第2話 終焉霊薬
数日が経過した。
私は家の書斎に篭って大量に積まれた文献を読み耽っている。それこそ昼も夜も忘れ、ご飯なんて暫く食べていない。最低限の水だけ飲んで、ずっと、ずっとだ。食べなければ作業効率が落ちるとかそういう事を考えている時間すら惜しい。一刻も早くおばあちゃんを救い出さなければならないのだ。
「この術式を利用して......でもそれじゃあこの要素が......ならこの式を......ダメだそれじゃあ肝心の......」
あれから私はいくつかの魔術を使って治療を試みたのだが、その過程である事に気がついた。石化したおばあちゃんの体内にはまだ魔力が循環していたのだ。
それも外縁魔力......外部から取り入れる【
人は死ぬと体内に蓄えていた魔力及び生命力を世界に放出する。それが偶発的に生命力に刻まれていた個人の魔力情報を元にし、一定の形を得て現界し続けるのが俗に言う
つまり石化したとはいえ体内で根元生命力が流れているという事は、生命活動そのものが停止した訳ではなく停止したのは肉体的、物理的な生命活動であって精神的、霊的な生命活動は停止していないという事。故に私はおばあちゃんの呪いを解く方法を急いで見つけてなんとかしなければならない。
そしてさらに数日が経過して意識が朦朧とし始めたある時、遂に一筋の光が見える。
「なにこれ......【
大昔の文献の中に記されていた1つの霊薬、【終焉霊薬】。
説明によれば、この世に存在するありとあらゆる傷や病や呪いを癒し、死者すらも蘇らせる事の出来る幻の霊薬との事。
「本当に......本当にこれが存在するなら......ッ」
そういえばおばあちゃんが完全に石化する前に......
(さぁ、どうだろうね......少なくともここ50年、現実的なものは何も見つかりはしなかったさね......)
逆に考えればおばあちゃんは現実的では無い治療法は見つけていたという事になる。それが恐らくこれだ。
こんな眉唾な薬、有るはずがない。普段の私ならそう思うだろう。
だが......今の私はこれに縋るしか無かったのだ。
もう少し【終焉霊薬】について調べてみる。
【終焉霊薬】
この世の最果て、極北の地に伝わる奇跡の霊薬。判明しているのは一部の材料のみであり、その他の材料、製法は一切知られていない。その地域では『エンディア』と呼ばれている。魔術師界隈では【
伝わる効能としては、あらゆる疵を癒し、病を治し呪いを打ち消すなど。一部文献では死者の蘇生すら可能にしたと言う。
500年前の大戦時、この霊薬を使用した国もあるとされる。
判明している材料
・
・猛き亡者の塵
・龍王に連なる血を引く龍の逆鱗
・怨念と怨嗟を纏った骨粉
これ以降は失伝しており記載不可
「............」
あるのか無いのかもわからない薬で胡散臭いとは思ったけれどまさかか此処までとは。
でも......
「やるしか......ないよね」
あーだこーだ言ってたけどたった1人の家族で、私が一番大好きな人なんだ。絶対に助ける。
それなら善は急げって言うよね。早速準備を始めなきゃ。
「確かおばあちゃんが昔......」
「よし。こんなもんかな」
私の目の前には大きなバッグがあった。内部が4次元空間になっていて歪曲しているお陰で凄まじい量の物が入るという代物だ。中には指南書を読んで家中から集めた沢山の旅用品。これだけあれば外でも生きていけるはず。
自分の体を見下ろす。
動きやすいよう軽装に纏めたその衣服。皮の胸当てを付けて最低限の防護はしてある。
そして机の上にある物を身に付けていく。
特殊な
ろくに手入れもしていなかったのに全部新品みたいに輝いている。きっとそう言う魔術を付与されているんだろう。
1つ1つを身に付けていく。こんな時だって言うのにどうしよう、ワクワクして来た。
なんせ初めての外の世界なんだ。何もかもが楽しみで仕方がない。
「【
【
身なりを整えてローブを羽織る。
「あっ......おばあちゃんの匂いだ......」
優しくてほかほかで、なんだか安心する匂い。
あれ......なんだろう、涙が出て来た。でも、行かなきゃ。行かなきゃおばあちゃんは助からない。
見たところあの石化に掛かってからおばあちゃんの根源生命力は安定しているし乱れも殆ど無い。恐らく体の機能全てが停止しているから代謝とかもない。擬似的に時間が止まってるような物なんだろう。
おばあちゃんはこの家には昔から張ってある強力な認識阻害の結界があるから大丈夫なんだって言ってたけれど一応心配だから地下の隠し部屋におばあちゃんを移した。
「待っててね、おばあちゃん......必ず、必ず助けるから」
行き先はこの世の最果て。極北の地。
今まで森から出た事がないからこの森が私の世界。私の全て。でも流石にこの森が世界の全てじゃないって事くらい知ってる。
困難な事だろう。帰って来られるかもわからない。もしかしたら死んでしまうかもしれない......でも、やるんだ。
「よし、行こう」
こうして私は初めて、外の世界へ行くために家から一歩を踏み出した。
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