第5話 妖精狩りと魔女
「妖精狩りは、この森よりも南に位置する人間の国からくる者たちです」
ポルカは、憎々しげに言葉を紡ぐ。
ゆっくりと、冷静を装いながらも、その言葉の節々からは妖精狩りへの恨みがあふれ出していた。
「私たち妖精族は、もうだいぶ長いこと、この森で暮らしております。できる限り人間にはみつかぬよう暮らしてきたのですが……」
彼は、近くに落ちていた枝を手に取ると、濡れた土に簡単な絵を描きながら説明する。
「ある時、冒険者がやってきて、私たちの存在を知ってしまい。それを外の国に伝えてしまったのです」
ルカは、ポルカが土に描く線画を興味深そうに眺めながら、彼の話をうんうんと頷きながら聞いていた。
「それからの事です」と、一区切りおいて「妖精狩りはこの森に、何度もやってきました」
「彼らは私たち妖精族を捕まえて、国に持ち帰り売りさばくのです。人間からしたら、私たちはとても珍しい種族らしく、相当な高値で取引されると聞きました」
クラリスは、少しだけ首をかしげて「その話は、どなたからお聞きになったのですか?」と質問を投げかける。
「魔女様です」
ポルカは一言そういうと、すぐに言葉をつづけた。
「ルカ様が訪れるよりももっと前に、他の魔女様もこの森を訪れてくださいました。彼女も、旅をしているとおっしゃっていまして、この森にとある魔法をかけてくださったのです」
クラリスは大して驚く様子はなかったが、ルカは元々まるっこい目をさらに丸くした。
「え!だれ!?」
「ルカ様、話の腰を折るのは褒められませんよ」
「あ、そうだよね。ええと、ごめん」
そんなやり取りを聞いていたポルカは、少し微笑みを浮かべて「そんな、お気になさらないでください」と言う。
「“幻影の魔女、ファルム”と名乗ってらっしゃいました。彼女が、この森に私たちの国を隠してくださり、妖精族以外から国を知覚できないようにしてくださったのです」
それから続けて「森の上空からも見つからなくするため、森を飛び越えることができないような魔法もかけてくださいました」
「なるほど、だから私たちも、森が永遠に続くように感じたわけですね。私がスキャンを上空から森にかけても、何も見えなかったのも、きっとその影響でしょうか」
クラリスが、手を顎に当てて思い返すようにそういった。
「恐らくそうなのでしょう。申し訳ありません」と、ポルカは頭を下げる。
「ファルムかぁ……。聞いたことない人だけど、いい人なんだね!」
「はい、とても親切なやさしい方でした。彼女のような魔女様が、女神になられるのだと思います」
ポルカはそう言ったあと「いえ、決して私のアリステラ様への信仰が揺るぐというわけではなく……」と自身への言い訳を口にする。
「だそうですよ、ルカ様。ルカ様も、女神になるために旅をされてるのですから、学ぶことがありますね」
「わたしは別に!女神になりたいってわけじゃなくって!」
クラリスが挑発するように言うと、ルカはすぐにそれに反応した。
「魔女は、神格を得ると女神となる。ルカ様のお母さまが女神になったように、ルカ様もその道に進もうとなさっているのだと思っていましたけれど」
「何度も言ってるけど!わたしは!お母さまが“美しい世界を救いたい”だなんて言ってわたしを残して天上に行っちゃったから!お母さまが言う美しい世界ってのを見てやろうと思って旅に出てるわけで!」
声を荒げて反論するルカを面白がるようにして、クラリスは続ける。
「でも、さっき自分でおっしゃってましたよ『そうよね、じゃないと修行の旅の意味がないもの』って。これが修行の旅だって自覚している証拠じゃ――」
「クラリス!調子に乗りすぎ!」
「おっと、これは失礼しました」
と、クラリスがスッと冷静な面持ちに戻り「ポルカ様も、大変お見苦しい姿をお見せしてしましました。申し訳ありません」とポルカにも頭を下げる。
「いえいえそんな、将来女神様になられる方のお話ですから、とてもありがたいです。それでは、話を戻しますね」
ポルカはそういうと、さらに話をつづけた。
「妖精狩りは、私たちを長らく見つけ出すことができなくなりました。ファルム様のおかげでしばらくは、安全な時間が流れていきます。」
少し間を置き「しかし」と、彼は語調を強くして「妖精狩りは戻ってきたのです」
「彼らは、この森に火をつけました。火であぶりだせば、私たち妖精族が森から逃げ出してくるだろうと考えたのでしょう」
ポルカはその言葉を口にした後、悔しそうに唇をかみしめて。
「それで、このありさまになってしまった。というわけです。」
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