プロローグ2

「森田!なんてことをしてくれたんだ……これじゃ納期に間に合わんぞ!」




デスクに手をつきため息をこぼす小林さん。




「すっすみません!今すぐ直します……」


「今日分の修正でどうにかなるならこんなに焦っとらん……」




いまいち状況がつかめない俺だが、会話を聞く限りかなり序盤からの修正が必要なようだった。




「えっ……ど、どうしたらいいでしょうか?」


小林さんのその発言を聞きあきらかにうろたえる森田さん




「対策はいまから考える。次の指示をするまでお前は外に出て頭冷やしてろ……」


マネージャーが冷たく言い放つ。




「……はい。申し訳ありませんでした」


かなり落ち込んだ様子で外に出て行った




「誰だよあの子の指導したのは……」


「はぁ、まじかよ……今週は帰れそうにないな……」


ひそひそと彼女のミスを噂をする声が聞こえる。


重大なミスを犯したことで彼女のことを励まそうとする人物は誰もおらず孤立してしまっていたようだった。




その空気がどうしても俺には居心地が悪く、近くにいた西野に声をかけ事態の詳細をきく




「西野、なにがあった?」


「おお高杉か。いや森田さんがだいぶやらかしちゃったみたいでさ。ちょっとこれみてくれ」




そう言ってパソコンの画面を見せてくる、そこには納品予定のプログラムが表示されている。


「昨日までは向こうの作ってた部分も問題なく動作してたよな?」


「そうなんだよ。ところが……ここまでは正常に動作していたみたいだが……」


といいつつプログラムを動作させる




「今日新たに書き足したプログラムを含めて走らせると……こんな感じにエラーがでちまうんだよ。しかもエラーが出るのがかなりの前半部分なんだよな」


そうしてエラー画面を俺に見せてくる。




画面を見ながら少し考え込む。


ふむ……このエラーなら前作ったプログラムを応用すればなんとかなるかもしれない




「西野すまない。ちょっと森田さんを呼んできてくれないか?」


新入社員とほとんど交流のない俺が行くより社内でも顔の広い西野に頼んだほうが良いだろうと判断し手を合わせて頼む。




「お、おう。お前がそんなこと頼むなんて珍しいな」


「なんだよ、悪いかよ?」


「いや。そんなことないが……ちょっと待ってな今呼んでくるから」


西野は慌てた様子で部屋から出て行った。




しばらくして西野が森田さんを連れて出てきた。泣いていたのか少し目元が赤くなっている。


なにも、全員が見ている前で追い込む必要はなかったのではないかと思うが、今はそんなことを言っている場合ではない




「あ、あの。お呼びでしょうか?」


西野に促されて森田さんが小声で話しかけてきた。




「ああ、あんなことがあった直後に呼び立ててしまってすまない。ここのエラーなんだがもしかしたら俺が前作ったプログラムを少しいじればすればうまくいくかもしれないと思ってね」




そう伝えると今まで沈んでいた表情が一転して希望のまなざしで見つめ


「ほんとですか!」


とすこし元気が戻った様子になる。




「ちなみにこの内容はわかるか?」


「は、はい!わかります!やらせてください」


「そうか、わかった。小林さんには俺から伝えておくから君はこの資料に沿ってこことここの部分を書き換えてくれ。分からなかったら聞いてくれていいし」


簡単な説明をし小林さんの元へ向かう。




「はい!わかりました!」


森田さんは俺の背中を見つめながら解決の糸口が見つかった安心からか先ほどよりも明るい表情をして作業に取り掛かり始めたのだった。




☆☆☆




2時間ほど経過したところ森田さんがバッと顔を上げてこちらを見てきた




続いて


『変更できましたので一度チェックお願いします』


社内用チャットが送られてきたので、立ち上がり森田さんのデスクへ向かう。




画面をのぞき込みながら


「一度プログラムを動かしてもらえるか?」


と問いかける。




軽く頷き、緊張した様子で実行ボタンを押す森田さん。


すると無事プログラムが動きだしエラーは発生しなかったので胸をなでおろす森田さん。




「うん。問題なさそうだな」


そう声をかけると、やっと安心できたのか




「ありがとうございました!」


とようやく笑顔で返事をしてきた。




その笑顔で俺の気が緩んでしまったのか、気が付くと森田さんの頭をなでてしまっていた。




急なことで真っ赤になる森田さん。


ようやく事態を認識した俺は慌てて手を放す。




「あっ!す、すまない!励まそうと考えてたらつい……」


言い訳をしてももう遅い。セクハラで訴えられてしまうかもと身構えていると




「だ、大丈夫ですよ!気にしてませんから!(もっとなでていてくれててもよかったのに……)」


と真っ赤な顔のまま答えてきた。




俺は自分のとった行動に動揺しながら


「本当にすまなかった。ま、まぁ……それじゃあ俺は自分の作業に戻るからマネージャーに報告だけよろしくな」




足早にその場から足早に立ち去ろうとすると


「すみません!先輩のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」


とスーツの袖を掴んできた。




「ああ、自己紹介がまだだったか。俺の名前は高杉恍作だ。これからよろしく」


そう答えると森田さんは小声でぶつぶつと呟いたかと思ったら




「私は森田千咲です!こちらこそよろしくお願いしますね高杉先輩!」


と満面の笑みで挨拶してきた。




その後、森田さんがマネージャーに修正終了の報告を終えると、辺りは安堵の声に包まれ森田さんに対するよくない噂もささやかれることはなくなった。


それどころかむしろこの短時間で修正したことが評価されたようで多くの人に囲まれていた。




森田さんは自分の功績ではないと必死に否定していたがそれがよけいに謙遜しているととられたのかさらに評価はうなぎのぼりとなっているようだった。

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