サークルジャンパー
洋子のバイクはカワサキの250TRに決まった。
実車を見た上での洋子の印象は、大体エストレヤか250TRが最有力だった。他の候補の中では、元々洋子がバイクに興味を持つきっかけになった映画に出てきたバイクのイメージならホンダのCB223Sの方が近づけ易かったけど、全く同じ感じを求めているわけではなかったのと、CB223Sはそもそも玉数が少ない点で候補から外された。
そして最終的にカフェレーサーとしてカスタムしていくには、決定的に社外カスタムパーツが少ないスズキのST250や、社外パーツは多いがフレーム形状がカフェ向きでないエストレヤより250TRの方が向いているとの宗則と私からの助言もあり、250TRに絞って探した。
いざ探しはじめると、神奈川県内のバイクショップでそこそこカフェレーサー仕様になっている車体の出物があり、何人かで見に行き程度も良かったのでその場で決めた。納車は二週間後。明日から必要な書類等をかき集めないといけない。
洋子が購入した250TRは、前後のアルミダウンフェンダーに、タンデム席がスラントしているシングルシート、セパハンとバックステップ。ほとんど洋子の希望するスタイルだが、バックミラーだけはすぐにでもハンドルバーエンドに付くタイプに換えたいと言っていた。あとはお金に余裕ができたらロケットカウルをつけたいそうだ。既に洋子の頭の中ではある程度自分仕様が出来上がっているみたい。こういう所は見習いたいなと後ろ半分がツートンカラーの私のGPZを見ると特に感じる。
今日はみんなで家に集まって、洋子のバイク購入おめでとう飲み会になった。
トモくんの誕生日がいつの間にか来ていて、20歳になっていたのでそのお祝いも兼ねてトモくんも呼んだ。孝子はバイトで不参加だけど、そろそろフルメンバー集まるには我が家は狭いかもね。それに早い人はもう三年の終わりから就職活動だ。こうやって飲めるのもあと数ヶ月かもしれない。来年度、四年生になる前に一度みんなで真面目に将来の事とかを話したい。
私は今のところなりたいものとかそういうビジョンがない。なので参考までにみんなの考えを聞かせて欲しい。
11月、この時期に洋子のバイクの出物があったのも就職等の為にバイクを手放す選択をした人がいた結果なのかも知れない。もちろん、バイクを降りる理由は人それぞれ。就職だけではない、転勤・引越・結婚、etc、etc。
知らない誰かが降りるだけ。だけど、洋子のもとに来て、これからも走れる250TRは幸せだと思う。
いや、機械なんだけどさ。
本日トモくんがいて、洋子がいる。バイクサークルにしてはめずらしく色恋の話題になった。トモくんの例のロリータ哲子への恋の行方が話の主役。……だったのだ、少なくとも話し始めまでは。
「そもそも良く知り合えたよね」と私。
「洋子さんがまだ馴染めてなさそうだったから、テラスに誘って一緒に話してたんですよ」とトモくん。
「君が一方的にね」と洋子が補足。
「そうしたら哲子さんが洋子さんに声をかけてきて……」そこで「あっ!」と洋子が遮る。
「ど、どうしたんですか?」とトモくん。
「そうだ、一方的に話しかけられて忘れてた! あの日宗則さんにサークルのロゴのデザインのラフが上がったのを見てもらうつもりだったんだ」とゴソゴソとスケッチブックを出す洋子。
洋子が出したスケッチブックにはサークルの『TT-W』のイラスト調のロゴ案。私が背負っている看板〝GentleBreeze〟とはまた違ったテイストで、ジャンパーに縫い付けても、私みたいにデニムのベストに縫い付けても、スイングトップにプリントしても映えそうなコミカルな感じで仕上げられている。
みんな感嘆の声を上げている。みんな口々に褒めるので洋子は照れている。
「すごいでしょー、洋子ちゃんはー」と、何故かユキが誇らしそうに鼻の穴を膨らましている。
「これは?」スケッチブックの下の方に描かれた、同じロゴだが簡略化された小さな四角いロゴを宗則が指差す。
「あ、これはえっと……。キョウと孝子さんは二人とももう背中が埋まってるじゃないですか? だからパッチみたいに胸とか端っちょの方につけられるバージョンもあるといいかなって」と洋子。私の看板のデザインをする時に色々調べていてそういうフレンドパッチと呼ばれているものを複数付けている人のブログを見つけたらしい。
これは確かに助かる。でもそもそもみんなはサークルジャンパーって乗り気なのかな?
「孝子いないけど、今ちょうどいいからいい?」と宗則が話しはじめた。
宗則は大学の他のサークルみたいにおそろいのTシャツとかジャンパーみたいなのがあると楽しいだろうなとはずっと思っていたみたいで、ただどちらもバイクで走るとすぐボロボロになっちゃうから今イチと考えていたところ、私のベストに入れている刺繍と、あとそのデザインに感動して洋子ちゃんに刺繍パッチのデザインを頼んでいたと。で、トレーナーやパーカーに印刷する場合も想定した案で依頼をしたらしい。それでも私と孝子の分までは考えていなかったとか。
因みに、これは宗則だけでなくサークルの二代目メンバーの辺りから話だけは挙がっていたけど中々実現まで行かなかったみたい。
「ある程度お金かかっちゃうけど、みんなで共通で出来たらいいなぁと思うんだけど、どうかな?」と宗則。
「私は賛成!」「俺も賛成!」とユキとヒロシが即答。
「僕も賛成だけど、あまり高いとすぐには……」とトモくん。
「アタシので一点物で2〜3万だから、何人かで頼めばこの大きさなら1万は切ると思う」と補足。
「それなら大丈夫、みんなでこれ着てツーリングとか楽しそうです!」とトモくん。
「うん、概ね感触良くて嬉しいよ。洋子ちゃんのデザインが良かったのが大きいね」と宗則。照れる洋子、ドヤ顔のユキ。
「アタシと孝子に関しては、洋子の提案の小さいサイズでいいの?」
「うん、それはそれで楽しいと思うし、これからどんな人が入ってくるかわからないから色々対応しやすい方がいいと思う。あと、この小さい方でステッカーとかも作れたら夢が広がる」と宗則。
「そういうシール印刷とかなら割と当てがつきますよー」とユキの目が光る。
「そうしたら、私も小さいパッチがいいです」と洋子。
「うん、何につけるかも含めてそこは各自、自由にしたい。ヒロシとかは3シーズン着てるフライトジャケットとかでもいいだろうし、俺はバイクが古めだからスイングトップに縫い付けたいと思ってるし」「あと、孝子には俺から聞いとく」と宗則。
北海道で知り合った福原さんに影響されて、一人看板を作りたくなった私。
看板のデザインを頼んだ私の影響でバイクに乗るようになった洋子。
洋子のデザインを見て、サークルのロゴをデザインして欲しいと頼んだ宗則。
福原さん、私の周りバイクで繋がってってるよ、面白くなってるよ。
会いたいなー、どっかでひょっこり。
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