がするな…」
「そんな音が⁉︎」
「僕ら半分獣だからね、嗅覚や聴覚が人より優れているんだよ」
…こんな立派なイケメンつかまえて半分獣とか言われましても…。
いや、ハーフなのは何度も聞いてたけど。
「もしかしてそれで昨日はでかい地震が来るって分かったの?」
「そう。昨日のはもう地面がブッツーーン! って感じの音だったんだよね」
怖!
なにそれ怖!
「ほれ、もう治っただろ」
「う、うん」
「しかし、やはりベルゼルトンで掘り起こされた抜け殻は相当まずい物だったとみて間違いないね。まさかとは思うけど…地脈と龍脈を結び付けていたものだったんじゃ…」
「一個掘り起こしたところで完全にバラけることはねーだろ?」
「勿論。地脈と龍脈は複雑に絡み合い、繋がっているものだからね。…でもこの大陸は元々三つの島だ。…バルニアン大陸とは、違うのかもしれない」
「…バラバラになったら三つの島に戻るとかは…」
ない。
首を横に振られる。
…ですよね。
「三つの島に戻ったところで大地を維持する力が分散して余計悲惨な結果になる」
「…そ、そっかー…」
粉砕かな?
粉砕かな?
「じゃ、僕はまた寝るから。運転頼むよ二人とも」
「はーい」
「へーい」
それから毎日、大小いくつかの地震に見舞われるグリーブト。
車は浮かぶから、俺たちに被害はほとんどないけど…今もどこかで崩落が起きてるんじゃないかと不安に駆られた。
この大陸は、今こうしてる間にも崩壊の一途を辿ってるんだ…。
俺が生まれて育ったアバロン大陸。
人間が忘れてしまったドラゴンの王様。
科学が発達して人間が自然の資源を貪った事で、王様一人じゃ大陸の維持が難しくなった。
それで王様は苦肉の策として、体をバラバラにして大地に埋め、自分は卵に戻ってしまったんだ。
卵に戻るっていうのはドラゴンにとっての『死』。
リセットされ、もう同じように大地に力を与えられなくなる。
そこまで身を粉にして、この大陸を守ってくれたのに…。
人間は大地に埋められた王様の体を掘り起こしてしまった。
体に残っていた大地を維持する力を、大地から奪ってしまったんだ。
なんて馬鹿なことを。
「見えたぜ」
「! …あれが…」
岩壁だ。
いや、もうなんか絶壁?
大陸と大陸の割れ目ってくらいの絶景。
そこに崩れかけた橋が残っている。
…待て待て待て待て…!
「えー…人がいねーよ?」
グリーブト側の関所前でヨナは軍服のコートを返そうと、一旦車を停める。
しかし、そこには誰もいない。
建物は無事…でもないから多分この間の大地震でこの辺も被害が大きかったんだ。
天井やら壁やら崩れてて、中には人の生活痕が残ってる。
なんか慌てていなくなったみたいだ。
建物がこれだけ崩れかけてるんじゃあ橋があんなに…今にも割れちまいそうなん、仕方ねーな、ありゃ。
ここの軍人さんたちも思ったんだ…こんなどう見ても渡れそうもない橋、守ってても仕方ないって…。
「どうやらここは破棄されちまったようだな…仕方ねーや、コートは帰ってから処分しよう」
「つーか、あんな橋じゃ俺たちも渡れねー。ここから一番近い別な橋までどんだけかかんの?」
「いいからまず乗れ」
「?」
言われるまま、氷の車に乗り込む。
若干の嫌な予感。
そしてその嫌な予感を、ヨナは現実のものとするかのようにゆっくり発車させる。
建物から離れ、橋までの道を少し逆走するとヨナはペダルを一気に踏み込む。
どんどんスピードの上がる車。
…ちょ、ちょ…ちょおおぉ⁉︎
まさかまさかですかあぁぁ⁉︎
「無理無理無理!あんなの渡れねーよ⁉︎」
「ま、普通の乗り物ならな」
「まさかですよ⁉︎」
ヨナの足元が魔法陣で光る。
浮かすやつだ。
割と何度もこの魔法には助けられてきたから、さすがの俺でも覚えてきたぜ!
って、ちっげーーーよ俺!
…浮かしたまま、壊れかけたヤバい見た目の橋を強行ーーー⁉︎⁉︎
「ひいぃぃ!」
なにこの爽快感ー!
すっげー!
飛んでるぜひゃっほー!
…もはやわざわざ壊れかけの橋を行く必要があるのかわかんねースピードと浮遊力で突き進んでるぜーぃ!
「…と…ここがベルゼルトン国境の関所…か?」
「…え…」
無事に渡り終え、グリーブトからベルゼルトンに入国!
ベルゼルトンでは入国料を支払わないといけないって、ボルネのおっさんに聞いていたんだけど…。
「…崩落…」
「だな…」
関所と思しき建物が真っ二つになって、半分落下しかけてる。
結構立派な建物なのに…。
やっぱりこの間の大地震でベルゼルトンも相当被害があったんだ。
「…自業自得とはいえ…。…橋があんな状況、グリーブト側も廃墟になっているようだったし…ベルゼルトン側の関所も破棄された…と見るべきだろうな」
まあ、普通に考えてあんな基礎の丸見えの橋を渡ろうって勇者はハナから命のいらねー馬鹿ヤローだろ。
ある程度落ちかけた建物から離れた場所に氷の車を停めて、ヨナと二人で建物の方に近づいて見た。
…こちらも中の様子は慌てて命からがら逃げ出した…みたいな雰囲気。
けど、あんまり近付くと地面がパラパラ…なんか小石が落ちるような音がして恐怖心が煽られる。
崩落の穴を直に上から見てる分、余計怖い。
「まあ、魔法で作った車を物珍しさとかで見られたり金払わなくていいのは楽だな」
能天気か!
にしても全く人の気配はない。
グリーブトであれじゃあ、やっぱり震源地に近いベルゼルトンは…俺が体験したやつよりやばい揺れだったのかもしれない。
全く本当に馬鹿なことを…。
「まぁいい。龍脈の中心点はこっから少し東か。…とりあえず進むぞ。今日中に着きそうだ…」
「うん…」
いよいよか。
いよいよ、ニーバーナ王に…。
道無き道を進む氷の車。
ヨナに言われて二階で寝てたフレディを起こす。
午後だし、普通に起きてくれた。
………。
そして本当に間も無くだ。
思ってたよりトルトニート岩壁橋から近かった。
車を降りると寒気にも似た感覚で、震える。
「…ぱっと見何にもないけど…」
なんか、いるっつーか、あるっつーか…。
存在感みたいなもんは感じるんだよな。
ただの山林の中に突然現れた原っぱって感じなんだけど…グリーブトに近いから雪が積もってる。
「地下に降りるよ」
「はい?」
今なんて?
聞き返す俺の疑問にお答えが帰って来る前に、フレディの足元に魔法陣が展開した。
ヨナに突き飛ばされ、その中に入れられると周りが魔法陣で囲まれ…まるで水の中に降りるみたいにドポン…という音。
「な、なにこれ…」
「地面の中だ。まぁ、正しくは龍脈の中だな」
純白の水の中にいるみたいだ。
…すげぇ、キラキラしてて…綺麗だな〜。
「ハクラ」
見惚れているとフレディに声をかけられた。
フレディの方を見ると…小さな丸い物が浮いている。
え、ま、まさか、まさかあれが?
「…失礼、お休みのところ申し訳ない。ニーバーナ=ハクラ様で間違いありませんか?」
声をかけた!
…ニーバーナ=ハクラ…。
やっぱりあれがこの大陸を何千年も守ってきた…ドラゴンの王の一体!
少しだけ沈黙が続くと、フレディがもう一度「ニーバーナ王」と声を掛ける。
ギョロリ。
小さな丸い物に金色の目が浮かぶ。
ひぃえぇ…なにあれキモ!
「お初にお目にかかります。私は幻獣ケルベロス族第14子、椿が第1子、フレデリック・ニール・アルバニス」
「同じく第2子、ジョナサン・ゲイル・アルバニスと申します」
「あ、えっと俺はその…」
「本日は王にお伺いしたいことがあり、参上致しました。お話は可能でしょうか」
金の目が細まる。
俺を…見てる…?
『…ソランの匂いがする…。ソランと血を同じくする者か…。要件を聞こう」
「ありがとうございます」
フレディに手招きされて、近くに行って、背中を見せてあげて、と促されて…服を脱いで背中を向ける。
俺の背中に刻まれた魔書。
ニーバーナ王はどんな気持ちで、どんな顔でこれを見てるんだろう?
背を向けている俺からは分からない。
…というか、心の準備もなにもしてなかったんだよな。
なんの覚悟もしてなかった。
流されるまま、って感じだ。
「これは王の奥方様からの魔書に間違いないのでしょうか?」
『…相違ない。…が…私はこの姿……ケルベロスの子よ、開いて読み聞かせてはくれないか』
「それでは、僭越ながら…」
…う、うわわ…!
い、いよいよ、開くのか。
大丈夫かな、俺…。
「大丈夫だよ」
「そう緊張すんな」
「……うん」
後ろから優しいフレディの声。
前にはヨナの笑顔。
…うん、大丈夫。
二人がいるんだ、何にも怖くない。
フレディの手が魔書に触れて、解く。
………その瞬間、俺の中に別の何かを強く、強く感じた。
ドス黒い何か。
うあ…、なんだ、これ…⁉︎
背中から熱くて、でも冷たくて…いや、冷た過ぎて熱く感じるんだ…。
「⁉︎ これは⁉︎」
「おい⁉︎」
俺の中、背中から何かが勢いよく飛び出した!
背中からだから、俺は咄嗟にそれが真っ黒なものとしか分からなかった。
え、え?
「なんだあれ⁉︎」
「わ、分からない…でも、普通じゃないものだ…!」
「なんだ今のドス黒い気配……あんなもんがハクラの中にあったのか…?」
『今のは…病呪…!』
「⁉︎ 病呪、だと…⁉︎ それは本当ですか⁉︎ …‼︎」
え、なに⁉︎
びょーじゅってなに⁉︎
振り返ろうとしたところをフレディに戻される。
え? え?
「……『私の最愛の王、ニーバーナ。私の子孫たちはどこまでも愚かでした…』」
「フ、フレディ?」
「ソラン姫からのメッセージだよ…『私はその責任を取る事にします。貴方をそこまで追い詰めてごめんなさい。心から貴方を…愛していました。ソラン・シンバルバより』」
「…ラブレターにしては随分物騒じゃねぇか…?」
「責任…病呪……ソラン姫は、まさか…」
『…っ!』
え、なに、なに、わかんねーよ、ついてけねーよどうしたの⁉︎
『ケルベロスの子らよ、ソランは、私が卵化してからなにがあったのだ⁉︎ 其方らの知ることを私に教えろ!』
「…ご存知では、なかったのですか?」
…!
知らなかったのか、ニーバーナ王…。
「ソラン姫は、奴隷に、娼婦にされたと聞いています…。このハクラはソラン姫の息子だと…」
『……奴隷…ソランが? 馬鹿な…』
「ほ、本当だよ。俺は会ったことないけど…高級奴隷娼婦で有名だった…」
『………。…ソランは…今どこに…』
「…病気で亡くなったって…」
…重い、沈黙。
閉じたニーバーナ王の目。
そりゃそうか、自分の奥さんだもんな。
しかも何千年も連れ添った特別な人。
『…その怒りと憎しみを病呪として子に込めたというのか…なんと愚かな…』
「…王よ、貴方が支えてきたアバロン大陸は人間によって貪り喰い尽くされようとしています。いかに貴方といえど、たとえ転生してももう大地を維持するに足りない! 我らと共にバルニアン大陸にお戻りいただけないでしょうか」
「…病呪…」
「……、………」
ヨナが何かを考え込む中、フレディは王に提案する。
どうせ助からない大陸に、いつまでもニーバーナ王がいる必要はないから。
俺もその方がいいと思う。
あと、びょーじゅってなんだ、なんかめっちゃやばそうな響きだったんだけど。
『…いや』
「王⁉︎」
『ケルベロスの子、確かに人間は愚かで、短絡的で学ばぬ生き物だが…だからこそ私には愛おしくもある。短命であるからこそ愛で命を繋ぐ姿が…私は好きなのだ。我らに理解の出来ぬ生き物だからこそ、もっと彼らを知りたいと思うのだ』
「……!」
「! ………」
…人が、愛しい…。
それ…フレディも……おんなじ事…。
卵から金の目が消える。
消えて、卵を中心に大きな大きな半透明な純白のドラゴンが翼を開く。
長い首、寸胴な胴体に大きな翼、長い尾、鋭い爪のある五本の指。
でかい…そして…。
なんて、綺麗なーーー。
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