マネージャー?

 講義が終わり教室を出た所で「アスカ君!」と、同じ学年だが知らない女の子に急に声を掛けられた。いきなり下の名前で呼ばれたので、同じ学科の同期生に彼女じゃないのかとからかわれる。

「えっと、あれ? アスカ君って名字じゃないの?」その様子から察した女の子が慌てた様子で聞いてきた。それにしても飛鳥が苗字って、そんなに悪魔サタンっぽく見えたのか俺。

「名字長いからみんな下の名前かあだ名で呼ぶんだよ」と答える。

「えっと」

「龍ヶ崎。もう飛鳥でいいよ。何か用事あったんだよね?えーっと」

「ミナミ……」「ミナミちゃん? 名字は?」

「ちゃんと最後まで聞いてよ! 南千宏、チヒロが名前。野球マンガじゃないんだから!」


 千宏ちゃんがその場では話しにくいと言うので、学食テラスに移動して話を聞くことにした。

「飛鳥君って、その、何かサークルとかって入ってるの?」

「え? 何で?」

「その背中のマークみたいなのって同じの着てる人何人かいるよね?」

「あ、これかー。バイクサークルだよ」

「え? バイクっ?」

 千宏ちゃんとは学部が違うため、一般教養パンキョーだけ一緒になる。お昼以降の講義だとヘルメットを学食のサークル溜まり場に置いていくことが多いため、俺とバイクが結びつかなかったみたいだった。キョウさんみたいに〝いかにもバイク乗り〟って感じになっていないのは喜ぶべきかな。

 サークルに興味があるとのことで俺に話しかけてくれたみたいだったが、千宏ちゃんはバイクに乗っているわけではなく、スクーター通学らしい。つまりそこから導き出される答えは……。

「千宏ちゃん、うちのサークルに誰か気になる人でもいるの?」

「えっ! ななんで? 私、特にサークルとか入ってないから何かいいのないかなって探してる最中で……」と千宏ちゃんは誤魔化そうとしているが、ちょっと考えればわかる話。

「うちの同じの着てる人って何人もいないし、それにバイク乗ってないのにやっぱそれは無理があるでしょ」と俺。

「あの、その、……あーうー」と、観念したのか誰にも内緒と言うことで千宏ちゃんは話始めた。


 以前、千宏ちゃんのスクーターのエンジンがかからなくて困っていた事があって、結局それはガソリンメーターが故障して満タンを指していたけどガス欠だっただけみたいで、駐輪場で偶然居合わせた人がそれを一発で見抜いて、さらにバイクのガソリンを分けてくれたと。

 それからしばらくしてその人が着ているジャンパーと同じロゴのジャンパーを俺が着ていることに気付いたので普通の遊び系サークルかなんかだと思って声をかけたとか。俺と同じデカいロゴを付けているのは宗則先輩とヒロシ先輩とトモくん先輩、ユキ先輩はさすがに候補から除外、現実世界にはそんなに百合の花は咲かないだろう。孝子さんと洋子先輩とかだと絵になるけど。

 千宏ちゃんに詳しく聞くと、青と白のバイクで硬派っぽくて寡黙な人というので、宗則先輩で確定した。しかし、硬派って……。

 あと、後輩の俺が言うのもなんだけど、先輩の場合寡黙なんじゃなくって、女子免疫が低くてあんまり話せなかっただけだと思う。


「さすがにスクーターじゃ入れないよね。……あ、マネージャーとか!」と言う千宏ちゃん、ポジティブ女子だなぁ。

「スクーターでも高速乗れれば問題ないかもだけど、原付だとツーリングとか厳しいかも。あと野球部じゃないからマネージャーはいらないと思うよ」と返す。

 いきなり免許とるとかは現実厳しいだろうし、そもそもバイクサークルが楽しいと感じるかどうか。

 千宏ちゃんにはとりあえず、サークルに興味はあるけど免許は無い友人がいると先輩に相談してみると伝えて、LINEのIDを交換した。


 そういえば洋子先輩は最近免許とったんだよな、後で色々聞いてみよう。

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