「決まってたんだよね」
頭にたんこぶを作ったカクリとベルゼは何故かお互いを睨み合い、今にも飛びつきそうな雰囲気を醸し出している。だが、二人は何も口にせず、頬を膨らませ不貞腐れたままだ。これ以上喧嘩を続ければ、次はゲンコツでは済まないと思っているため迂闊に動けない。
「そんな可愛い顔してもダメです。私は心を鬼にして貴方達を怒ります」
「可愛い顔は認めるのか」
「顔も鬼になってたけどな……」
明人と真陽留のボソッと呟いた言葉に、彼女は「何か言った?」みたいな顔で振り向いたため、目を合わせないように二人はすぐに顔を逸らす。
溜息を吐き、明人は本題に戻そうと咳払いをし、「とりあえず」と話し始めた。
「そういう訳で俺の記憶はしっかりと元に戻った。これで、お前の質問には答えたはずだ。他に何かあるか?」
脱線した話を明人が無理やり戻したため、音禰は怒っていた表情をいつもの顔に戻し、彼の方に向き直す。だが、冷静になった頭で明人の顔を見た瞬間、先程の告白を思い出し、またしても顔を赤くさせてしまった。
「えっと、そ、そうね。いや、まだ質問はあるわ!! 私達の記憶を消したあと、どうやって生活をしていたの?」
「今までと変わらん生活をしてたわ。匣を抜き取るとかはしてなかったけどな。それに、俺は半分この世の人間ではなくなってっから、お前らと同じ生活は送れない。まぁ、それだから、お前らの記憶を消したんだけどな。じゃねぇと気にするだろうしな」
「半分この世の人間じゃない──って」
明人からの簡単な説明に、二人は顔を悲しげに曇らせる。
明人は長い間カクリと契約をしていた。それだけではなく、片足以上
人間の体から徐々に離れていき、今では妖と言っても間違いではない。
一度、依頼人の一人が明人を写真に収めた事があるが、そこには何も映らなかった。その時から明人の体は、人間から離れていた。
「なら、なんで僕は普通に生活が出来ているんだ? 僕もベルゼと契約をしていたんだ。人間の体から離れていてもおかしくないと思うんだが」
「確かにそうだな。だが、お前はベルゼとの契約を解除した時点で徐々に戻っているはずだ。妖の力は使えば使うほど体に影響を与え、逆に使わなければ徐々に薄れていく。これが自然な流れだろ」
「それをわかっていたなら、相想はなんでカクリちゃんと契約を解除しなかったの? 記憶を取り戻した時点で解除すればまだ間に合ったんじゃ──」
「間に合ったかもしれねぇが、俺には餓鬼二人の面倒を見るという使命が課せられた。それに、俺自身、身分証、住民票、本籍などなど。俺がこの世にいるという証明が何もねぇんだよ。そんな中、お前らの街に戻ったところで面倒事が待っているだけだろうが。だったら人間ではなく、半人として生活した方が色々楽だろ?」
明人はケラケラと笑いながら言っているが、内容は笑って言えるものでは無い。
簡単に言えば、
「そんな──」
音禰は何か言おうと口を開くが、すぐに閉じてしまう。
複雑な環境で生きてきた彼にとって、今の生活が一番良いのを理解してしまい何も言えなくなる。だが、理解は出来ても納得は出来ず、気持ちが沈む。
真陽留も、軽口を言えず口を開こうとしない。唇を噛むほど後悔していた。
「────はぁ。だから、なるべく言いたくなかったんだよな……。とりあえず、俺は全く気にしてねぇ。だから、てめぇらもそんな顔してんじゃねぇわキモイ」
「ご、ごめんなさい」
「………悪い」
音禰と真陽留は謝るが、悲しげな表情は消えない。それに対し、明人は困ったような顔を浮かべる。その表情はすぐに物悲しいような笑みに変わり、諭すように口を開いた。
「本当に、なんも気にしてねぇっつーの。だから、まじでその顔やめろ」
彼の表情と言葉に、真陽留と音禰も気にしている訳にはいかないと思い、無理やりにでも笑みを作り明人に笑いかけた。
「ん、良かった。────んで、俺はまだ返事を聞いてねぇんだが?」
明人は悲しげな笑みを消し、少しムスッとしたような、不貞腐れているような顔で腕を組み音禰に聞く。
その姿を見て、彼女は少し吹き出し控えめに笑いだした。
「おい、何笑ってやがる」
「ごめんなさい。なんだか、相想が子供のように見えてしまって」
「はぁ? 馬鹿にしてんのか?」
「いいえ、違うわ」
彼女はまだ笑っており、明人は完全に不貞腐れてしまい「もういいわ」とそっぽを向いてしまった。
「ごめんてば。だって、相想が可愛く見えちゃったんだもん」
「今のお前でもそんな表情が出来るなんてな。子供二人と居て移っちまったのか?」
「お前らみたいな奴が自分が大人だと勘違いしている勘違い野郎どもなんだな、納得だわ。大人っつーのは年齢的な問題だけでなく、精神的でも見られてるんだぞ。今のお前らは人を馬鹿にする事を楽しんでいる餓鬼と一緒だな」
明人はいつもの嫌味ったらしい口調と表情で二人に言い放ち、それを見た二人はいつも通り怒り文句を口にする。それがいつもの流れなのだが、今回は違った。
真陽留は文句を口にしたが、音禰は困ったように笑っている。
「随分時間を稼いだな。しっかりと言葉は考えたんだろうな」
「話を無理やり逸らしていた訳じゃないけれど。でも、最初の相想の言葉の返事。決まったよ。というか、決まってたんだけどね」
目を逸らし、彼女は目を伏せる。その仕草を見て、明人は覚悟しているような表情になり、真剣な眼差しで音禰を見下ろした。
「時間はしっかり稼いだんだから、さっさと言ってくれ」
「えぇわかったわ。相想、私は──」
今、この瞬間。この場にいる人全員がその言葉を耳にし、そして──…………
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