2人目

 洋子が私に相談があるという。できれば二人きりで話したいと。

 内容にもよるが、うちに来て一緒にご飯食べてお酒でも飲みながらではどうかと誘ってみる。ちょっと考えた後で「キョウがいいなら」と言う洋子。

 あ、これマジなヤツだ。


 とりあえず、お互い授業終わった頃、学食で待ち合わせようということにして一旦解散。なんとなくサークル席でなく、外で待ち合わせて合流し一緒に駐輪場に行く。

 まるでこっそりサークル内恋愛をしている新入生のようだなと思うと何となく笑えてきた。歩きながらニヤついていたのでちょっと洋子が変な顔でこちらを見ている。

「コンビニでいいよね?」と照れ隠しの為に聞いた。


 この前ユキと洋子と女子会をした時によったコンビニでスイーツと甘めなサワー数本を買って家に帰り、コンソメ風味のペペロンチーノを作って一緒に食べた。


 いつもと同じ会話をいつも通りにしているんだけど、洋子の相談はまだない。

 既に二人ともサワーを飲んでいる最中なんだけど、親指と中指の二本指で缶を摘まんで洋子の方に向ける。

「ん、どしたの? キョウ?」

「洋子、乾杯しよ」

「ん、」

 小さく「カィン」という音と、缶の中で「シュワッ」と炭酸の音がした。

「……あのさ、私もキョウと同じのを背中に描きたい」と洋子。

「それって」と聞こうと思ったけど、洋子が先に話した。

「私、キョウ程バイクのこと好きじゃないと思うし、いつかバイクを降りちゃう事もあると思う。けど今、同じ気持ちで走ってみたいって、キョウみたいに覚悟とかないけど」

「ちょっ、アタシもそんな重い感じでやってる訳じゃないから!」


「……アタシ、洋子のこと好きだし、正直嬉しい。バイクとの付き合い方にしたって、洋子なりの気持ちでいいと思うよ。

 今、同じ看板着て走れたらすごく楽しいと思う。ただ、2〜3万くらいはかかっちゃうから、金額なりの覚悟は必要かもだけど」


「実はそれなんだけど、ちょっとだけ考えがあるの」と洋子。今はまだ頭の中で考えてるだけだからうまく説明できないけど、今度材料揃ったら実際に見せて説明する、と洋子なりに何かアイデアがあるみたいだった。

 まさか洋子って刺繍とか出来たりするのかな? そういえば、短大には服飾科があったから授業は受けたり出来たのかも。もしそうなら最初に頼みたかったけど。

 まぁ、デザインして貰った時にはまだ今ほど仲良しではなかったから私の性格上、知ってたとしても結局頼めなかっただろうな。


「洋子の看板出来たら今度は厚木の古民家カフェ行こっか」

「うん、けどもし時間かかるようだったら出来る前に行きたいなー。カフェなんだもん、気軽に行きたい。それがカフェレーサーだからね」と、笑う洋子。

 既に彼女には彼女なりのバイクとの付き合い方があって、私はまだまだ洋子に新鮮な発見を与えてもらえる。私も、誰かにとってそうありたいな。


 いい機会なので、洋子に普段中々言えないことを言っておきたい。

「洋子、ちょっと今の内に言っておきたいことがあるんだけど」

「は、はひッ!」

「あ、ごめん、ちょっと堅い話。バイクって楽しいことばかりじゃなくって、転けたら怪我するし、バイクが故障することもあるでしょ?

 洋子のカフェレーサーはカスタム車、今のところ改造それが原因で故障や事故に繋がるようなとこは無いと思うけど、念の為。ごめんね、楽しみ方ってみんな違うのに、なんか偉そうなこと言っちゃって。

 あと、アタシもこれはバイク屋のオヤジの受け売りなんだけど、バイクを移動手段として選ぶ時にね、絶対に時間を気にしないで欲しいの。もし約束の時間とかあっても堂々と遅れて欲しいの」


「んで、こっからは受け売りじゃなくってアタシが思う事。もし洋子がバイクに慣れてきても、バイクだけは自分で限界を決めて欲しいの、気持ちとか可能性とかそういうのは限界なんてないとかいうけど、やっぱりバイクは限界を超えないように楽しんで欲しいって、ごめん一方的だし上から目線で自分でもうざいなって思う」と、一気に話してしまった。


「……ううん、そんなことない。話してくれてありがと。

 今は多分ピンと来ないし、しっかりと意味がわかってないかもと思う。けど、頭の片隅にいつもキョウの言葉を置いとくよ」


「アタシもありがと」

 洋子に会えて良かったと思う、心から。

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