1月3週目 後編1

あれから2日が経過し土曜日、千咲の誕生日当日を迎えていた。




水族館の最寄り駅にから水族館に向かって歩いていると千咲が話し始める。




「改めて今日はありがとうございます。先週は誕生日プレゼントはいらないって言ってましたけど実際に祝ってもらえるとやっぱりうれしいです!」


ペコリとこちらに頭を下げ、上機嫌な笑顔を見せてくる。




その笑顔に少し照れてしまい


「……そ、それならよかった。」


少したじろいてしまう。




「どうしたんですか先輩?」


俺の行動に違和感を感じた様子の千咲は俺の顔をのぞき込んでくる。




「い、いや……なんでもないから気にするな……」


まだ先ほどのダメージから回復できていなかった俺は、またもやうまく答えることができなかった。




「そうですか。変な先輩」




そう言われていつもの状態に戻る。


「変ってなぁ……」




それは千咲も感じていたようで


「あ、いつも通りの先輩に戻りましたね!」


とそんなことを言われてしまい、それに対して反論しようと口を開いた途端、目の前に目的地である水族館が現れた。




それにいち早く気が付いた千咲は


「お!着きましたね!今日は目いっぱい楽しみましょう!」


こちらを振り向きながら、ニコニコした顔を見せてきたのだった。




☆☆☆




プレゼントのチケットで入館するとすぐ目の前に現れたのは大きなイルカのオブジェと館内マップだった。


マップを見ながら、どこから見てまわるか考える。




「どうするか……千咲はなにからみていきたい?」




「うーん。そうですねー。イルカショーが見たいんですけどまだ早すぎますよね?」




そう言われてパンフレットを見ると、時間に余裕がありそうだった。


「ああ、そうだな……それじゃあ、時間になるまで本館を見て回ろうか」




「そうですね!賛成です!そうと決まれば早速向かいましょう!」


そう言って張り切った様子で歩き始めた千咲の後を俺は追いかけるのだった。






「おー!すごく綺麗!」


水族館の中を歩きながら歓声を上げる千咲の姿を眺めながら見て回る。




(この笑顔を見ることができただけで勇気を出して誘ってよかった)


そんなことを考えてしまった俺は、惚れたほうが負けという人の気持ちが少し理解できたのだった。




そんなことを考えていいると目の前に手を振られる。


その手で我に返る。どうやら千咲に話しかけられていたようだ。




「ああ、すまん。なんだ?」




「やっぱり聞いてなかった!」


そう言うとそっぽを向かれてしまう。




千咲に見とれていたなんて正直に答えられるわけもなく、あまり見かけない行動に動揺してしまいどうしていいかわからなくなってしまう。


「すまないって……機嫌直してくれよ」


そう言うと千咲はなぜか手を差し出してくる。




その行動の意味が理解できず小首をかしげているといきなり手を取られる。




「分かってましたけど、先輩はそういうところ直したほうがいいと思います!」


少し怒ったような表情を浮かべながら手をつながれた俺は、引きずられるようにして館内をまわるのだった。






そんなことをしているうちにイルカショーの時間になっていたようで、


「お、もうそろそろ時間みたいだぞ」


「本当ですね!それじゃあ行きましょうか!」


もちろん手はつないだままである。嬉しい気持ちもあるが少し気恥ずかしさを感じて、何度か手を放そうとしたがその度に「私まだ無視されたこと許してませんから!」と怒られてしまい放すことをできないでいた。




「イルカショー見るの久しぶりなのですごく楽しみですー!」


すっかりテンションが上がってしまった様子の千咲に連れられて会場に向かうのだった。




☆☆☆




あれから数時間後、日も傾きかけたころ、俺と千咲は水族館から帰っていた。




そして、その間に俺はとある”決意”をしていた。




「あー!楽しかったー!ほんとに今日はありがとうございました。おかげ様でとってもいい誕生日になりました」




「それならよかった……それで……」


言いたいことは大したことではないが、その後つたえるであろう”決意”を意識してしまい、喉まで出かかっている言葉がうまく口から出てこない。




「ん?どうかしましたか先輩?」


俺の異変に気が付いたのか少し心配したような表情になる千咲。




「それで……こ、この後って時間あるか?」




「どうしたんですか急に?まあ時間ならありますけど……」




その言葉を聞き安心した俺は思い切って言う。


「それならよかった……それで……一緒に行きたいところがあるからついてきてくれないか?」




それを聞いてなにを感じたのか、少し顔を赤らめた千咲は


「……はい……」


と短く返事をしてくるのだった。

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