1月3週目 中編

西野に相談した2日後の水曜日。俺は素早く仕事を終わらせると自宅へと急いでいた。




万が一千咲が早く仕事が終わっても大丈夫なように自宅近くのコンビニにチケットを届けてもらうように手配していたのである。




スマホで千咲からメッセージが来ていないことを確認する


「よし、まだ仕事は終わってはないみたいだな」




ホッと胸をなでおろし、無事チケットを受け取る。




受け取ったチケットを見ながら、千咲が喜ぶ姿を想像しながら思わず二ヤけてしまう。


すれ違った人が何事かとこちらを見てきたのだが、そんなことは全く気にせずそのまま家に帰るのだった。




☆☆☆




風呂からあがりしばらくボーっとしているとドアの向こうからコツコツコツと少し慌てたような足音が聞こえてきた。




そのままガチャリと扉が開くと予想通りの人物が入ってくる。


「あー、疲れたー。すみません、なかなか仕事が終わらなくって……」




「こっちこそすまん、先に準備とかしておけばよかったな」




「いえいえ!気にしないでください!私がしたくてしてることですから!」




「そうか。何かできることがあればやっておくから遅くなりそうだったら遠慮なく連絡してきてくれ」




「はい、今度からはお願いします!じゃ、すぐに作っちゃうので先輩はちょっと待っててくださいね」


そう言うと腕まくりをし料理に取り掛かる。




30分ほど待っていると


「できましたー!持って行きますね」


ひょこっとこちらを覗きこみながら、千咲が言ってくる。




「おう、了解だ。手伝おうか?」




「いえ!私だけで大丈夫です!」


そう言うと千咲が運んできたものは海鮮丼とお吸い物だった。




「温泉旅行で食べたお刺身が美味しくて思わず作っちゃいました」


千咲がニコニコしながら器を置く。




「確かにあれはうまかった」




「ですよねー!なので今日は奮発して普段よりも良いお魚を買っちゃいました!それじゃあ早速いただきましょう!」




「そうだな」




「「いただきます」」




「んー!やっぱりおいしいです!」


目を大きく見開きながら心底おいしそうな表情を浮かべる。




「ああ、うまいな。魚好きなのか?」




「そうですねー。お肉も好きですけど、お魚も好きです!」




「じゃ、じゃあ見るのはどうだ?魚とかを」


少し話題の転換が強引なようにも感じたが、これで嫌いだと言われたら予定を変更しなくてはいけない。




確認の意味も込めてそう問いかけると


「私動物全般好きなので見るのも好きですよー!」


西野からの情報通りだったことに少し安心した俺は意を決して口を開く。




チケットをおずおずと差し出し


「ちょっと早いけど……これ誕生日プレゼントだ……誕生日当日よかったら……一緒に行ってくれないか?」


そう言ってハッ気が付く。もしかしたら、もうすでに先約があるかもしれない。


「あ、いや……やっぱり当日じゃなくても大丈夫だ。行ける日で」


そんなことあれこれと考えてしまった俺は、自信のなさから少しずつ声が小さくなっていく。




しかしそんな言葉を遮るように千咲が口を開く。


「行きましょう!誕生日に先輩と過ごせるなんて嬉しいです!」


そのまま手を握りられと上目遣いでこちらを見つめてくる。




「そ、そうか……それなら土曜日に行こう」


思った以上の食いつきに俺の方がたじろいてしまう。




千咲自身も自分のとった行動に照れてしまったようで、顔を赤くしながら握った手を放すと少しうつむき気味になる。


「……勢いでそんなこと言っちゃいましたけど、どこに行くんですか?開けてもいいですか?」




「ああ」




そう答えると丁寧な手つきで、ゆっくりと包装を開ける。


そして中のチケットをみてキラキラした目でこちらを見つめる。




「最近できた水族館だ!私ここ行ってみたかったんですよー!ありがとうございます!」




どうやら好評だったようで胸をなでおろす。


「喜んでもらえたようで良かったよ」




「はい!すごくうれしいです!ていうか、なんの理由もなしに先輩がデートに誘ってくれるのって初めてじゃないですか?」




言われて気が付く、確かにそうかもしれない。いままでは何かのお詫びだったり、なし崩し的に出かけていたが今回はそうではない。千咲とデートするためだけにチケットを用意して誘ったのだ。




俺はその事実に気が付くと、少し関係が進展したと感じ胸が温かくなるのだった。

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