グレンフィディック

 最近、洋子と一緒に飲む機会が多い。

 孝子やユキが実家暮らしというのもあるのかも知れない。私が看板のデザインをお願いしたのがきっかけで、洋子がバイクに乗り始めたっていうのが嬉しいってのもあるかも知れない。

 誘い過ぎかな、と考える時もある。今日一緒に買ったグレンフィディック、このお酒を飲みたい時、私は洋子を誘う口実が出来てしまった。


 今日は二人でつまむには多い量の缶詰を買ってしまったので、夕食も食べずに飲み始めた。初めて買った上等なお酒への期待も大きかった。

 私はカッコをつけて「ロック」で飲むことに、洋子は一杯目から飛ばせないとソーダ割で飲むことにした。

 缶のおつまみは少し高価だけど、どれも美味しそうで選んでいるだけでわくわくした。ただ、これを温めるのが面倒くさい。皿に移して電子レンジってのが正解かもだけど、見栄えを気にせずにそのまま湯煎して缶のまま食べた。北海道ツーリングの時に揃えたガスバーナーで温めるのもわざわざ台所に行かなくていいから楽かも知れない。今度ガス缶を買っておこう。


 洋子と軽くグラスを合わせて飲み始める。

 そもそもいつも安いお酒が多いので、ウイスキーもあんまり美味しいイメージがなかった。グレンフィディックは度数は強いけど雑味がなくて飲みやすい味。高いウイスキーがみんなそうなのかも知れない。だけど確かにあの時、去年のツーリングのフェリーで飲んだウイスキーの味だ。いいグラスが欲しくなる。

「ロックグラス欲しくなってきちゃった」と言うと、洋子が一口ちょうだいと言ってきたのでグラスを渡す。洋子からもソーダ割が渡される。ソーダ割は美味しかったけど、香りが薄くなるようで勿体ない気もした。レモンなどでその分を補うと良い感じかも。


「お揃いで買っちゃう?」と笑う洋子。

「カップルじゃないんだから」と私。

 それでもパソコンを立ち上げて、ペアグラスを検索し始める洋子。

「あっ、」すっかり忘れてた。そういえば、マフラーの話するんだった。ウェブ検索という行為で思い出した。

「どうしたの?」と洋子。

「実は……」と洋子にどこから話すべきか。まずは私のGPZのマフラーをオークションで出物を落としたことから話した。それで、近いうちに宗則と交換作業をするつもりと。そうしたら「私も見学しててもいい?」と洋子から言ってきた。


「もちろん、アタシもその方が楽しい」

「少しずつだけど、自分のカフェの整備とかできるといいなってずっと思ってて」

 洋子は250TRのことをバイクのスタイル〝カフェレーサー〟から略して〝カフェ〟と呼ぶ。その呼び方が私たちにも少しずつ伝染りつつあって、学食の周りの人には洋子が喫茶店でバイトしていると勘違いされているかも知れないね。

「アタシで良ければいつでも教えるよ、あと宗則もきっと同じ気持ちだと思うよ」

「洋子はどこか気になるとことかないの?」洋子に聞いてみると、購入時からバックミラーは交換したくて自分でいろいろ調べてはいるみたいだった。あとはロケットカウルだが、現実問題値段が高すぎるのと、取り付けが果たして自分でできるのかどうか不安はあると。だから少しずつ整備を憶えたくなってきたらしい。


 マフラーは流石に考えていなさそうだよ、宗則。

「マフラー交換とかは考えてないの?」諦めて、パソコンで宗則が見つけ既に押さえてあるというマフラーの装着画像を見せる。

「わ、何コレ、こんなのあるんだ! かっこいい!」と意外と好反応だった。

「けど、こういうのの取り付けはさすがに初心者の私には厳しくないかな?」という洋子。

「今度さ、私のGPZのマフラー交換の時に洋子のミラー交換も一緒にやってみようよ、少しづつ色々できるようになるよ」自信がなさそうな洋子に私と宗則でサポートするからといって納得してもらい、明日帰りにバイク用品店に行って、ミラーを見てみようということになった。


「明日大学帰りにそのままバイク用品店に行くのなら、ちょっと言いにくいんだけど、お風呂借りたいかも」と恥じらいながら洋子。

「シャンプーとか私ので良ければ」と、言ったところで気付く。

 メイク落としぐらいは買っておかねばと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る