1月3週目 後編2
「なんですか先輩?連れてきたいところがあるって先輩の部屋じゃないですか!特別なところに連れて行ってくれると思っていたのに……」
ブーブーと文句を垂れる千咲。
「それはすまない……」
「まあ、別に……私は先輩のお家でも全然大丈夫なんですけど。それで、一体どうしたんですか?あんなに改まっちゃって」
「それもあるんだが……その前に……」
そう言ってガサガサと、クローゼットのなかを探す。
「ん?なんですかいきなり?」
千咲が不思議そうな表情を浮かべて聞いてくる。
「ちょっと待っててくれ……あったあった……」
目当てのものをみつけて引っ張り出してくる。
「これ。チケットだけってのも味気ないかと思って」
そう言って用意してあったプレゼントを渡す。
「えっ!?そんな、チケットだけでも十分でしたよ!」
遠慮がちにそういう千咲の手に少し強引に持たせる。
「まあ、そうかもしれないがもらってくれ。俺が持っていても仕方ないしな」
「まあ、そこまで言うならありがたくいただいておきますね。開けてもいいですか?」
「ああ」
短く返事をすると嬉しそうな表情を浮かべながら包装紙を開く。そこには以前、西野に相談していたハンドクリームとタオルのセットが入っていた。
「わぁ!こんなにいいものもらってもいいんですか!?」
「そんなに良いものなのか?すまんな、そういうのには疎いからネットで人気って書いてあったものを買ってきただけなんだが」
「はい!少し贅沢なので普段は使わないブランドのものなんです」
どうやらそれなりに有名なお店のものだったようでキラキラとした瞳をこちらに向けてくる。
「そうか、それならよかったよ」
「はい!今日のデートもですけどとっても嬉しいです!」
どうやら本当に嬉しかったらしく、大事そうに抱える千咲。
その様子を見て、やっぱり今日千咲にあのことを伝えよう……そう決意した俺は、重い口を開く。
「あのさ……プレゼント以外で話したいことがあるんだ……」
そう言うと千咲は俺の目に視線を移し柔らかい笑顔を見せてくる。
「はい。なんですか?」
「お、俺さ……」
その目に急かされるままに伝えようとする。
「す」
一文字目が出かかった時
「や、やっぱり、ちょっと待ってください!」
急に千咲が割って入る。
「な、なんだよ……?」
喉まで出かかっていた言葉を飲み込み聞き返す。
すると、千咲も先ほどの笑顔から一転して真剣な顔になる。
「私も先輩に伝えたいことがあるので先によろしいですか?」
「ま、まあ。別にかまわんが……」
少し不審に思いながら返事する。
「そうですか。それでは遠慮なく」
「「…………」」
千咲はそう言うとたっぷりと間をおいて。
「先輩……私が以前言っていた”ホントの理由”って覚えていますか?」
と、そんなことを切り出してきた。その言葉を聞き確かにこの生活の約束事を決めたときに言われていたことを思い出す。
そしてそれと同時に千咲が言おうとしていることを理解する。
「ちょ!お前こそちょっと待ってくれ!」
それは俺から伝えたいと思っていたため、慌てて止めようとするももう手遅れ。
「嫌です!待ちません!先輩にフラれるくらいならせめて告白ぐらいさせてください」
「落ち着けって!なにか勘違いしていないか?」
なにか壮大な勘違いをしている様子の千咲をなんとかなだめようと試みるもこれも失敗に終わる。
「勘違いなんかしてません!私は……私は先輩のことが好きなんです!お願いします!お付き合いしてください!」
それを聞いた俺は、言われてしまったことと千咲が俺のこと好きだったいう喜びから……様々な感情が混ざり合って頭が混乱してしまい、固まってしまっていた。
そしてその間に
「あの……お返事はまた今度でいいので直接聞かせてください!あ、プレゼントありがとうございました!」
瞳に涙をためた千咲はそう言い残すとペコリとお辞儀し、ドタバタと帰っていくのだった。
その後、手に僅かな振動を感じ我に返った俺は慌てて千咲を追いかけるがそこにはもう姿はなかった。
そして、そんな俺の心に追い打ちをかけるように、手の中にあるスマホがとある連絡先を表示し振動し続けていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます