ハイエナ5

 やや飲み過ぎたかな? それともワインが身体に合わないのか?

 少しだけ頭が痛い感じでゆっくりと目を覚ます。今日は悪戯のない朝だな。台所から炊き立てのご飯と味噌汁のいい匂いがする。


「あ、おはようございます。台所借りてます」と爽やかなトマト。二日酔いを感じさせないその様子を見てこいつ絶対普段から呑んでるなと確信した。


 じっくり煮込んだジャガイモとタマネギの味噌汁、炊きたてのご飯、冷や奴。シンプルだが胃に優しいメニュー。豆腐は無かったはずだが、早起きして散歩がてらコンビニで買ってきたとか。なんでこんなしっかりとした子とご隠居みたいな軽いノリの奴が友達なんだろう。


 トマトのお陰でみんなしっかりと朝食を取ってから作業に移れた。

 私の着ていた作業つなぎをトマトに貸して、私は古いジーパンとMA-1ジャンパー(パチ物)で作業。


 今日の作業は各ベアリングの交換の続き、サスペンションとホイールの組み付け、前後スプロケットとチェーン組み付け、そこからチェーンガイドローラーとリアブレーキの組み付け。

 昨日ベアリングの交換で工具が使えない場所が数カ所あった為、まずは工具の買い出しだ。まぁ、工具といってもダブルナットでベアリングを抜き取るための全ネジボルトとナットとワッシャーを数点なんだけど。これらを頭を使って組み合わせ、古いベアリングを抜き取り新しいベアリングを圧入する。

 頭脳も4つあるので、スムーズに抜き取りと圧入の工程が終わった。今日の作業でトマトは頭が良い方だとわかった。宗則には知識と経験から辿り着ける方法論ってのがあると思うんだけど、トマトはそこに発想力で辿り着いてしまう。洋子はこういう作業が苦手のようで、主に検索やメモ用画像の撮影といった助手的作業に従事してもらった。


 サスペンションの組み付けでは下側に繋がるリンク部分がプラプラと動いてネジを挿しにくいのだけど、さすがにこの人数がいたので簡単だった。

 そして今回私が選んだサスペンションは値段が安いっていうのが決め手のサスペンションで、本体からタンク等が出ていないモデル。でもセッティングが出来ないわけではなくて、ただやりにくいってだけ。調整機能もちゃんと付いているので、宗則みたいにシビアに攻め込まない私には必要十分ではないかと思ってこれにした。

 そのおかげで組み付け時に別体タンクやバネ自体の強さを調整する別体ノブプリロードアジャスターの設置場所などで悩まずに済んだのも作業時間短縮に大きく貢献した。


 サスペンションが付いたら、リアホイールにスプロケットを付けてスイングアームにホイールを固定する。フロントスプロケットも組み付けてチェーンを通す。

 チェーンサイズを落としたからか、フレームとの干渉は回避できているっぽいが、念のためチェーンローラーも付けた。安全マージンが高くなるし、なにより買っちゃったしね……。


 そんな感じで順調に作業は進んでいったのだけど、日も暮れて時間的に厳しくなった頃、致命的なミスが発覚した。ブレーキキャリパーを固定するためのトルクロッドが長すぎたのだ。

 対策を考えたが、ロッドを短くしてドリルとタップでネジ穴を再加工する以外ないという結論になった。


 宗則が一度帰って工具を持ってくると言ってくれたが、作業難易度が高いのと、騒音の問題も考えて、今日の所は解散にして来週にしようと提案した。

「ごめん、それでバイクとか二人に借りたりすることになるけど…」

「それは気にしなくていいよ、乗りかかった船だし」と宗則。

「私はキョウとの同棲生活を満喫するよ」と洋子が場を和ますように冗談を言う。


 みんなでカレーうどんを食べて解散になった。

 悔しいが、仕方がない。これは英断だと思おう。

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