テラス
学食から自販機にジュースを買いに行こうとしたが、テラス席でロリータ娘とトモくんが話しているのを見つけてドアを開けないで踵を返す。
こちらが逃げるみたいで癪だが、トモくんがこちらに気付いて声をかけてきたら厄介だと咄嗟に判断した。
初対面の人の約半分に「もしかしてバイク乗ってますか?」とか「バイカーですか?」とか聞かれる私が出現するのは良くない。そしてヘルメット持ってなくても聞かれるのはいつも謎。
ジュースを買わずに戻ってきた私に「売り切れ?」とヒロシが聞いてくるが、私はユキか洋子と話したい気分。
「うん、そんなところ」と適当に返してお茶を濁す。ユキはいない、洋子は宗則とカスタムについて色々と相談中。やっと、少しずつだが男子に慣れつつある洋子が、私とヒロシがいるとは言え、ほぼツーショットで話している。出来れば間に割って入りたくはない。
「ま、いいか」少しは考えを巡らせたが、すぐにどうでも良くなった私。
「そんなに飲みたかったのかよ」とヒロシ。
「うん、トモくんがどうなろうとまぁいいかって心境」とそのまま言ってしまった。
「え?」とヒロシと宗則、洋子がハモる。あちゃー、やらかした私。
「もう、いいやどうでも。トモくんが今テラスで女の子と話してて気まずいから引き返してきたの!」
「それって」洋子
「うん、それ」私
「まさかトモに先越されるとは!」ヒロシ
「偏差値……」私
「え?」ヒロシ
「そうかー田村にも春が来たかー」宗則
「あんたはどうなのYO!」私
「CB子ちゃん……」宗則
「あ、それキョウの家で読んだマンガ!」洋子
「ユキのお父さんに借りたの」私
と、トントン拍子で脱線するのはいつもの事。
もう隠しようがないし、トモくんには悪いけど詳細を話そう。
トモくんには今度なんか美味しいものでも奢ろう。
トモくんの一目惚れから相手の卒業と、この辺りはヒロシもなんとなく聞いている筈。卒業したその娘が最近仕事関連で大学に顔を出すようになり、偶然洋子を介して知り合ったこと、けどその子は実際はバイク乗りが嫌いで、そのことをトモくんはまだ知らないって辺りを追加。
この時点で宗則とヒロシは恋愛沙汰キャパを超えてしまっている様子。
「因みに、普段あんまり話したことないけど、君たちの対恋愛スキルって装備で表すとどのくらい?」と宗則とヒロシに聞いてみた。
「布の服、こん棒」と宗則。信憑性高い。
「鉄の鎧、鋼の剣」とヒロシ。嘘つけ。私の見立てだと鎖かたびらとレイピア。
「因みにアタシは黒のローブにミスリルナイフ」
「判断付きかねる!」と男性陣。
「私はゾンビメイルに諸刃の剣です!」と洋子。
「本題に戻ろうか」と私が締めたが、洋子もノリが良くなってきた。
「そういうわけで、アタシ登場してトモくんが気付いて声かけてきたら、アタシもろバイクメーンじゃない? ジュース買えなかったわけよ」
「おそらく、トモくんが哲子に声かけて、一方的に話しかけてるパターンだとは思いますけど」と洋子。
「けど、今のところ田村がバイクサークルってのは既に知ってるんだよね、その子」と宗則。確かに。
「それ、私も前話した時に感じたんですけど、哲子も社会人になって丸くなったのかも。けどトモくんに哲子は攻略無理だと思うから、あまり恋心膨らます前に教えてあげた方がいいかもって思うんですよ」と洋子。
「ハイ、呼びました?」とこのタイミングでトモくん。
「わっ」と洋子。
「なんの話してたんですか?」と、まさか自分の恋バナとは思わないよね。
「君の恋バナ」と私から切り出す。「え? 恋バナ?」と驚くトモくん。
「さっきロリータ服の子と一緒に仲睦まじく話してたよってみんなに
「あー。そんなんじゃなくて、またお仕事の関係で来てたとこに、僕が一方的に話しかけてただけですよー」と、トモくん。自覚はあるんだ。
「既に卒業してるのに知り合えただけでもま、奇跡だねー」
「まだ、顔認識できる程度ですよ、知り合い未満です。最新のスマホ以下です。」
「トモくん。盛り上がってる所言いにくいんだけど」と洋子が切り出した。
哲子のことで一応伝えて置いた方がいい思うことがあって。と、バイク乗りに偏見があることとそれが原因でユキと哲子が仲が悪いことを伝え、一年以上前に哲子を振った彼氏がバイク乗りだったのが原因と。結局理由目も含めて全てを話してあげた。
「そうだったんですか。この前の洋子さんの反応の意味がやっとわかりました」
「ごめん、本当は最初に言っとくべきだったよね」
「いいんです、自分でも自分の気持ちがよくわからないんで」ただ、と続けるトモくん。
「その話って、機会があったら、哲子さんに聞いてみてもいいですか?」自分から無理を言って聞き出したことにするし、そもそもまた会えるかどうかわからないですけど、と締めくくった。
トモくん、鎧はどうかわからないけど、いい武器は持ってそうだね。
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