トラッカーシート

 月曜日、学食にいるのは宗則と私だけ。お互いに自分のスマホでオークションをチェックしながらGPZのリアサスペンションを探している。

「これとかどう?」現在価格2万弱のサスペンションを宗則に見せる。

「終了までまだ2日以上あるし、オーリンズは値段もっと上がるべー」と宗則。


 そんな会話をしていたらお昼休みに突入したみたいで、周囲が急にがやがやと混み始める。ヒロシがB定食のトレーをもって私の隣に座る。

 少し遅れてこちらはA定食と一緒にトモくんが宗則の隣に座る。

 お互いにオツカレーと挨拶をし合い、そういえば私たちご飯食べてないなと、おそらく同じ事を考えていたんだろう、宗則と一瞬目が合う。既に購買も食券売り場も行列だ。

 時間ずらすか、とお互いにまたオークションチェックに戻った。


 A定食とユキが来たが席が一杯のため、ご飯を食べずに座っているだけの私が外にでも移動するかと立ち上がると、宗則も気を利かせて立ち上がる。ユキが「ありがとー」と言う。立ち去ろうとしている私と宗則の背中に「久地先輩、ちょっとお話が」とトモくんから声がかかる。私は宗則に指で一服の仕草を見せてお互いに手をあげて別れる。宗則は戻ってもといた席に座り、トモくんと話はじめた。


 混み合っている時間に喫煙場所に行くのも嫌なので適当な場所に座ってオークションチェックを続ける。


 どのくらいオークションチェックに集中していたのか、宗則に声をかけられて振り返るとトモくんもいた。スマホで時間をみるとすでに30分以上過ぎていた。タバコは? と宗則に聞かれて、混んでるだろうから面倒くさくなったというと、しっかりと暇だと伝わったみたいで、そのまま人員として駆り出されて一緒に部室に連れていかれた。


「アレです!」と言ってトモくんが指さしたのは私もなんとなく見覚えのあるFRP製の薄っぺらいシート。宗則が今乗っているCB1100FCをサークルの先輩から譲ってもらった際に最初についていたシートだ。

「これかー、多分厳しいと思うけど、まずは車体に載せて検討しよう」という宗則。

 シートを持って駐輪場に移動する。途中、トモくんが最近サークルの共有ヘルメットを借りた時にこのトラッカーシートってのを見つけて、宗則に貰って良いか聞いて、着くかどうかはわからないけどっていう経緯を聞いた。

 宗則もトモくんも背中にはお揃いのTT-Wのパッチが付いている。二人の後ろからそれを眺める私の背中にはGentleBreezeとTT-Wの小パッチ。

 …を更に眺めているスクーターから降りて歩いている女の子? はて、どこかで見覚えが。

「あ、あの子!」と私が声を出したので女の子は走って行ってしまった。

「宗則、今のスクーターの子って、前に話してなかった?」と聞くと

「あー、ガス欠だったみたいで、CBのタンク外してちょっと分けてあげてただけだよ」と、宗則。

 私はてっきりしつこい勧誘でもしてたのかと思ってたよ。


 TWの前でタバコに火を点けて二人のやりとりを見守る。

「とりあえず今のシートを外してあてがってみよう。それで何とか着きそうレベルか茨の道レベルか、ある程度判断出来ると思う」

 トモくんのTWは元々ある程度カスタマイズされたものを買ったらしく、シートの下のスペースが色々外してありスカスカになっている、いわゆるスカチューンというやつだ。

 トモくんの話だと、洋子のように特にやりたい形があった訳ではなかったらしい。たまたま見に行ったお店で良さそうなものを買っただけでむしろそれがノーマルだと思っていたとか。これには、TWはカスタムして乗る人が特に多い車両で、今や純正の姿のまま残っている車両の方が少ないという背景もある。(……と宗則が語っていた)


 宗則が今着いているフラットなシートを下側から覗き込み、粗方外し方がわかった様で、ネジを外してシートを外してトラッカーシートをあてがう。

「いけなくはなさそう、かな」と宗則の見立て。

「ホントですか!」と嬉しそうなトモくん。「若干、茨」と宗則が付け加える。


 で、当然そうなるだろうと思ってたが、宗則から作業場として我が家を貸して欲しいってのと、ついでに手伝って欲しいと。


「それはいいけど、トモくんタンデムはもういいの?」と一番気になっていたことをトモくんに聞いた。私ん家を提供するんだから当然聞く権利くらいあるよね。


「今の目標はバイクに乗ってる彼女をつくることです!」と元気よく返ってきた。

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