「話してもらおうか」

「貴方は混ざらなくてもいいのかしら。一番の被害者じゃなくて?」

「まったくだわ。なんで一番の被害者である可哀想な俺が一番面倒な事をやってんだよ。ふざけんな」


 文句を口にしている明人だが、その顔は本当に怒っている訳ではなく、どこか安心したように二人を見ていた。

 それを彼女は「天邪鬼さんね」と小さく呟き口を閉じる。


「良い雰囲気なところ申し訳ないが、ベルゼ──もとい純彦について話し合おうか。半分決まったものだがな」


 レーツェルは明人をニコニコと笑みを浮かべながら見る。それに対し、彼は世界の終わりと思わせるほど顔を歪ませ、顔を青くした。


「唯一誇れる顔が台無しだぞ」

「安心しろ。俺のイケメン度はお前と違って消える事を知らない」


 必ず倍で返す明人の返答に、真陽留も怒るのに疲れ「はいはい」とその場で項垂れ肩を落とす。


「お前が面倒を見ろよ」

「生憎、俺はこの地を去る。連れて行くのは難しい。連れて行けない事は無いがやめておく事をお勧めさせてもらうぞ」


 レーツェルは言うと、あとは任せたと言うように口を閉じてしまった。


「なら、こいつを今すぐこの世から抹殺する」

「ほう、確かに今は前ほどの力はないが、傷だらけの人間相手だったら今の我でも負けぬぞ」


 明人はベルゼを見下ろし、逆にベルゼは強気で彼を見上げ、したり顔を浮かべた。それを音禰が慌てて中に入り、なんとか止める事に成功する。


「と、とりあえず喧嘩はやめようよ!! えっと、ベルゼさん?」


 音禰はベルゼと目線を合わせるように、目の前でしゃがんだ。


「なんだ、小娘」

「貴方はこれから相想達と一緒にいたいかなって思って。もしいたくないのなら、私の家で一緒に住まないかな?」


 音禰の申し出に真陽留と明人は目を大きく開け、カクリもその場に固まり、ファルシーはまたしても大笑い。レーツェルは感心したように「ほう」と音禰を見た。


「何を言っている。何か企んでおるのか?」

「残念だけど、私は相想ほど頭は良くないの。平均くらいよ。だから、何も企めない」

「それはそれで問題がありそうだがな」


 ベルゼは眉間を掴み呆れる。音禰が何を考えているのか分からず、見定めようと彼女と目を合わせるが、映るのは曇りのない純真な瞳。ベルゼが本当に困っているかもしれないと考え、善意から口にしている事しか分からなかった。


「────はぁぁぁぁぁぁあああああ。わぁったよクソが」


 明人が不機嫌丸出しでベルゼの首根っこを左手で掴み、持ち上げた。


「こいつは引き取ってやるよ。ただし、俺の言う事を聞かない場合は問答無用で殺すからな。覚悟しとけよ糞ガキ」


 ベルゼに言うと、返事の代わりに唾を吐き彼の顔にかけた。それにより、その場に勢いよく落とし、踏みつけようと明人は足を上げる。


「今すぐに殺してやるよくそ悪魔が!!!!」

「待って待って待って!!!」


 音禰が必死になって彼を止めているが、しっかりと折れている右手に負担をかけないようにと考えているらしく、腰にしがみついていた。


「なら、決まりだな。これからもあの小屋は自由に使うと良い。ベルゼが奪ったカクリの力は返し、今まで通り生活するがいい。結界についても問題は無い」


 レーツェルが言うと、真陽留と音禰は首を傾げ質問する。


「あの、レーツェルさん。相想は元通りの生活には戻れないのですか?」

「元通りとは?」

「明人は僕達みたいな一般的な生活には戻れねぇのか? もう記憶を集める事はしなくて──記憶? あれ、そういえば、音禰に預けてた記憶って──」


 真陽留がファルシーの方に目を向け、音禰も釣られるようにそちらに目を向けた。その視線を感じ、彼女は少し顔を青くし苦笑いを浮かべ、何かを誤魔化すように舌を出した。


「────てへっ。消えちゃった」


 静かな時間が進む。そんな中、明人と真陽留はその態度に対してなのか言葉になのか。怒りが限界を超え、ゆっくりと息を吐きながら近付いていく。その顔は般若のようになっており、流石のベルゼでも体を震わせ、ファルシーもマズイと思ったのか、冷や汗を流し上空に逃げた。


「あ、せこいぞ!!!」

「空飛べるこちらの勝ちよ!!」


 ファルシーが勝ち誇ったかのように高らかに宣言している。その顔はまだ青いが、逃げきれたという安堵が滲み出ていた。


 人間である明人達が上空に逃げた彼女をどうする事も出来ないと思っており、余裕綽々な態度をとっているのだが、その様子を横目に明人は拳ぐらいの大きさはある石を拾い上げ、高笑いしているファルシーに向かって思いっきり投げた。


 利き手ではないためコントロールはいまいちだったが、それでも的が大きい分、当てる事ができファルシーは地上へと落下。頭をぶつけてしまいく、手で支えながら起き上がると明人に肩を捕まれてしまい、そのままの体勢で固まった。


「さて、俺の記憶について話してもらおうか」

「────ひゃい」


 彼の圧に彼女は頷く事しか出来ない。汗を流しながらも、小さく頷く。そして、抜き取った記憶がどうなってしまったのか、事細かに話し出した。

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