11月4週目 後編

翌日。俺はマンションの前で千咲が来るのを待っていた。




なんだか最近、あいつとよく出かけている気がする……




今日は一人で出かけたかったがまぁ仕方がない……来月こそは絶対にひとりで行くぞ……


そんなことを考えていると、カツカツとヒールを鳴らしながら慌てた様子で千咲が出てくる。




「すみません!お待たせしましましたか?」


勢いよく頭を下げ、チラリと上目づかいでこちらを見てくる。




「いや。そもそも遅れてないから気にしなくて大丈夫だぞ」




「そうですか。それならよかったです!」


そう言うとフワリと笑う。




今日の千咲の格好は、ピンクダッフルコートに白ニットワンピースで、その表情と格好が相まって普段よりも可愛らしく見えてしまった。




俺はそんなことを考えていることを悟られてはいけないと感じ、目をそらして歩きはじめる。


「お、おう……それじゃあ行くか」




「はい!で?今日行くところはどのあたりなんですか?」




「ああ、ここから10分ほど歩いたところにあるんだが大丈夫か……そんな靴で来てもらったところ悪いが」




「えへへ。先輩もそんなこと言ってくれるんですねー!でも大丈夫です!私慣れてるんで」




その少し照れながら笑う表情を見て、不覚にも心動かされてしまい


「っ!そ、そうか……それならよかったよ」


うまく返答できなかった。




しかし千咲には、俺の内心は感づかれていなかったようで


「はい!じゃ、さっそく行きましょう!案内お願いしますねー」


そう返事されひそかに胸をなでおろすのだった。




☆☆☆




少し入り組んだ場所のようで、スマホとにらめっこしながらしばらく歩くと、周りが木々に囲まれた落ち着いた雰囲気を持つカフェが見えてきた。




「おっ。ここだな」




「おー!とってもおしゃれですね。先輩は来たことあるんですかー?」




「最近オープンしたみたいで、俺も来るのは初めてだ」




「なるほどー!お目当ての限定メニューあるといいですね!」




「そうだな、どんな料理が出てくるか楽しみだ」




「そうですね!私も楽しみです!」




扉を開くと心地よいベルの音色が鳴り響く。


”カランカラン”




店に入ると店員さんが近づいてくる




「いらっしゃいませ!2名様でよろしいてしょうか?」




「はい!」


千咲が答える。




「かしこまりました。お好きな席にお座りください」




「どこでもいいんですって先輩!私あそこがいいです!」


そう言って千咲が指さしたのは店の奥の窓際の席。特に席にこだわりはないので首肯する。




席に座ると店員さんがメニュー表をもってくる


「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください」


そう言い残し席を後にする店員さん。




「さーて、限定メニューはありますかねー?」




千咲がメニュー表を開くと、中には色とりどりのペンで書かれた料理が並んでいた。




「おー!たくさんありますねー」


ペラペラとページをめくりながら眺めていると大きく”カップル限定メニュー”と書かれたページが現れる。


 「あっ!限定メニューありましたよ先輩!」




「”売り切れ”ってなってないってことはあるみたいだな。少し早めに来てよかった。どうやら内容は秘密らしいから最初にこれを頼んで腹の空き具合で追加で頼むっていう感じでどうだ?」




「いいですね、賛成です!それじゃあ、私が頼みますねー」




「おお。頼む」




ピンポーン!




呼び鈴を鳴らすと店員さんがバックヤードから出てくる




「注文お決まりになられましたか?」




「はい!この限定メニューをお願いします!」




「はい、かしこまりました。カップル限定メニューですね。少々お待ちください」




注文を終えしばらくすると店員さんが、お盆の上になにやら大きな容器をもって現れた。




「カップル限定メニューになります。ごゆっくりお楽しみください」


そう言って店員さんが置いたのは、巨大なパフェ。




クリームとキウイ、バナナ、オレンジ、パイナップルなどをふんだんに使ったフルーツパフェである。




正直なところご飯系が来ると考えていた俺は肩透かしをくらったような感覚になったが、千咲は違うようで


「おー!すごい!こんなの初めてです!」


とパシャパシャと嬉しそうに写真を撮っていた。




一通り写真を撮り終えると


「それじゃ、さっそく食べましょうか!」


とスプーンを取り一口分掬って食べる




「んー!おいしいですよ先輩!食べないんですかー?」


俺が食べ始めないのを不思議に思ったのか小首をかしげてて聞いてくる千咲。




するとなにかに気が付いたのか、手をたたき


「あっ!そういうことか!おかゆの時みたいに私に食べさせてもらいたいんですね!」


と斜め上のことを言ってくる。




このままいけばあの時のように強引に食べさせられかねないと思った俺は


「いや、いい。自分で食べるから」


とサッとスプーンを取り。




千咲の表情が一瞬曇った気がしたがそれ以上にパフェに使われているクリームに驚く。




「んっ!これ……すごく食べやすい」




「そうですよねー!このクリーム甘すぎなくてとってもおいしいんです!それと、これもおいしいですよ!」


そう言いこちらにスプーンをズイッと差し出してくる。




「いや……自分で食べれるから」


断ろうとするも千咲は折れない。




「食べてください!はい、あーん」


めげずにスプーンを差し出してくる。




その声が思っていた以上に周りに聞こえていたのか、他のお客さんが俺たちのことをみてひそひそと話している。


大方、女の子にあんなことさせておいて男の方は何やってるんだ……みたいなところだろう。




そんな視線に耐えかねた俺は


「今回だけだからな……」


そう言い、千咲のスプーンに乗ったキウイを食べる。




すると周りからの視線は消え、その代わり目の前には満面の笑みを浮かべた千咲がいた。




「んふふふ(先輩が食べてくれた……これで合法的に間接キスができる……)」




気持ちの悪い笑いをしながら体をくねらせる千咲。




「な、なんだよ。その笑い方……ちょっと気持ち悪いんだが」




「んー!なんでそんなこと言うんですか!気持ち悪くなんてないし」




「いや……まぁ、お前がそれでいいならいいが……」


そんなことを言いながら食べていく。




ほど良い甘さを感じながら黙々と食べ進めていくと、あっという間に間食していた。




「おいしかったですねー!先輩!」




「ああ、そうだな。胃にもたれるかと思っていたが想像以上に食が進んだな」




「そうですねー!あーお腹いっぱいです!先輩はどうですか?」




「俺もだ……今日は昼飯は無しにして、口直しにコーヒーを頼むつもりだが千咲はどうだ?」




「じゃあ私もそうします!」


店員さんを呼びコーヒーを注文する。




そうして出されたコーヒーはパフェを食べていた影響か普段よりも苦く感じた。

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