1月4週目 前編
千咲から告白された翌日。俺は西野とともに関西の支社へと向かう新幹線に乗り込んでいた。あの後会社から呼び出しがかかり急遽出張を命じられたのである。
早急に千咲の誤解を解きたいのはやまやまなのだが、”直接返事して欲しい”と言った手前か、メッセージの返事は一向に返ってこない。
そんなことは想定していなかった俺は返事を一晩中待ってしまい、その影響で昨夜は一睡もできずにいた。
最低限、俺が今週は関西にいて週末まで会社に戻れないことくらいは伝えたいのだが……
告白された部分は伏せて、そのことを西野に相談すると
「なんや、喧嘩でもしたんか?」
とニヤニヤとしながら茶化されてしまう。
「うっせ。そんなんじゃねぇよ……」
まだ喧嘩の方がマシな状態であることは伝えられない。
「で?そのことを話したってことは、俺の彼女経由で森田さんにこのことを伝えればいいんか?」
「ああ。すまんが頼む……」
こういうところは気が使えるから、こいつとの縁は切れないのだろう……そう思いながら頭を下げる。
「了解!でも災難やなぁ……森田さんと連絡が取れない時に限って1週間の出張やもんな……」
「ほんとだよ、タイミングが悪すぎる……はぁ……」
そう言われていろいろなことを考えてしまう。もう二度と話せなかったらどうしよう……愛想をつかされてしまったらだどうしよう……寝不足の頭でぐるぐると考えていると肩に手を置かれる。
「おい、大丈夫か」
横を向くと心配そうな表情をする西野がいる。
「ああ、すまん。ちょっと考え込んでた……」
「あんまり無理すんなよ」
「多少は無理もするさ、事態が急を要するんだから」
「それもそうか……まさか関東圏の俺達にまで声がかかるとはな……」
「そうだな……まさかあっちの問題に巻き込まれるとは思っていなかったよ」
そんな愚痴をこぼしていると連絡を取ってくれていた西野がこちらを向く。
「おっ!森田さんと連絡取れて無事伝えられたってさ。あ、それと千咲のことは任せてだってよ」
「そうか……それならよかった」
西野のその言葉を聞きホッと胸をなでおろした俺は、やっと安心することができ眠りにつくのだった。
☆☆☆
あれから数日が経過した。
俺たちは近くにあった居酒屋で食事をしている。
「やっと明日で帰れるな」
西野が口を開く。
「ああ。明日はできるだけ早く帰って誤解を解かなくては……」
「なんだ?まだ森田さんから連絡返ってきてないのか?」
西野が小首をかしげながら聞いてくる。
「まあな……1日1回は連絡してるんだが、まったく反応がない」
「それは、相当ご立腹なんだろうな」
「そうだよなぁ……でも、なにかした憶えがないんだよ」
「うーん。じゃあそれが問題だったとかは?」
「それがってどういうことだ?」
解決の糸口が見つかるかもしれないと感じた俺は西野の話に耳を傾ける。
「いや、だから。折角の誕生日デートなのにお前普段と変わらなかったんじゃないのか?」
「えっ!普段通りじゃダメなのか」
「ダメってわけじゃないが……わざわざ誕生日に予定空けといてくれたってことは、森田さんもなにかしら普段と違うことをお前に期待してたんじゃないのか?」
そう言われて思い返すとあることに気が付く。
確かに最近あまりなかった、手を繋ぐなどの普段とは違う姿を見せていたではないか。
「……その顔はなにかあったってことやな?」
図星を突かれてしまい、俺は頷くことしかできない。
「じゃあ、原因に心当たりはあるってことか?」
「そうだな……お前の言う通り俺が何もしなかったことが原因のような気がする」
「そうか……まあ、森田さんからしたらなにかあるかもと期待して行ったのに普段通りじゃ、自分のことを異性として好きじゃないと思ってしまうのも仕方ないわな」
「そうか……」
西野のおかげでやっと千咲の気持ちの一部でも理解できたような気がした俺は
「よし……帰ったらすぐに謝ろう」
そう決意するのだった。
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