朝マック

 女子会の翌朝、夢見の悪い私は恒例の変な夢を見る。


 ユキを押し倒した姿勢で胸を掴む私。

「ちょっとキョウちゃん痛い」と抵抗するユキに無理やりキスする。

 私からキスしたのに、ユキの方から先に私の口の中に舌を入れてくる。上唇の裏側をそっとユキの舌が流れながら、噛み合わせの悪い隙間を探して歯をこじ開けてくる。気が付くといつの間にか私が下になって攻められている、しかも前の彼氏よりも断然巧いテクニシャン。ユキの舌に導かれるままに私の舌を絡ませる。するとユキの舌がいつの間にか大きなナメクジに変わっている。ざらついたナメクジが私の舌をどんどん奥へと這ってくる。あまりにもリアルな感触に一気に目が覚めた。

 反射的に起き上がる私。

「痛っ」という私の声と洋子の声がハモる。目の上あたりに星がちらつく。


「おはよう、キョウ」と隣で雑魚寝していたであろう洋子の声。

「ごめん、起こしちゃった? 私いつも夢見悪くて」と洋子に謝る。

「大丈夫、私も今起きたとこ、どんな夢みてたの?」と言う洋子に、未だに起きる様子のないユキを一瞥して「孝子に押し倒される夢」と答える私。

 それは抑えられた性衝動だよ、と笑う洋子。


「一服行ってくるね」と洋子に言ってベランダに出る。洋子も一緒に来てくれた。

 バイクと同じなんだけど、こういう一人時間前提の時、一緒に駄弁ってくれるのは嬉しい。タンデムみたいな感覚。

「タバコって美味しいの?」と聞く洋子に「吸ってみる?」と言って指に挟んだタバコを洋子に向ける。

「ん、」と言って洋子がそのまま口を尖らして私の手の中のタバコに口をつけて煙を吸い込む。

「ゲホッゲホッ」と少し涙を流しながら咳込み「無理ー」と言って指でバツをつくる洋子。

「彼氏とキスするときにタバコ臭いとか言われちゃうよ」という洋子に「そこまでヘビースモーカーじゃないよ、そもそも彼氏いないし」といつもと違う感じの女子トークが新鮮で楽しい。

「いや多分タバコ臭いよ」と洋子。

「そしたら喫煙者の彼氏選ぶことにするよ」と私。


「おーなーかー空いたー」と部屋からユキの声が聞こえる。洋子と顔を見合わせて思わず吹き出す。

 食材も乏しく、料理する気力も微妙だったので、二人と相談して朝マックでもしますかって流れになった。それに洋子を家に送らないとだしね。



「ハッシュドポテト美味しいよねー」と笑顔のユキ。ややぽっちゃり体系のユキが嬉しそうに頬張っているのを見るとすごくやさしい気持ちになれる。

「昨日、気が付いたら寝てたよー」と続けるユキに

「いつもユキはそんな感じだよ」と私。

「私も気づいたら寝てて」と洋子


「あ、洋子が大丈夫なら宗則に色々相談とかしながら飲み会とかすると参考になる意見聞けると思うんだけど、……但し前半だけ」とバイクの事しか頭にない私が提案。

「男子が宗則さんとヒロシさんとだけだとちょっと緊張するかもだけど、トモくんがいたら大丈夫かも」と洋子。

 これには恋愛脳のユキが黙っていないだろう。

「えー! トモくんと何かあったのー」間髪入れずユキ。

「トモくんとは何もないけど、哲子と何かあったよ」と洋子。……ノリコって誰?

「え? 哲子?」とユキ。間延びしない話し方出来たんだね。


 二人の話から、洋子とトモくんが話してるときにロリータ娘が偶然現れて、トモくんが洋子とバイクサークルで一緒なんですとアピールしてしまったと。

 あとトモくんは小動物っぽいので男子枠でないから気楽だ、とは洋子。


「実はトモくん、哲子に一目惚れしてたのよー。一応、ここだけの話にしといてね」とユキ。卒業して会えないしそもそも知り合ってもいないから諦めたと思ってたんだけど、また火が付いちゃったかなーと心配している。

「そういうことなら哲子のバイク嫌いについてトモくんに話した方がいいと思うんだけど」と洋子。

「前彼がバイク乗りだったからとは言いにくいでしょー」とユキ。ごもっとも。

 結局これ以上進展しないことを祈ろうということでまとまった。


 それにしても寒川神社のご利益恐るべし。

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