記憶の欠片
「はい、終わり」
「ふざけるなふざけるな。なんでこうなる。俺は保育士じゃねぇんだよ。なんでだふざけるな。元々餓鬼なんて嫌いなんだよ。ふざけるな……」
今は洞窟の外まで移動し、林の中を六人が立っていた。明人一人、その場にしゃがみ頭を抱えぶつぶつと文句を呟き続けている。呪いでも呟いているような不穏な空気を纏っているように見え、音禰と真陽留は肩に手を置き、哀れみの目を向けた。
「そんな目で俺を見てんじゃねぇよ! 元はと言えばお前が原因だろうが!!」
「確かに事の発端は僕かもしれない。だが、言葉が足りなかったお前にも少しは責任があると僕は考えている。つまり、お前にも罪を償う責任があるという事だ!!!」
指を差し宣言したため、それにイラついた明人は死んだ瞳のまま、差された指を掴み普通なら曲がらないであろう方向に無理やり曲げた。
「いってぇ!!!! おい!!!」
「責任を俺に押し付けるのはやめろ。そういうのなんて言うかわかるか? 責任転換って言うんだ。これで少しはお利口になったな魔蛭ちゃん」
「やっぱりお前は死んでおくべきだと僕は思う!! あと、そっちの名前で呼ぶな!!」
拳を震わせ、殴ろうとする真陽留を音禰が優しく宥めた。
「まぁまぁ。相想は今怪我している訳だし大目に見てあげて。それと、今の真陽留に殴られたら相想は確実に死ぬ」
「あ──」
真陽留は今、ファルシーと仮契約をしている。寿命を捧げる事により自身の力を増幅さえ、人間ではありえないパワーを出す事が出来るようになっていた。
明人はそんな会話を横目に立ち上がる。
「おい化け狐」
「なんだ人間よ」
レーツェルはカクリの頭を撫でながら明人の方に目を向け、カクリも顔を顰めながら同時に彼を見上げた。
「あいつらの寿命は残りどのくらいだ」
「それはわからぬ事だ。俺にも分からない事はある」
その言葉に、明人は「そうか」と俯いた。真陽留と音禰はその事に顔を見合せ近付いていく。
「お前らしくねぇな」
「そうよ。寿命なんて誰にも分からないじゃない。必ずその時は来るのだから、今は気にする必要無いわ」
二人は明人を慰めるように言うのだが、明人はげんなりしたような表情で言い放つ。
「いや、お前らがいつ死んでも俺には関係ねぇよ。ただ、俺を助けた事で寿命が縮んでいるのが嫌なんだ。死ぬなら俺の関係ない所でくたばれや」
明人の言葉に、真陽留は握り拳に息を吹きかけ、音禰は弓矢を静かに取り出した。
ファルシーは先程から笑っており、腹筋崩壊一歩手前。もう声すら上げていなく、震えるだけになっていた。
「まったく、この男は本当に素直ではないな。いつ素直になるというのだ」
「俺はいつでも素直だ」
「「それは無い」」
カクリ、真陽留、音禰の言葉が同時に重なる。
「そんな事より、人間はしっかりと
レーツェルは真陽留と音禰に指示を出す。その言葉に顔を見合わせる二人だが、言われた通りレーツェルの前に並び、ファルシーも涙を拭きながら二人の間へと入った。
「さて、では──」
レーツェルは自身の狐面に手を置き、息を吐いた。
「堕天使との契約を全て解除し、彼女へと送られた寿命を元の持ち主に戻す」
今の言葉に、真陽留と音禰は面食らいキョトンと目を丸くする。それを気にせず、レーツェルは狐面を取り力を解放した。
「では、ゆくぞ──」
言葉と共に、彼から黒い力が放たれ始め、増幅された力は今の真陽留と音禰にも感じる事ができ、顔を強ばらせた。
レーツェルは三人に右手を伸ばすと、急に三人の体が金色に光り始めた。
真陽留と音禰は光出した自身の手を見てどうすればいいのか分からず焦る。体には痛みとかは無く、ただ何が起きているのか理解できず困惑するばかりだった。
そして、その様子を気にせず真面目な表情でレーツェルが、横一線に手を動かす。
「────はい、終わり」
「「へっ/えっ?」」
彼は再度右上に狐面を付け直し、笑顔で三人に終わりを伝えた。だが、体になんの異変も感じなかった二人は、本当に寿命が戻ったのか分からない。自身の体を色々触ったり、お互い顔を見合わせている。
困惑する二人に、ファルシーは冷静に音禰の目に手を添えた。
「あの、ファルシーさん?」
「────うん。確かに。戻っているらしいわね」
手を離し、ファルシーは優しい笑みを浮かべながら、安心したようにボソリと呟く。
「あの、本当に戻っているのでしょうか」
「なら、確認してみるといいわ」
ファルシーは簡単に言うが、寿命など確認出来る訳が無い。
二人はさらに困惑してしまい、明人に助けを求めた。その視線を受け、彼は面倒くさそうにため息をつき頭を搔く。
「普通に、さっきまでの力を使えるか確認すれば済む話だろ。力と引き換えに寿命を戻すんだからよ。しっかりと聞いとけ」
「聞いとくも何も……」
「そこの化け狐は何も言ってなかっただろうが!!」
真陽留は色々な事に怒りが芽生え、思いっきり明人に怒鳴った。だが、それすら彼は気にせず明後日の方向を向いている。これ以上の口論はめんどくさいと感じていた。
「とりあえず、試してみるが良い」
カクリはレーツェルから離れず無理やり話題を戻し、二人は渋々と言った感じに力を使おうとする。だが、音禰の手には弓矢が現れず、真陽留も首を傾げている。先程までの感覚と何かが違っていた。
「力が」
「使えねぇ」
二人は顔を見合せ、ファルシーを見た。
「そうね。契約はしっかりと解除、寿命は戻っているはずよ」
ファルシーは優しい笑みを二人に向け「良かったわね」と言う。そこでやっと、全てが解決した事を実感し、音禰はその場に泣き崩れ、真陽留もその肩を支える。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
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