膝枕
沼津港で食べ過ぎた私たちは港の防波堤の上でしばし休憩をとった。
座ってタバコを吸っている孝子とそもそも食べ過ぎていない洋子以外、みんなお腹を押さえて横たわっている。潮風が気持ちいい。
寝転がったまま、「この後の予定だけど」と言う宗則。峠にある見晴らしのいいお茶屋さんに行こうかと考えているらしい。
「あのさ、さっき安いターンパイクの出口にあったでっかいライダーズカフェとかどう?」と宗則とみんなに提案してみる。もちろん下調べはしていたので、駐輪料金がかかることも付け加える。都内ならいざ知らず、バイクで駐輪料金がかかるってのは神奈川では珍しい方だからね。
消化活動に血流を奪われた頭でどっちがいいか話し合ったが中々まとまらず、宗則の「確かに人数的にはそっちの方が良さげかなぁ」という意見が決定打となり、お腹が落ち着いたら来た道を戻りつつカフェで休憩という流れになった。
そう、お腹が落ち着いたなら。
寝転がったままタバコを咥えてライターで火を点けようとしたら洋子にタバコを取り上げられた。
「髪に砂ついちゃうよ」と言って、そのまま私の頭を持ち上げて自分の膝に乗せる洋子。ユキを見ると確かにタオルハンカチを頭に敷いている。今更遅いとは思うけど。
「それよりもっ! 顔に火が落ちたら火傷しちゃうよ」と言って私のタバコを咥える洋子。そのまま孝子の方を向くと孝子が無言で100円ライターの火を点ける。ゆっくりと煙を吸い込んで、今度はむせずに洋子が手の平にタバコを挟んだまま私の口元に持ってくる。
鹿皮のグローブと洋子の手の汗とが混ざった匂いと一緒に煙を吸い込む。二人で一本のタバコを交互に吸う。孝子が自分と洋子の間にそっと携帯灰皿を移動した。
私と洋子を横目で見ていたご隠居が孝子の横に来て、孝子の膝に頭を置こうとしながら横になる。孝子が絶妙なタイミングで
頭を押さえて「孝子さんヒドイ」というご隠居の口元を「甘い、あとウルサイ」と言ってタバコを指に挟んだままの手で口を塞ぐ孝子。タバコを咥えて煙を吸い込むご隠居。
「孝子、ダメだって! そいつ未成年!」と言ったが「こいつが勝手に吸っただけよ」と意地悪く口角を上げる孝子。
「関節キス」と呟いて鼻の下の伸びているご隠居の腹に間髪入れずエルボーを入れる孝子。
「中坊かw」と言って座り直してタバコを吹かす。
食後の今のタイミングで腹にエルボーって。
向こうで寝転がったままのトマトが宗則に「俺も先輩に膝枕とかした方がいいですか?」と言っているのが聞こえる。
「ラブコメ、ダメ絶対!」と寝転がったまま答える宗則。
「チッ」とそのやり取りを聞いていたユキが寝転がったまま舌打ち。
孝子のライターで火を点けたタバコはいつもより乾いた味がした。
日差しが強くなってきた。
米:『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
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