プロローグ7
ピピピピ!ピピピピ!
スマホのアラームが鳴り響く。
時刻は8時半、普段昼過ぎに起きる俺にとってこの時間の起床は苦行でしかない。
しかし今日だけは二度寝するわけにはいかない。
もぞもぞと布団からぬけだし準備を始める。
簡単に朝食をすますと、顔を洗いひげをそる。
軽く髪を整えるえて完成。
時計を見ると時刻は9時半。10時に最寄り駅に集合なのでそろそろ家を出ることにする。
「はぁ……異性と二人きりででかけるなんていつぶりだ?
まさか久しぶりの外出がこんな形になるなんて……はぁ、憂鬱だ……」
そんなことを呟きながらこれから起こるであろう面倒ごとを想像してため息をつくのだった。
☆☆☆
5分ほど歩くと目的地の駅前に到着する。
少し早く来すぎたな…そんなことを考えながら、ふと集合場所の噴水に目をやるともうすでに彼女の姿があった。
(ん?まだ集合時間の20分前なんだが……何時からいるんだ?)
森田さんの行動に違和感を感じながらも慌てて彼女の元へ向かう。
背後からだんだん近づくにつれて見えてきた彼女の格好は茶色のオフショルダーニットに黒のワイドパンツといったシンプルながら彼女の魅力を存分に引き出されたものだった。
(ん?俺から金を巻き上げるだけだってのになんだか気合入ってないか)
と不審に思いながら声をかける。
「遅れてすまない。待ったか?」
すると森田さんは、満面の笑みでこちらに振り向いてくる。
「あ、こんにちは先輩!いえいえ全然大丈夫です!待ってませんよ」
そう言いつつずいっと顔を近づけてくる。
(近いな……)
そう思い一歩下がると彼女も同じように一歩距離を詰めてくる。
そんなやり取りが数秒続き居心地の悪い沈黙が流れる。
「「…………」」
そんなやり取りにしびれを切らしたのか少し怒り気味に噛みついてくる森田さん。
「なんなんですか先輩!私に近づかれるのがそんなに嫌なんですか!?」
(あれ?森田さんってこんなグイグイくるタイプだったのか……?)
今までの印象からは考えにくい行動に少し戸惑いながらも、こちらは弱みを握られている以上機嫌をそこねるわけにはいかないと判断して距離を置くことをやめる。
「わ、わかったわかった。わかったから、そんなに怒らないでくれ」
「わかればいいんですよわかれば!それじゃあ映画館に行きましょう!」
途端に機嫌を直した森田さんはずんずんと歩き出すのだった。
しばらく歩くと映画館が最上階に含ませる大型のショッピングセンターが見えてくる。
「ここだな。ところで森田さん。一番早い上映時間に間に合うようにこの時間にしたが大丈夫だったか?」
とこれからの予定を決めようと質問すると、なぜだか森田さんは頬を膨らませて不機嫌アピールをしてきた。
なににそんなに腹を立てているのか不審に思い小首をかしげているといると、森田さんがおもむろに口を開く。
「なんで私のこと森・田・さ・ん・なんて他人行事に呼ぶんですか!?飲み会のときに二人きりのときは千咲って呼んでくれるって約束しましたよね!」
と全く記憶にない約束を持ち出してくる。
(またこの後輩は……何言ってるんだか。俺がそんな約束するわけないだろう……いやしかし……あの日の記憶はまったくないぞ……これは本当に約束したのか?いやでも……)
そんなことを頭の中でぐるぐると考えているとそんな俺をみて不安に思ったのか
「あ、あの……ほんとに覚えてないんですか……?」
とうるうるとした目で見つめてくる。
いくら女性の扱いに慣れていない俺でも、ここで従わないという選択肢はないことは分かる。
「……ち、千咲……さん」
女性の名前を呼んだことなどほとんど経験のない俺にとってこの行動はかなり照れくさく自分の顔が紅潮していく感覚を覚える。
すると、さきほどの表情は嘘のように晴れ満面の笑みを浮かべる。
「さんは余計ですよさんは!ま、名前呼びだったので今回は許してあげます!
そして、なにかを思い出したような顔になると
「あ、それと今言ってた名前呼びの約束ですけどほんとはしてないんですよね〜。まあでもこれからも名前で呼んでくださいね!じゃないと例の写真ばらまいちゃいますから!」
と衝撃的な事実を伝えるとともに名前呼びの強制をしてきた。
「ほんと、なんなんだお前…」
そんな会話を交わしながらモール内を歩いていくと”MOVIE THEATRE”と書かれた看板が見えてきた
「あ!つきましたよ先輩!」
と楽しそうな表情を浮かべ俺の手を引いて走り出す千咲。
「あっ!これですこれです!早速チケット買いに行きましょう!」
「そうだな、そろそろ時間だし買いに行こうか」
そんなことを言いながら映画館に入っていくのだった。
☆☆☆
「あー。おもしろかったですね先輩!」
エンドロールが終わり場内が明るくなると千咲が話しかけてくる。
「ああ、そうだな。現実に起きた事件を少し改変して作られていたみたいでリアリティがあっておもしろかったな」
「えっ!この事件って実際に起こったことなんですか?」
「ああ。たしか30年くらい前に起きた事件が題材だったはず……」
そういってスマホを操作して事件の概要をまとめたサイトを探そうとしたとき、横から控えめなネイルの施された手がのびてきた。
「はいはい!詳しい話はお昼ご飯を食べながら話しませんか?私予約しておいたんです!」
と言い俺の手を取り歩き出す。
「ちょ……なんで手を握るんだよ……」
「いいじゃないですかー!だってこれはデートですよね?」
「そうだが……そうではない……」
「なにブツブツ言ってるんですか?ほらさっさと行きますよ!」
そうして無理やり手をつないだ状態で映画館を出て少し歩くと同じ施設の中にある、イタリアンレストランに案内される。
ドレスコードのあるようなお店ではなさそうだが、店の内装や置かれているものから上品な雰囲気が漂っていた。
普段の休日の昼食など、簡単に作れるもので済ますことが多い俺にとって少々ハードルが高いように感じたが手がつながれていることで逃れることはできない。
そのまま店内に連行され、店員さん促されるままに席につく。
「お待ちしておりました、森田様。本日はシェフのおすすめコースをご予約いただいておりますがお間違いありませんか?」
「はい。予約通りでお願いします。」
千咲が事前にコース料理を予約していたようで特に注文することなく料理が運ばれてくる
前菜・パスタ・肉料理と進んでいき最後に
「食後のエスプレッソでございます」
とコーヒーが運ばれてきた。
久しぶりにコース料理なるものを食したためか思っていた以上に食が進み会話も弾んだ。
特に映画の感想はとても盛り上がり、上映後に見せようとしたサイトを見せると千咲さんは興味深そうな表情を浮かべていた。
☆☆☆
時刻は16時ごろ、集合場所にしていた噴水前に俺たちは戻ってきていた。
「あー!楽しかったー!今日はありがとうございました!それじゃあ、お約束通りこの画像は消去します」
そう言って千咲さんはスマホを操作すると完全に削除の項目をタップする。
「あ、もちろんバックアップとったりとかしてませんからご安心ください!」
「それならよかった。それじゃあ俺こっちだから。森……千咲の家はどっち方面なんだ?」
「家は先輩と同じ方面なんですけど、ちょっと駅前に用事があるのでここで大丈夫ですよ」
「そうか。それじゃあな。気を付けて帰れよ」
「はい!今日は本当にありがとうございました。こうやって男の人と二人きりで出かけるのは久しぶりだったんですけどとっても楽しかったです!またよろしくお願いしますね!」
そう言って俺とは反対方面へと消えていく。
(またってなんだ?もう二度とあいつと関わることなんてないだろう。まあ会社であったら挨拶くらいはできる関係になれたかな…)
「あー、つかれた……また明日から仕事だ……帰って飯食ってソッコー寝よう」
そんなことを呟きながら帰路につくのだった。
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