ポンコツの集い

 なんだかんだで、上手くいってるのか一方的なのかはわからないが、ちょくちょくトモくんと哲子がテラス席で一緒に話しているのを見かけることが増えた。


 今日も昼休みは哲子と一緒にA定食を食べていたトモくん。しかしサークル席では憂鬱な様子。面倒くさいなー。

 なんでこんな時に限って恋愛脳のユキがいないの? 学食には私と洋子とトモくん、ご隠居だけ。


「トモくん、その後哲子さんとは進展あったの?」と聞いてみる。

「どこまでが進展かわかりませんが、一応LINEのIDは聞きました」とトモくん。じゃあなんでそんなに暗いのよ。

「……もう面倒くさいから早く話して……」と私。

「え? 導入とか雑じゃないですか?」とトモくん。

「……洋子、今日このあと授業ある? 家で一緒に昼間っからウイスキーでも飲まない?」

「ちょっ、待ってくださいよ、なんで帰り支度なんですか?」

「え、俺もご一緒してもいいですか?」とご隠居。トモくんの話はもはや誰も聞いていない。

「アンタは孝子でも誘いなよ、今日の我が家は女の園なのよ」

「いや、孝子さん金土日と夜はLINE全然既読つかなくて。一体何のバイトしてるんですか?」

「そもそもあんた本気じゃないんでしょ、軽いノリだし。それに孝子は何のバイトしてるか誰にも話してないから。同期の私も部長の宗則も知らないよ」

「キョウ、ちょっとサバサバしすぎだよ」と洋子。

「どうせキャバかなんかだと思うけど……」と続けたが「キョウ!」と洋子が私を制す。

「ご隠居くんが真剣かどうかはわからないでしょ? 真剣だったら知りたくない話じゃない?」

「ごめん」「すいません」と私とご隠居がハモる。

「へ?」とまたハモる。

「孝子さんに対する気持ちは正直真剣じゃないと思います。恋愛なのか憧れなのかすらわからないです、けどどっちでもいいからそこに魅力的なコーナーがあればアクセル開けていく姿勢っていうか、そんな感じです」とご隠居。


 あぁ、こいつも愛すべきバイク馬鹿だ。まぁ、私と洋子はコーナー認識すらされていない訳だが。

「ご隠居くん、ありがとう。僕も勇気づけられた!」とトモくん。

「もう、もうっ! 聞くから簡潔に話せ! 今この場で全員で聞くからっ!」とトモくんを煽る。



 ロリータ娘、大沢哲子は文芸雑誌の新人編集見習い。仕事の関係で短大の文芸科の教授に会いに来ていたが、今日で取材は終わり。

 あとは原稿をまとめて、もう一度目を通してもらいに来たら最後、もう大学には来なくなるらしい。トモくん自体が自分の気持ちを憧れなのか恋愛なのか曖昧だったから踏み切れずにいたが、次に会える時に告白する勇気をご隠居の話でもらったと話した。


「がんばれ」「うん、哲子だし気を付けて」「先輩がんばって」と各々コメント。


「え? 反応薄くないですか、みんな?」とトモくん。

「ごめん、アタシ経験値低いから」

「私もちょっと哲子のことはわかりかねるので」

「先輩がんばって」

「せめてLINEでこうやって誘ったらとかアドバイス欲しかったんですが……」

「ごめん、アタシ経験値低いから」

「私もちょっと哲子のことはわかりかねるので」

「先輩がんばって」

「このサークルってこんなに恋愛ポンコツだったなんて……」と嘆くトモくん。


「おつかれー」と宗則がB定食のお盆を持って登場。

「深刻な顔して何の話?」と宗則。

「……バイクの話です」とトモくん。

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