第6話
ヤベェ、なんか涙出てきたぜ。
俺、昨日一日だけで…フレデリック様にものすごい尊敬と理想と夢を抱いていたんだな…。
気付かなかった…。
た、立てない…立てねぇよ…。
ぐぅぐぅ。
しくしく。
その部屋にはしばらく、そんな音が続いた。
「おーい、チビ! フレデリックは起きたかよ…ってなにやってんだ?」
それからどれくらい時間が経ったんだろう。
痺れを切らしたジョナサン様が入ってきた。
因みにノックはない。
そして、ちゃんとズボンは履いてくれている。
ズボンは。
上半身は裸のままだ。
いや下半身が隠れただけましか?
「……だって…フレデリック様が…」
俺の中のフレデリック様が〜〜っ!
「スゲェだろ? 起きてる時との差。ほっとくと平気で夕方まで寝てるんだぜ?」
「……⁉︎」
確信犯かよ!
「寝汚ぇんだよ、この人。普段きっちりし過ぎてるせいか、寝てる時はとことん無防備になる。…はぁ、やっぱ慣れねぇ土地で慣れねぇ人間が部屋に入っても起きねぇか。まぁ、起きねぇよなぁ…」
「…い、いつもどうやって起こしてるんだ?」
「起こせねぇよ。いつも着替えさせてから寝てる間に飯食わせて昼頃起きるのを待ってるんだ」
「昨日は⁉︎」
俺をこの人が買ったのは早朝だぞ‼︎
「昨日はそもそも寝てねぇ。この街についたのが深夜だったからな…宿も取れなかったんだ。だから街を見て回って…そしたら朝、お前が俺たちを指差して大声で…」
「…え、じゃあ…やっぱり二人は海から来たのか⁉︎」
「ン? …ああ、まあな。けど、俺たちは別にお前の言うような魔法の国ってのから来た訳じゃあねぇぜ。多分な」
「多分って…どう言う意味だよ?」
「お前の言う魔法の国ってのが、俺の考えてる魔法の国ってのとはきっと違うって意味さ。俺からすりゃ、科学の進歩したこっちの大陸の方がよっぽど魔法の国だからな」
「………。ジョナサン様たちの国には機械がねぇのか?」
「なくもねぇが、ここにあるようなもんはねぇな。あと、様付けはやめな。城でもねぇのに様付けで呼ばれるのは勘弁だぜ」
…ん?
城?
「二人は城に住んでるのか?」
「…おっと、口が滑っちまったか? …(…さすがは『英雄の資質』のあるガキだ、いいところに目を付けやがる…)…言っておくが、城なんてのは俺たちの国じゃあ珍しくもなんともないんだぜ? 大昔は砦だった城も数多く残ってるからな…」
「いや! スッゲーよ! 城に暮らしてるなんて王子様みてぇ!」
「…………。…そうか? 俺ァ柄じゃあねぇだろうが」
「そんな事ねぇよ! 確かにフレデリック様の方がいかにも王子様っぽいけどさ、ジョナサン様だって食器の使い方やテーブルマナーってやつ? 完璧だったぜ? 育ちが良いんだろうな〜って、思ってた!」
「‼︎ ……よく見てたな…」
「まぁな! 俺たち奴隷を買うのは金持ちだから、立ち振る舞いっつーの? そういうのはなんとなく分かるんだよ」
俺が今まで見て来た中でも、二人の気品はそりゃあ上級なもんだ。
ジョナサン様は一見荒くれ者っぽいが、育ちの良さがそこかしこに出てる。
…夜だけでなく朝にも風呂に入るなんて、身嗜みを重視する貴族様っぽいし…服をなかなか着なかったのも、濡れた体のままうろうろしてたのも、普段従者や奴隷が身の回りの世話をしていたからだろうし。
何より金の使い方だ。
荒いっつーか、頓着しねぇっつーか。
割り増しされた価格の俺にポーンと希少なクレア・ルビーを出したり、手渡してきたり…。
飯の食い方も豪快だし、宿の取り方も一番上等な所を迷いもせず選ぶ。
金に困った事がないのがもろに出てるっーか。
「ふーーん、成る程ね…。そうか、あんまり考えた事なかったが…気をつけた方がいいな…」
「え? なんで?」
「一応隠密…お忍びってやつなんだよ」
「は?」
俺は耳を疑った。
今、この人なんつった?
お、お忍びぃ?
「全然忍べてねぇよ!」
「⁉︎ ま、マジか?」
「今現在どこにいるのかを考えろよ!」
一流の最高級宿の、一等部屋だ!
昨日だってクレア・ルビーで俺みたいな奴隷を一括購入だし、いい服は買うし、高級肉料理の店で飯食うし!
「多分もう噂になってるよ! あんたたち目立つし!」
「? ちゃんとこの国の服は買っただろ?」
「服の問題じゃねー⁉︎」
顔!
体格!
そして金の使い方!
もっかい言うけど立ち振る舞い!
どれを取っても上流階級の人間にしか見えねぇんだよぉぉお!
自覚なかったのか⁉︎
「……マジか…目立たねぇようにしてたつもりだったんだが…」
「鏡見て言え!」
昨日、宿から追いかける時、一発でヒットしたぞあんたたち!
「…うーん、こいつぁ思っていた以上に難しいモンだなぁ…。今後についてフレデリックと相談する必要があるってことか」
「その方がいいと思うぞ…」
目立つつもりがなかったんなら、絶対。
「………。フレデリックがお前を買ったのはいい買いモンだったのかもな。俺たちじゃあその辺気付かなかった。指摘してもらって助かるぜ」
「!」
…俺がいたから…?
俺のおかげってことか?
…じゃあ、俺…俺の仕事は…!
「あのさあのさ! それじゃあ俺が質素な暮らしってやつを教えてやるよ! だからさ、もっと俺のこと使っていいぜ!」
「ん〜〜。まあ、そうだな。その辺りの匙加減が分かるまでは御指南いただくとするか? お前、料金分はどうしても、俺たちにくっついてきて働きてぇんだろう?」
「うん!」
「この土地の人間がいるのといないじゃあ違うからな…利害は一致してる、か。お前は自由に旅をしたいんだもんな?」
「うん! …でも…」
時間は有限。
この先どうするのかは、考えてきちんと決めるべき。
フレデリック様に言われた通り、俺なりに考えた。
俺は…。
「俺、今一番、飛行機が見て見たいんだ」
「飛行機を?」
「うん。だけど、ずっと檻の中で生活していたから、俺、この街のことも本当はよく知らなかった。昨日思い知ったんだ。この街にある果物や野菜や魚のことも、街にある店や人のことも、普通に暮らしてる人の常識みたいなもんも、ほとんど知らなかったんだなって。…こんなに何にも知らねーんじゃ、一人で旅なんて出来ない…。二人はさ、何か調べてるんだろう? 昨日、いろいろ見て回って調べてたってのはなんとなくわかった。…俺も連れてってくれない? 二人が知りたいこと、俺が知りたいこととは違うんだって分かってるけど、でも、俺なんでもいいからもっともっといろんな事が知りたいんだ! 一人で旅が出来るくらい…!」
「……………(己が無知と、知っている、か…。やはり馬鹿じゃあねぇなぁ…)……そうか。なら、それはフレデリックの奴にも言ってみな。俺はテメェが付いてくんのは構わねぇよ」
「! うん!」
…やっっったーー!
ジョナサン様…あ、もう様付けすんなって言われたんだっけ…には、同行許可!
あとはフレデリック様なんだけど………。
「ふが…」
「…………………」
辛い現実が、そこにはあった。
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