プロローグ5 千咲視点
「はい、お嬢ちゃん。着いたよ」
タクシーの運転手さんに声を掛けられる
先輩のお家の前に着きました。と言っても私の家と同じなんですが……けれどなぜか少し緊張してしまいます。
あれから起きることなく、西野先輩によってタクシーに運び込まれた先輩に軽く声をかけてみます。
「あのー。先輩、お家着きましたよ?降りられますか?」
「……」
話しかけてみても先輩からの反応はない。軽く揺すってみるがそれでも反応はありません。
こうなってしまっては仕方がありません。
私は先輩の腕を肩に担ぎ、タクシーからでることにしました。
「ありがとうございます。お金これでお願いします」
「はい、ちょうどお預かりします。お嬢ちゃん気をつけて帰ってね」
「あ、ありがとうございます!ちょ!ちょっと先輩!しっかりしてくださいよ」
足腰がフラフラの先輩をなんとかタクシーから連れ出します。
このままではらちが明かないと判断した私は耳元で大きな声を出します。
「先輩!お部屋どこですかー?」
すると数秒ほどして
「……809」
とか細い声で返事がありました。
私はその言葉を聞き、エレベーターに乗り込むと8階のボタンを押し、しばらくするとエレベーターが停止します。
降りてそのまま表札を確認しながら進むと一番奥に先輩の部屋をみつけます。
「あ……ここだ」
無事着いて安心してしまったからか、少し力が抜けてしまい先輩の腕が肩からずり落ちてしまいました。
「あ、すみません先輩!大丈夫ですか?」
先輩の方に駆け寄ると、それと同時にカランと何かが落ちる音がします。
音をしたほうを見ると鍵が落ちていました。おそらくずり落ちたときの衝撃で落ちてしまったのでしょう。それを拾い上げると一度先輩のことを壁に寄りかからせて鍵穴に滑り込ませます。
”ガチャリ”
予想通り鍵が開きます。
ドアノブに手をかけ扉を開き真っ暗な部屋へと入ります。
「お、おじゃましまーす」
小声で挨拶をし先輩を担ぐと、よろけながらもなんとか奥の居間に向かいます。間取りは私の家と全く同じようで、予想通り居間には小さなテーブルとベッドが置かれていました。
そこになんとか先輩をダイブさせ、やっと一息つきます。
はぁ……やっと着いた……それじゃあ帰ろう……
そう思いながら踵を返そうとした時背中にゾクリと嫌な予感を感じました。
(もうこのチャンスを逃したら二度と先輩とお近づきになれないかもしれない……)
そんな不安に駆られた私は後に思い返してもどうかしているとしか思えない行動をとっていました。
(ちょっとだけ……ちょっとだけなら大丈夫だよね)
そんなことを考えながら先輩にかけたお布団を剥ぎ取ると、ゆっくりと先輩の横に寝転がります。
(うわぁ男の人とこんなに近づいたの初めて……ちょっと汗臭いけどいい匂い……)
この状況にかなり照れてしまい一人で悶絶していると隣に寝ている先輩が
「んんっ」
と声をもらしもぞもぞと動きます。
(もしかして起きた……?)
先輩の行動に思わず硬直し冷汗がつたります。
バクバクと心臓が鳴ります。
(これ以上ここにいたら緊張で私の心臓がもたない……でも……私のエゴだってわかってるけどこの思い出が欲しい……)
そんなことを思った私は、なぜかとっさに腕を目一杯伸ばしてスマホで写真を撮っていました。
”カシャリ”
真っ暗な部屋に瞬間的にフラッシュが焚かれ思わす目をつむってしまいます。数秒して今撮った写真を見返してみると、ばっちり先輩と一緒に寝ている自分が写っていました。
(え……?なんで私こんなことしたんだろう)
そこではっと我に返った私は、自分のとっさの行動に困惑しながら慌ててベッドから抜け出し、鍵をかけ鍵をポストに入れます。
その後私はお酒と自分のとった行動で困惑した頭で自宅に帰ったのでした。
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