ハイエナ6

 前回作業から丁度一週間。

 まずはトルクロッドをセンタースタンドを固定するための取り付け穴を利用して車体側に固定する。

 900SS用のブレーキキャリパーステーのスイングアームとの固定用突起をサンダーで大雑把に切り落としてある程度整形する。細かい美観は後回しにした。

 キャリパーをちょうどいい位置に配置した場合に、トルクロッドをどのくらい短くすれば良いかをもう一度正確に測った。


 宗則が持ってきてくれたネジ山を切る工具のタップと下穴ドリル、この下穴ドリルの刃に塗装の時に使うマスキングテープを巻いて今のネジ穴との差を埋めて、大雑把だがトルクロッドの中心に穴を開けられるようにして、少しずつ穴を深くしながら、ドリル刃の限界まで来たらトルクロッドを切り詰める。数回繰り返してトルクロッドを短くし、次はタップでネジ山を切っていく。


 事前に方法や手順を考えて作業を進めて行けば1時間くらいで終わる作業だったが、これを前回の作業終わりに思い付いて出来たかと言えば、焦って失敗しただけだったろうなと思う。こういう部分の差がプロとアマの違いなんだろう。

 私たち素人にはせめて起こった問題を解決するまでの過程を楽しむぐらいの心の余裕がないといけないなと思った。


 念のため近くのコンビニまで試走し、缶コーヒーを3つ買ってきて今回のホイール換装作業の終了を祝して乾杯した。


 久しぶりに宗則がペペロンチーノを作ってくれ、少し早いがお昼ご飯にして午後から洋子のカフェのタペット調整作業に入ることにした。


 食事を終えて、宗則はコーラ、私と洋子はインスタントコーヒーを飲みながら、食後休憩を兼ねて洋子のカフェのタペットクリアランスをネットで調べる。念のため、二つのサイトで数値を比べて真偽を煮詰める。どちらも同じ数値だったので大丈夫だとは思うが、いつかは念のためサービスマニュアルの購入が必要だろう。そうすればメーカーの指定するサイズが正確にわかる。まぁ、たまに間違いのあるサ-ビスマニュアルもあるらしいが。


 さて、ここからは私が工具を取ったり作業メモ画像を撮影したりとサポートに回る。

 まずはカフェのシートを外し、タンクを外す。そしてタペットカバーを外す。

 エンジンサイドの窓を開けてピストンの圧縮上死点ってのを出しておいて、中にある調整ネジを締めたり緩めたりして、バルブとの隙間を規定値範囲内に調整する。あとは緩まないようにロックナットを締め付ける。

 手順はざっとこんなもんなのだけど、これだけは実際に作業をして手の感覚で覚えるしかない。


 圧縮上死点を出す時にスパークプラグを外しておくとやりやすい、で、プラグを外す前には圧縮エアーでプラグの穴の周りのゴミを飛ばしておく。

 隙間を計るシックネスゲージの規定の厚みのプレートを使って、調整ネジの隙間に入れてゆっくり前後に動かし、その動き具合を手の感覚を頼りに同じになるように調整する。

 そして、それだけならまだ割と簡単なのだが、調整ネジが緩まないようにロックナットを締め付けるときに、調整ネジも一緒に締まってしまうので、その分を加味してやや緩めに調整しなければならない。

 以上、宗則の作業ポイント説明より。


 私の場合、うまくいかないときは宗則に変わってもらったりするのだけど、洋子は自分でやると決めたらやり遂げたいタイプ。何度もやり直している様子を見るに、やはり簡単な作業ではないのだと伝わってきた。私の場合、この作業を16回か……。

 途中、うまくいかなくてイライラしそうになっていたけど、そのタイミングで宗則が「駄弁りながらゆっくり楽しんでやろう」と声をかけたので、洋子も何回もチャレンジできた。


 作業を終えてエンジンが無事かかったとき、洋子は少し涙ぐんでいたようだったが気がつかないフリをした。それがアタシの〝女気〟ってやつだ。

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