プロローグ1

夏真っ盛りの8月上旬。


前々から決まっていたプロジェクトの開始日ということで会議室に参加メンバー全員が集められた。




「よし、全員集まったようだな」


そう言い立ちあがったのは小太りした男性社員。


「今回このプロジェクトのマネージャーを任された小林だ。ほとんど見知った顔だとは思うが今回から新入社員業務に入るので自己紹介をしてもらう。森田さん前に来て。」




「はい!」


元気よく返事してこちらに向き直る。


「はじめまして!森田千咲と申します!プロジェクトに参加さていただくのは初めてですので至らない点も多々あるとは思いますが精一杯頑張りたいと思います。よろしくお願いします!」




緊張しているのか少し声が上ずっていたが先輩社員達の印象は良いようで温かい拍手が送られている。




俺の周りからは


「あの子かわいくないか?」


「それは俺も思った……」


などと彼女の容姿に関する話題が聞こえてくる。




その声を聞き改めて彼女のことをみると、確かに整った容姿をしていた。




ただでさえ女性社員の少ないIT関係の企業で目立った容姿をしてるとなると噂になっても当然かと思ったのと同時にまあ俺は新入社員と深く関わる部門ではないし彼女と関わることはないだろう……


なんてことをぼーっと考えているとまた小林さんが口を開く。




「なお、森田さんの教育係は長谷部に任す」


「はい、分かりました」




小林さんは長谷部の返事に満足そうにうなづくと


「それでは事前に通達した通りに各々業務に取り掛かってくれ」




その言葉を合図にぞろぞろと動き出す。その流れに乗って俺も部屋から出ようとすると一人の男が声をかけてくる。




「よっ!また同じプロジェクトに配属されたな」




こいつの名前は西野大智にしのたいち俺の数少ない社内で友人と呼べる同僚だ。


就職を期に上京してきた関西地方出身の男で、地毛だという濃い茶色の短髪をしており軽い印象を受けるが、仕事はしっかりこなすし口も義理も堅いことで俺はこいつのことを信用している。




「おう。お前もか今回もよろしくな」




軽く挨拶を返したところで西野は奇妙なことを言ってくる


「まあこの規模のプロジェクトともなれば俺はともかくお前は選ばれて当然だよな!期待してるぜエース様!」




こいつはいつからか俺のことをエースと呼んでくる。エースと呼ばれるほどのことをした覚えはないのにいい迷惑である。


「はぁ…なんでお前は俺のことをエースなんて呼ぶんだよ。俺なんかよりよっぽど長谷部のほうが信用も実力もあるだろ」




あきれながらそう言う俺に対して西野も俺にあきれた様子で返答してくる


「わかってないのはお前の方だよ!この前のプロジェクトだってトップでも分からなかった原因不明のバグを見つけたのはお前だったじゃねぇかよ」


「本当にあれはたまたま目に入っただけだ」


あんなバグ注意深く見ていればなんてことのないものだ。そんな大したことではないと言うもいまいち伝わっていないようで




「そうかい。まあそういうことにしといてやるわ」


あまり信じていない様子で西野はそう言い残しデスクに戻っていった




☆☆☆




あれから時がたち、プロジェクト開始から2ヵ月ほど経過した。


今のところどの部門も大きな遅れなく進行していたのだが、納期間近となった10月中旬に事件は起こった。




プログラムに重大なバグが発見されたのである。




ある程度業務が終わり、休憩がてら外に出ていた俺がデスクに戻ろうと部屋の扉を開けた途端


「おい!この部分を担当したのは誰だ!」




小林さんの怒号が鳴り響いた。




それによりしんとなるフロア。


そこでおびえたような表情で手を挙げた社員がいた。




ほんの数カ月前に元気な挨拶をしていたの森田さんである。


今は当時の表情は見る影もない。




「森田ちょっと来い」


小林さんの言葉にビクッと反応し。重い足取りで小林さんの元へ歩き出したのだった。

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