第7話 光と星空


 森の中をしばらく進むと、ポルカがゆっくりと動きを止めた。他の妖精族たちも、それに倣うように静止する。

 もう日はだいぶ落ちていて、あたりはもう少しもすれば暗闇に包まれる頃合いだった。


 ルカは森の中をきょろきょろしながら歩いていたせいで、ポルカが止まった事に気が付くのが遅れ、「おっと」と声を漏らしてつんのめる。

「ちゃんと前を見て歩きましょうね、子供じゃないんですから」と、クラリスが転びそうになったルカをそっと支えつつ、そう言葉をかけた。

「周りを警戒して歩いてたの!」

 ルカは少し恥ずかしそうにしながらも、語調を強めて言葉を返す。

「左様でございましたか、これは失礼を」

 クラリスは少し大げさに頭を下げた。ルカはますますムッとしたが、これ以上は何も言わずにポルカの方を見る。


「ええっと、着いたの?」

「はい、ここから先は妖精族しか通ることができないエリアになります」

 と、そう言うと、ポルカ含め8人の妖精族たちが互いに目配せをした。

 彼らはほぼ同時にふわりと今よりもさらに体を宙に浮かせ、ルカとクラリスの頭上を円を描くように飛び始めた。

「な、なにをしているの!?」

「今から、お2人もこの先に入れるように、させていただきます。少々お待ちください」

 先ほどよりも強く発光した8人の妖精族が、くるくると2人の頭上を飛び続ける。

 光の軌跡が美しい円を描きだすと、その中心から光の粉が降り注いできた。


「わあ、すごい」

 感嘆の声をルカが漏らす頃には、2人の体を光の粉が包み込んでおり、ぼんやりと光を放っていた。

 ポルカたちはゆっくりと降りてくると、少し疲れた様子で「これで中に入れるはずです」と言い、先へと進んでいく。

「この光は、魔素を視覚化したものでしょうか。私のデータベースにもありません」

「わたしも初めて見たわ。まるで星が降ってきたみたいだった」

 2人がそう言うと、ポルカは少し得意げな顔で振り返り「でしたら、この先はもっと美しいですよ」と言葉を添える。


 妖精族たちのあとをついて行く。

 森に続く道から逸れ、木々をかき分けて進んでいくと、途中で体が少しふわりと浮くような感覚に2人は襲われた。

 確かに地面に触れていた足が、宙を踏みぬく。目の前の深緑の木々の向こうに、巨大な空間があるとすぐにわかった。


 ――2人は、森に落ちた。


 一瞬、何が起きたかわからずに、ルカはあたりを見回す。世界が逆転しているように感じた。

 空中にひっくり返っているのだとルカが気が付いたのは、クラリスが隣で笑っているのが見えたからだ。

「ルカ様、すごいですよ。下を見てみてください」


 宙に浮いているのだとわかれば、制御は簡単だった。

 くるりと半回転すると少し場所がずれたのか、クラリスの顔がすぐ目の前にあり、ルカはドキリとする。


「私じゃなくて、ほら、下を」


 少しばかり、クラリスの整った顔に見惚れていると、彼女がスッと下を指さした。

 ルカは頬を少し赤くしながらも、クラリスが指さす方向に目をやった。


「……っ!なに、これ、すごい」

 ルカはそのあまりの美しさに、目を輝かせる。



 ――森に空いた、巨大な空洞に、星空が沈んでいた。

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