第3話
二人ともかよ!
ヨナはともかくフレディは顔に似合わずだよなぁ…。
「絶対遺伝だよね。父上もバリバリの戦闘脳だし」
「否定はしねぇ…親が親だからな」
全部親のせいにした!
「ハクラは魔法の練習してるんだろう? 補助系の魔法たくさん覚えてよ。転移系とか、結界系のやつ。『光』と『風』が得意ならすぐ出来るようになると思うから」
「嫌だ! 最初は絶対空飛ぶやつ!」
「空! なら仕方ない!」
「…どうでもいいけどこっから一番近い村までどうやって行くんだ? 車は多分崩落に巻き込まれてるだろ?」
「え⁉︎ じゃあ荷物も⁉︎」
「うん、荷物は諦めるしかないね。魔石はあるからお金は心配しなくていいよ。…空か…ハクラは空が好きだね。でもこの国の空は絶対めちゃくちゃ寒いよ!」
「だからそれはいいっつの…」
「た、確かに!」
「…地図上だと南西か?」
「というか現在地って分かるの、ヨナ」
「…分かんねー」
「ダメなのでは⁉︎」
…仕方ないのでヨナが俺を担ぐ。
…え、なんで担がれてるの俺。
そして次の瞬間、真っ暗な穴の上に浮かんでいた。
「へひ…?」
「うーん……あ、あそこに集落みたいなのが見えるね」
「面倒だしあそこまでこのまま飛ぶか」
「そうだね」
このまま⁉︎
「ま、待って待って待って! このまま飛ぶ、飛ぶ⁉︎」
「そう、飛んでくの。飛びたかったんだろう? まあ、飛べるようになった時のイメージを膨らませる意味でも…」
「下のアレはまさか…?」
「…崩落跡だろ」
「……………」
そ、想像を絶するよ…‼︎
穴の端々がよく見えない…結構な高さなのはなんとなく分かるのに。
雪のせいでより穴が黒々として見えてめちゃくちゃ怖ぇぇぇ…っ…!
村一つ呑み込まれたのはどう見ても間違いない。
「でもなんでこんなピンポイントに…」
「村というのは家や人が集まるから単純に『重い』んだよ」
「…二人が生身で浮いてるのも怖んだけど…」
「自分の体重を重力から切り離すだけだよ。難しくないよ」
「いや、簡単なことでもねーからな?」
そして結局そのまま見えた村まで飛んで移動する事になったのだが…。
「さ、寒い! 想像以上にめちゃくちゃ寒い!」
「あと少し頑張れ」
ものの五分…地上移動してたら半日くらい掛かりそうな距離だったと思うけど…飛ぶとこんなに時間ショートカット出来るんだ〜。
でも寒い!
村に降りるなりフレディは近場の家にノックして電話を貸してもらえないか交渉し始めた。
「さ、さむ…グリーブトに着いた直後みてぇに寒い…」
「フレディ、この村確か宿泊施設があるんだよな? 行ってるな?」
「あ、うん」
フレディと一旦別れてヨナと宿探し。
割と大きめの建物をすぐに見つけられて、そこの温泉に入れてもらいる事になったから助かった!
「手続きはしておくから先に体温めてこい」
「はひぃ」
「大風呂はあちらになります」
………………温泉って最高だな。
改めてそう感じられる。
ヨナが手続きしてくれていたからすぐ部屋にも通してもらったし。
用意されてた飯は美味いし…。
「ハクラ、俺はフレディ迎えに行ってくるからな。飯一人で全部食うんじゃねーぞ」
「はーい。…今日はここに一泊だよな?」
「まあ、そうなるだろうけどな…崩落地点から一番近い村だから、正直そんなに長居はしたくねー」
「怖ぇよ…」
フレディの分は残しておくとして、俺も何かしてぇな。
買い出しに行こうかな?
あ、でも俺はお金ねーや…。
いや、フレディに最初にもらったクレア・ルビーはあるけど…。
大人しく待って…。
「お腹すいた!」
「早い!」
「フロントにすでに居たわ」
それは何より!
「ルキニー村の人たちはリーバル王子が早急に軍を動かして保護してくれる事になったよ」
「! 連絡ついたんだ!」
「うん、面倒くさがっていたな」
…あ…言いそう…。
でもちゃんと保護してくれるんだ。
良かったな。
「それとリーバル王子からベルゼルトンの中心部で巨大な金剛石の塊が発掘されたって教えてもらったよ。…崩落の原因は恐らくそれだね」
「こんごーせき? …ダイヤのこと?」
「そうだな。…でも、なんでそれが原因なんだ?」
テーブルの前に座る。
グリーブトは床暖房式らしく、この地方は椅子に座って食べるんじゃなくて床に座ってテーブルでご飯を食べるんだって。
料理そのものは似た感じのあったかいスープ系ばかり。
…うん、美味しい!
「! ハクラばっかりずるい! 僕も食べる!」
「追加で持ってきてもらうから落ち着け」
「白玉パフェと鹿肉シチュー追加で!」
「…で、金剛石の塊がなんで崩落と関係あるんだよ。…あ、もしもし、追加で鹿肉シチューと白玉パフェとビーフシチュー、あとプディングショコラータつていうの六つ…シチューはどっちも大盛りで。…あ、あとチーズパスタ大盛りで三つ」
ヨナがすっかり内線電話の使い方を覚えた!
「そうそう、そうだったね。発掘されたという金剛石の塊…その大きさは家一軒にも相当するそうだ。ニーバーナ王の体は金剛石の鱗で覆われていると言われているから、ニーバーナ王が卵化した際脱ぎ捨てた殻だろう。その抜け殻の一部が龍脈や地脈にエネルギーを流していたんだと思う」
「…体を捨てて、大陸を維持する力に変えた…から?」
「そう。で、その体の一部をまんまと掘り起こしたんだろう。馬鹿なことを…」
…マジで馬鹿なことをおおぉ…!
「無知って怖いな」
「うん、無知って怖い」
「ベルゼルトンで発掘されたのは体の一部だろうけれど、それでもニーバーナ王の魔力を多量に残していたはずだ。自分が力を失った後も大陸を維持し続けるための苦肉の策だろうね」
「…それリーバルに話したのか?」
「まあ、あくまで可能性の域を出ないけど…と前置きした上で話したよ。…彼はなんだかんだ聡いから理解しただろうね」
「…大丈夫なのか…?」
「さぁ…? でも、ニーバーナ王の抜け殻争奪戦争が勃発しても、正直大陸の崩壊が早まるだけだしね。それもリーバル王子は分かっていたみたいだし…」
「早まるの?」
「ニーバーナ王がそこに抜け殻を置いたということは、そこがベストの位置だったということだ。それを動かした結果が今回の崩落だよ。大陸崩壊を遅らせる事は人の身には不可能だけど、早めるのは簡単さ」
その辺りは為政者たちの腕次第ってことか。
でも、ベルゼルトンの抜け殻が掘り出されてグリーブトで崩落が起きたのはなんでなんだ?
「あのさ」
「ああ、なんでグリーブトで崩落が起きたかかい?」
「うん」
「ここにパンがあります」
「うん?」
取り出されたのは硬いバケット。
それを叩き割るというか引き千切るフレディ。
バケットは硬いけどちゃんと二つに千切れた。
これがなに?
「ほら」
「うん。…うん? …んん???」
つまり?
「千切るために持った場所は?」
「ぺしゃんこ」
「千切る時結構バリバリいったろう?」
「うん」
「引っ張り、千切れた時の衝撃は大きかったろう?」
「うん。……もしかしてブチって切れた時の衝撃があの地震?」
「そう。で、脆くなっていた大地は衝撃に耐えられなかった。まあ、元々弱っていたんだよね。そこに更に大地を維持する力も掘り起こされたから…」
「…不運が重なった…って感じ?」
「そうだね、多分あの村以外にも崩落した村はあるはずだよ。グリーブト内に限らずベルゼルトンでも、ラズ・パスでもね。結構あれであちこちが穴だらけになっていると思う。…あの地震で何万人死んだか…」
考えたのか目を伏せたフレディはどこか辛そうだ。
そうか、あの村がピンポイントで落ちたわけじゃないんだ。
アバロン大陸の各地で崩落は起こっていた可能性が高いのか…。
…あんな大穴が村や町のある場所で、幾つも…。
今更ながらゾッとした。
フレディとヨナがたまたまあの村にいたから、ルキニーの村の人は助かったけど…あんなの二人がいなかったらどうすることも出来ないよ。
…たくさん、たくさん死んだのか…。
「この村もすぐにとは言わないが近々崩落するだろうな」
「…そうだね…あの地震で…ニーバーナ王の抜け殻を掘り起こしただけで、大陸の寿命は五年は縮んだろうからね」
「…埋め戻せば元に戻るのかな…?」
「いや、一度ぶち切った紐は元に戻らねーよ。結び直しても、歪な流れにしかならない。…この大陸を助けるのは…マジで『八竜帝王』の誰かか上級上位兄の幻獣だけだろう」
『八竜帝王』か幻獣族の中でも上級の奴らだけ…。
フレディとヨナだけでは助けられても一国。
「抜け殻が後いくつ埋められているかは分からないけど、多分ベルゼルトンで掘り起こされたのは一番掘り起こしちゃダメなやつだったんじゃないかな」
「…それでなくともヤバいのに、自分でトドメ刺しに来た感じだな…」
「…よくそんなのピンポイントで掘り起こしたな〜」
「ほんとだね」
「……。…? ………。…?」
「どうしたのヨナ」
「……いや…? いや、なんか引っかかった。……なんだ?」
「僕に聞かれてもわかんないよ?」
「?」
「お待たせいたしました、料理の追加分でございます」
待ってました‼︎‼︎
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