朝ラー

 当初ユキが企画していたお茶漬けツーリングはひとまず延期になった。新たにユキが企画したのはラーメンツーリング。ま、定番っちゃ定番よね。


「……で、なんでまたこんなに早いのよーっ!」深夜の東名高速道路、ヘルメットの中で寒さを紛わす為に叫ぶ私。


 沼津港の時も大概早かったが、今回は深夜出発の朝6時到着を目指して走っている。メンツはユキ、トモくん、私、洋子、トマト、しんがり宗則、ヒロシ。以上並び順。金曜深夜出発で当然孝子は不参加。

 言うまでもないが、ご隠居も不参加。今は休学中のご隠居は来年も1年生が確定している。


 なんでも静岡の一部では早朝にラーメンを食べる習慣があるそうで。ユキがネットでそんなブログを読んでから、一度行かないとってなったんだけど。地元の人はいいけど、神奈川の私たちは当然深夜出発になるよね。


 129号を北上し、厚木から東名高速道路、途中から新東名に入り、御殿場を過ぎたところで一度休憩を挟む。

 SAの喫煙所で温かい缶コーヒーを握りながら夜空を見上げ一服する私と洋子。孝子もご隠居もいないので喫煙者は私たちだけ。

「茨城と比べると星が少ないね」と思った事をそのまま口にした。

 なんでもない一言のつもりだったが、洋子の顔は神奈川の夜空程度に少し曇る。

「キョウ、私には聞かないの? 将来の事」と洋子。

「なんで?」

「新年会の時、孝子さんには聞いたんでしょ?」

「あー、あれは、あの時は別に……」

「私には興味無いんでしょ?」

「そんなんじゃないよ」

「じゃあなんで……」と、あまりにしつこい洋子に嫌気が刺した訳ではない。私なりの考えがあって本当の気持ちを伝える事にした。気付かれないように少しだけ深呼吸する。

「……アタシと違って洋子にはしっかりした夢がありそうで、何もないアタシは自信がなくって。だから聞くのを躊躇ためらってたの」

「えっと、その、私、孝子さんにジェラシー感じてたみたい。だから、その、ごめん」と、恥ずかしそうに話す洋子。こういうところは可愛いままでいて欲しい。


 イライラした気持ちのまま洋子にバイクを運転して欲しくなかった。

 一服そこらの時間で納得させる為なら、私が恥ずかしく思ってる心の内を隠さずに話すことなんて大したことじゃない。

「行こっか」と言って歩き始める私の手を後ろから洋子が掴んで「イラストレーター! デザイナーやりながら目指すの!」と言いながらついてくる。


 立ち止まって振り返る。「やっぱり。アタシが追いかける側じゃん」と意識した訳ではないが孝子っぽい口調になってしまった。

「夢は夢、仕事は仕事! それにデザイナーなんてそんなに簡単になれるもんじゃないんだから、私だってどうなるか正直わからないよ」と洋子。

 優しく、それとなく、握られたままの手を離して、一緒にバイクに向かう。みんなもそれぞれ休憩を終え、ぼちぼち集まり始めていた。

 このタイミングで給油組はガススタへ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る