「安心できる方法だ」
音禰と真陽留はいきなり現れた少年を見て困惑した。
銀色の髪は乱雑に切られており長さがバラバラ。服も至る所が破れていたり、サイズも合っていないと分かるほど小さい。体には古傷が刻まれており、痛々しい。
「これが、悪魔の正体か」
「悪魔の正体って──まさか」
「そのまさかかもしれないわね。恐らく、ベルゼは元人間。恨みにより悪魔と契約、又はすべてを捧げ自身が悪魔となってしまった、可哀想な少年らしいわ」
悲しげに見下ろし、ファルシーは淡々と説明した。それを聞き、音禰と真陽留は顔を俯かせ悲しげな表情を浮かべる。
こんな小さな体でどんな生活をしてきたのか。なぜこんなにも傷付き、悪魔と契約するまでの大きな恨みを内に秘めてしまったのか。
音禰と真陽留には、想像すら出来ない悲惨な出来事がこの少年を襲っていた。その事実に、二人は言葉が出ない。
その時、明人とカクリがピクっと動きだし、目を覚ました。
「んっ、あ?」
「んん……。ここは──」
明人とカクリは目を覚まし、少し困惑気味に周りを見回す。そこには少年に同情の眼差しを送っている二人と、眉を下げ悲しげに微笑んでいるファルシーの姿があった。
「お疲れ様。成功したみたいよ」
ファルシーが明人に向かって言い、ベルゼの方に目線を移した。
明人とカクリも彼女の目線を追うように、彼の方を見る。
そこには、長身の性悪っぽい悪魔ではなく、親を求め、寂しがって寝ている少年の姿。二人は悲しげに目を細めた。
少年の隣には黒い液体が入った小瓶が転がっており、明人はその小瓶を拾い上げ、中を覗き込む。
そこには残虐に殺されている男女や、連れ去られている純彦の姿が映し出される。彼はそれを見てすぐに小瓶を下ろし、目を閉じた。
カクリも少し悲しげに明人を見上げる。
「あの、だいじょ──」
音禰が明人に手を伸ばし声をかけようとした時、今度は少年が目を覚ました。
「んっ──あ? ここは」
目を覚まし周りを見回した少年は、少し眠たそうに目を擦り、首を傾げていた。
最初、音禰と真陽留は警戒してしまい体を震わせる。だが、明人とカクリ、ファルシーはただ少年を見ているだけだったため、警戒していた二人も肩の力を抜き、少年を見た。
「おい、お前はベルゼか。それとも純彦か。どっちだ?」
明人が問いかけると、少年は小さな口を開き名前を名乗った。
「我は、ベルゼだ」
その言葉に、真陽留と音禰は体を震わせ弓矢を構えたり、拳を握る。だが、それをファルシーが止め笑みを見せた。
「少し、三人に──いえ、
ファルシーが笑みを浮かべながら言ったため、真陽留と音禰は渋々武器や拳を下ろした。
「今のお前は純彦じゃねぇの?」
「純彦の時の記憶もしっかりある。だが、今は確実にベルゼだ。我は封印されたのでは無いのか」
不思議そうに彼は自身の手を見る。想いの空間で明人とカクリにより封印されたはずなのだが、なぜか今明人の目の前にいるのは見た目は純彦、中身はベルゼという人物。今の現状に明人はわざとらしく首を傾げカクリに質問する。
「封印したはずなんだがなぁ。どこで失敗したんだカクリ」
「ふむ。私も力が半減していたのでな。もしかすると、途中で力が切れてしまったらしい。それにより、封印が中途半端になってしまった可能性がある」
最もらしい言い訳を二人が口にしていると、洞窟の出入口から笑い声が聞こえた。
「ククッ。それはさすがに苦しいと思うぞ、カクリよ」
その場にいる全員が声のした方に目を向けると、そこにはしっかりと狐の面を右上に付けたレーツェルが口角を上げ立っていた。
「レーツェル様!!」
「お疲れ様だカクリ。長い事、大変だったらしいな」
「まったくです。あの人間、いつも自分の事さえ私にやらせるので……」
カクリはレーツェルに向かって走り出し、明人に目線を送りながら愚痴をこぼしていた。それを、彼は右から左に流し聞いていない。
音禰はその光景を微笑ましそうに眺め、真陽留は呆れたように頭を支えていた。
「さて、ベルゼとやら。これがラストチャンスというものだ」
レーツェルはカクリの頭を優しく撫で、ベルゼに近付きながら得意げに言い放つ。
その言葉を聞き、彼はその場に立ち上がりレーツェルを見上げた。
「ラストチャンスだと?」
「そうだ。今のお主は半分悪魔、半分人間みたいなものだ。黒い匣──つまり、黒い感情を抜き取ったため、悪魔の力は半減している。そして、残り少ない力もあともう少しで失うだろう」
彼は得意げな顔から、真面目な表情に切り替わり説明を続ける。明人とカクリもそれに耳を傾けていた。
「分かっておる。ラストチャンスとは、なんの事だ」
「お主には三つの選択肢がある」
指を三本立て、説明を続ける。
「三つ?」
「そうだ。一つ目は、このままカクリに力を返しこの世を去る。二つ目、現世に留まり俺の元で生き続ける。ちなみにカクリに力を返す条件でな」
レーツェルは少しここで口を閉じ、明人を見る。その目線の意味を理解できず、彼は不機嫌そうに睨み返した。
「ふっ、そうだな。三つ目、カクリに力を返さなくても良い」
その言葉にベルゼとカクリは驚き、それが面白いと感じ、明人は口元に手を置き笑いを堪えていた。それをカクリがキッと鋭く睨みつける。
「返さなかったら、どうするんだ」
「返さなくても良いが──ふむ。これが一番面白い結末になりそうだぞ」
勿体ぶるレーツェルに、ベルゼはだんだんイラつき始め、こめかみをぴくぴくと震わせ始めた。
「さっさと言えよ!!」
痺れを切らしそうになるベルゼを面白そうに見る明人。だが、その笑いも次のレーツェルの言葉で一瞬にして消え、そのままの表情で凍りついた。
「カクリに力を返さなくても良いが、これからも明人──もとい、相想の元で過ごす。ふむ。やはりこれが一番現実的で、面白く、安心出来る方法だ」
レーツェルは満面な笑みを浮かべながら明人の方に振り向いた。だが、その視線を向けられている本人は思考が止まっており、珍しく何も文句を言わず彼を恨めしそうな目で見ている。
カクリも同じく、体を震わせながら彼に目を向けていた。
この中で大笑いしているのはファルシーただ一人。お腹を抱え、涙を流しながら大爆笑している。
「………………ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
明人の怒りに任せた叫び声は、洞窟の外にまで響き渡るほど大きかった。
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