女子会

 本日の洋子のバイク下見会。

 最後にバイクショップでヘルメットやウェアーを物色して現地解散となった。


 うちでお酒でも飲もうかって話も上がったんだけど、ヒロシはバイトがあるのでパスと、それを聞いて宗則も用事があるからパスと言っていたけど、実際は洋子がまだ男子免疫力が低いと気づいて気を遣ってくれたのかもしれない。

 宗則はオープンな性格で、いつもはどんな用事かを話すことが多いのに、今日は用事としか言っていなかった。


 その後、ユキと帰り方向が同じだったのもあって信号待ちの度にちょこちょこと話をしている内に盛り上がってきて、洋子とユキとで女子会開催の運びとなった。

 その足でコンビニに寄って、女子会らしくスイーツやスナック菓子と甘めなサワーを買っていく。

 もしお酒が足りなくなったら、飲み会毎に我が家に増えていく残酒を消費していけばいい。


 家に着いたら早速お酒を開ける。同時にパソコンを立ち上げて大手中古バイク販売サイトで今日見に行ったお店の在庫を確認する。宗則がいたら大体は会話だけで車種が特定出来るのだけど、私たちだけでそれは無理なので画面を見ながら洋子がピンときた車種を見直す。


「わー!」先程からポテチの袋と格闘していたユキが、力を入れ過ぎてポテチを撒き散らした声。

「ちょっ、神奈川3秒ルール!」と言って急いでみんなで拾う。


 ポテチを拾い終わり、洋子の気になったバイクを探していく。今回二軒目に行ったショップの方が気になったバイクが多かったようなので、そちらのお店の在庫を排気量で並べ替えソートする。もちろん250~400cc辺りしか見ていないのでさらに検索条件を絞り込む。横から洋子が真剣に画面を覗き込む。急に顔が近づいた洋子の体温が感じられたような気がして、こちらのほっぺたも少しだけ熱くなった。だけどすぐにお酒が回ってきただけかと気付く。


 洋子がピンと来たのは、スズキST250・ホンダCB223S・カワサキエストレヤ・同じくカワサキ250TRの4車種。SRも気になったらしいけど、今更個性が出せる気がしないと芸術家のようなコメント。まぁそれでもプロは仕上げてくるんだろうけど。何より400は車検もあるからね、ニーハンで良いならその方がカスタムはし易い。


「見事にヤマハがないねー。ヒロシ悲しむね、あとトモくんもー」とユキ。

「みんなのバイクってメーカー違うの?」との洋子の問いに、私はカワサキ、ユキがスズキ、孝子は外車、宗則がホンダで、ヒロシとトモくんがヤマハだと教えてあげる。

「あと、これは都市伝説みたいなもんだけど、ホンダは壊れにくいとかカワサキは何かしら汁漏れがあるとか、まぁ半分笑い話だけどね」と付け加えた。

「スズキは?」

「感染する」


「とりあえず、今のところエストレヤっていうのか、250TRっていうのがいいかも」と洋子。ホンダのは高いので、差額分をヘルメットとかに回せそうなのと、バイクショップの在庫もエストレヤと250TRは豊富だった点が決め手だった。今日見た二軒だけでも2~3台はあった。

 そして気にしてないフリをしていたけど、カワサキ車を選んでくれたのはちょっと嬉しい! 顔がにやける。私もご多分に漏れずバイク馬鹿だ。


 ここから先、宗則の知識の引き出しがあると洋子のバイク選びはもっと楽しくなると思うんだけど……。

「ねぇ、洋子」

「は、はひっ」改めて呼びかけたのでびっくりしたみたい。あと結構お酒も回ってるっぽい。

「やっぱりまだ宗則やヒロシとかと一緒にみんなでお酒飲みながらバイク談議ってのはハードル高そう?」

「うーん……」私の問いに少し前向きに考えている様子。

「やっぱ久地さんの、いや、宗則さんのアドバイスは正直欲しいかも」と洋子にも私の意図が伝わったみたい。

「ていうかー、洋子たん男子が苦手なんじゃなくて女子が好きなだけでしょー」と、既にちゃんがちゃんと言えないくらい飲んでいるユキがサラッと爆弾を投下した。

「え?」私。

「え?」ユキ。

「わーっユキちゃん!」タコみたいに赤くなった洋子。


「だって、創作の会誌でも……」というユキにガンガン被せていく洋子。

「ち、違くて! そうじゃなくて! アレは手段の表現の一つが方法で……」

 私のターンはいつまでも来なさそう。

 二人の会話の収拾がつくまで本でも読んで待とう。私の看板のデザインができる人を探しているときにユキが参考に貸してくれた、まさにその会誌が手元にある。パラ見したら中の漫画や小説はほとんどがボーイズラブだったので、洋子が担当してる表紙しか見ていなかったけど。二人が白熱している間に会誌を手に取ってペラペラと……。

「わーっキョウ! 何っ? なんで持ってるのっ!」と洋子に横取りされた。


「ダメ―」と言って会誌を抱きかかえうつ伏せになってガッチリガードしたまま洋子は寝落ちしてしまった。

 ユキも寝落ちしている。爆弾投下時に既にかなり酔ってたしなぁ。

 洋子が読んで欲しくないと言っていたものをこっそり読むのはさすがに気が引ける。


 二人に毛布を掛けた後、ネットでエストレヤと250TRベースのカフェレーサーや改造パーツを調べて睡魔の訪れを待つことにした。

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