プロローグ3 千咲視点
「かんぱーい!」
ここは会社の近くの居酒屋。
私は今つい先日まで行われていたプロジェクトの打ち上げに参加していました。
新入社員である私は会社で行われる打ち上げが初めてなのでわけもわからずついてきてしまいましたが、妙な居心地の悪さを覚えていました。
その理由は簡単で、私がとった行動が相乗以上に評価されてしまい、先輩方に周りを囲まれてしまっていたからです。
そんな私の隣の席に座ってきた男性社員の方が話しかけてきます。
「千咲ちゃ~ん。俺は優秀な部下をもって鼻高々だよ!」
上機嫌にそう言い肩を組もうとする男性社員。
この人の名前は長谷部大悟はせべだいごさん、今回のプロジェクトで私の指導役をしてくださった先輩です。確かに顔は整っていて周りの女性社員の評判はすごく良いですが、この強引な感じとか私が叱責を受けていたときに責任を感じている様子がなかったところが私にはどうにも受け付けられませんでした。
あのプログラムだって長谷部さんの指示の通りに書いたのにです……
さりげなく肩に伸びてきた手を払いながら
「私が優秀なわけではありません。それにあのプログラムを作ったのは私ではなく高杉先輩です!」
と声を大にして主張する。しかし、高杉先輩のことを長谷部さんは認めていないようで不機嫌そうな表情になりながら
「俺よりもできのわるいあいつにそんなことできるわけないない!」
と正面から否定されてしまいました。
私はその発言を聞き胸がチクリと痛みましたが先輩の手前強く反論することができません。
そんな私の精一杯の抵抗で、誰の耳にもとどかないほどの小さな声で
(そんなことないです…)
と言い、うつむくのでした。
☆☆☆
飲み会も進みしばらくして周りに人が来なくなったころ、私はきょろきょろとあたりを見渡し高杉先輩を探します。
(・・・いた)
入り口付近の席に座りちびちびとお酒を飲む先輩の姿をみつけました。
あの日以降なかなかお会いすることのできなかった先輩の姿をみつけて思わず笑みがこぼれます。
私は周りの人に気づかれないようにそーっと立ち上がると先輩の背後に忍び寄ります。
「こんばんは!高杉先輩!」
少し驚かしてやろうと意気込んで声をかけてみたところ思ったよりも大きな声が出てしまいました。
「うおっ!」
予想通り高杉先輩は大きく肩を震わせて振り向いてきます。
「な、なんだ森田さんか…なにか用か?」
冷めた目でみつめてくる高杉先輩はすこし酔っ払っているのか顔が赤くなっていました。
「はい!改めてお礼をと思いまして」
そう言って先輩の隣に座る。
すると高杉先輩私が近くに座ることが迷惑だと思っているのか、体をずらし少し距離を取ってきました。
「いや…ほんとに大したことはしてないから。そんな過剰に感謝されても」
いままで男の人にモテることはあっても拒絶されることはなかった私は少し傷つきましたが、それでもめげずに今日の目的である先輩の連絡先を聞き出すことにしました。
しかし、いざ先輩にそのことを言おうとすると緊張で心臓がバクバクとなり。伝えたい言葉が出てきません。
「……あ、あの!そ…その…」
言葉に詰まる私をみて不思議そうに首をかしげる先輩
「な、なんだよ…」
「せ、せんぱいの連絡先教えていただけませんか!?」
私の発言が予想外だったのか先輩はしばらく無表情でフリーズしたあと
「は?え?」
と困惑した表情を浮かべます。
「「・・・・・・」」
そして、先輩から続く言葉はなく二人の間に居心地の悪い沈黙が流れます。
そんな沈黙を破ったのは私たちの正面に座っていた西野先輩でした。
「おいおい高杉!せっかく後輩ちゃんが勇気だして話しかけてきてくれたんやから、なんとかいったらどうなんだ?」
その言葉で我に返った先輩はスマホを操作し差し出してきます。
「あ、ああ……そうだな。これ俺のQRだから」
それを見て私は思わずガッツポーズをしそうになりましたがぐっとこらえて冷静を装います。
「ありがとうございます先輩!はい!登録できました!」
先輩のアカウントを登録し終え自分のスマホを見返し、ともだちの欄に先輩の名前を見つけて思わずにやけそうになる口元を押さえます。
私がなぜそこまでして先輩の連絡先を欲しがったのか……その理由は簡単です。
『私が先輩に本気で惚れてしまったからです』
我ながら単純だと思います。こんな簡単に人を好きになるなんて自分でも思ってもいませんでした。
けれど、人生最大とも言えるピンチを救ってもらっただけでなく、さりげなくされたフォローに私は否応なしに惹かれてしまったのです。
きっと先輩のことを狙っている人は他にも居ると思います。
けれど先輩だけは誰にも譲るわけにはいけません。誰にも負けない魅力的な女性になろうと私は改めて気合を入れなおすのでした。
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