茅ヶ崎へ
ユキ・洋子・私・宗則・ヒロシの五人で茅ヶ崎にある大型バイクショップに下見に行くことになった。
土曜日だけど、便宜上学校の駐輪場で待ち合わせ。私が到着したときには、既にユキとヒロシがいた。キャンプグッズかツーリングの話でもしているのだろうなぁ、またはユキが一方的にアニメの話をしているか。
バイクを停めて二人に軽く手を上げて部室に向かう。二人が近くにいるので自分のヘルメットはバイクのミラーにかけていてもいいだろう。
バイク部の部室にはいざと言う時にみんなが使える共用ジェットヘルメットが置いてある。まだ洋子がヘルメットを持っていないので、今日は私が借りる。
ヘルメットを取って駐輪場に戻る途中、CBの排気音が聞こえた。正門を出て駐輪場の方を見ると洋子の姿もある。少し小走りで向かい、お待たせと言って合流し私のヘルメットを洋子に渡した。
「あ、私そっちでいいよ」と言う洋子に、万が一事故の時にタンデム席の方がリスクが高いことを説明して、後ろに乗る側がフルフェイスの方がいいってことを納得してもらう。
教習所で貸してくれるヘルメットがワンタッチ式だったのか、顎紐の締め方に手こずっていたので、顎を軽く持ち上げてやってやる。
「あ、ありがとう」と言って顔を赤らめる洋子がかわいい。
宗則先頭で私、ユキ、ヒロシの隊列で出発する。
「シンプソンは顎紐長いんだよねー」と、顎紐のちゃんとした締め方を知らずに短く切ってしまう人がいる話や、七曲でコソ練した話なんかをバイクショップまでの道中、信号待ちで止まるたびに大声で洋子に話しかける。カップルでインカムをつけてツーリングしているのをよく見かけるけど、確かに楽しいだろうなと思った。
加速や減速の度にタンデムが初めての洋子のヘルメットが私のヘルメットに軽く当たり「コツッ」と音が響く。幼少期に父のバイクの後ろに乗っていた頃もそうだったなと思い出す。その時は後ろに乗っていたバイクを今は私が運転している。
今日の目的地のバイクショップに到着した。大手チェーンの大型店舗が二店舗並ぶ好立地。
今までずっとフルフェイスだったので、これはこれで快適なジェッペルを脱ぐ。外すのは手間取らずに洋子もヘルメットを脱いで「ぷはっ」と一言。
「臭い大丈夫だった?」と聞くと
「大丈夫だったよ、キョウの匂いがした」と洋子。えっ、じゃあダメじゃん。
「あー、何となくわかるけど、違うんだよ。案外どのメットも以外と同じ系統の臭いになるんだよね」と横でヘルメットを脱いだばかりの宗則が言う。
曰く、最初は自分のヘルメットの臭いだと思ってても、中古でヘルメットを買った時も同じ臭いがする事が多いって。結局、余程臭くない場合、ヘルメット共通の臭いってのがあるとか。
「あんた何個メット持ってるのよ」と聞くと「4つかなぁ」と。頭は一つなのにね。
だけど私もちょっとジェッペルは欲しくなった。顎部分のあるなしでこんなに快適さが変わるとはね。
お店には悪いが、まずはバイクを停めたバイクショップの隣のお店に入って気になるバイクを何台か跨がらしてもらった。
車体の重さや足つき性を洋子が確認する。
そして、みんな今乗っている自分のバイクに不満がある訳じゃないんだけど、やっぱり他のバイクは気になる。ユキは650ccクラスの他のツアラーをマジマジと見てるし、ヒロシはヤマハの大型ツアラーに跨ってみている。宗則は宗則で古めの大型車が気になる様子だ。
洋子はこちらではピンとくるバイクに出会えなかった様子。
最初にバイクを停めたお店に入り、また何台か物色する。
色々見た後、店外にある自動販売機コーナーで暖かい飲み物でも飲みながら一服したいと提案した。タンデム移動にバイクショップハシゴ、多分そろそろ洋子が疲れている筈だ。そして宗則やヒロシにその気遣いは期待できない。
……いや、私がニコチン補給したいのが本音か。
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